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コラム

最終更新:2024.05.22

原動力は未来への思いと人づくり。世界が注目する徳島・上勝町「ゼロ・ウェイスト宣言」

徳島県の山あいにある上勝町は2003年、日本初の「ゼロ・ウェイスト(ゴミゼロ)」を宣言しました。現在13種類45分別に取り組み、2020年にはリサイクル率80%を達成。現在もさらなる目標にむけて、住民が一体になってチャレンジを続けています。
取り組みの現状や課題について、上勝町役場の栗林七波さんにお話を伺いました。

「美しい自然を残したい」思いが町をひとつに

――2003年の「ゼロ・ウェイスト宣言」以来、持続可能なまちづくりのパイオニアとしてチャレンジを続けられている上勝町の概況から教えてください。
栗林 上勝町は面積の約9割が山林で、その中の急傾斜に畑や田んぼ、家が連なる、2024年4月時点で人口1368人、約700世帯が住む小さな町です。主な産業は農業で、柚子、柚香、すだちなど柑橘系の栽培が盛んに行われています。
また町の施策としては「いろどり」という日本料理のつまものに使われる葉っぱの栽培・生産・出荷事業の推進、後継者育成のほか、今回ご説明するゼロ・ウェイストやSDGsの取り組みなどの政策を進めています。
栗林 七波(くりばやし なな)
栗林 七波(くりばやし なな)
平成29年に徳島大学卒業後、観光PR等に携わる仕事に就く。令和2年に上勝町に入庁し、リデュース・リユース・リサイクルの促進に関する業務や資源回収業者の入札に携わる。上勝町の毎月の資源量および処理費の管理、再生可能エネルギー設置促進業務も担当。
――日本初の画期的な宣言に至るまでの経緯はどのようなものだったのでしょうか?
栗林 今でこそそう言っていただけますが、上勝町では1997年まで「野焼き」といって、地面に掘った穴にほとんど全てのゴミを入れて燃やしていました。法律で野焼きが禁止されることになり、県から適正な処理を行うよう指導を受け、焼却炉を導入。容器包装リサイクル法に則った9種類の分別を開始しました。ところが、2年後にダイオキシン規制強化により焼却炉の新基準がクリアできず、焼却炉の閉鎖か新設かを迫られる状況になってしまったのです。
新設費用は膨大で、町全体のゴミの量が少なすぎて焼却炉の稼働が非現実的だったため、「それならできるだけゴミを減らしていこう」と判断し、資源回収業者 を探しはじめました。その結果、処理できる資源が増え、それにつれて分別数も増えていきました。
そんなとき、アメリカ・ニューヨークですでにゼロ・ウェイスト活動をされていたポール・コネット博士が、上勝町の活動を知り、実際に町に来ることになりました。私たちの活動が「ゼロ・ウェイスト」の理念に近いこと、同じ目標を持って取り組むメリットをお話いただき、当時の笠松町長が議会での承認を得て、2003年に宣言に至りました。
――宣言にあたって課題やハードルはなかったのでしょうか。
栗林 宣言時よりも、焼却炉閉鎖に伴う22種類の分別への移行が大きなハードルだったと聞いています。
切り替えの期間が1ヶ月程度しかないなか、当時の廃棄物担当のほか職員が手分けして、各集落を訪ねて説明に回ったそうです。町の焼却炉が使えなくなること、このままでは今ある上勝町の美しい自然を子どもたちに残せないので、限りある資源をできるだけ燃やさず活用していきたい、という内容を説明し、町民のみなさんも子どもたちに自然を残していきたいという思いが強く、資源回収が進むことになりました。
それから宣言まで5年ほど経ち、ポール・コネット博士に認めていただいたことで、「わたしたちがやっていることってゼロ・ウェイストという運動だったんだ。世界的に見ても間違っていないんだ」とモチベーションになり、宣言自体はすんなり受け入れていただいた感じです。
――素晴らしいですね。とはいえ13種類45分別というのは、現実的には結構負担が大きいのではないかと思うのですが、町民のみなさんの反応はいかがですか。
栗林 そうですね。私も町民として分別しているんですけど、面倒くさいは面倒くさいです(笑)。でも家庭で出るゴミは大体9〜10種類ぐらいなので、日々の分別というのは、多分他の地域の皆さんとそんなに変わらないと思います。
実際にはゴミステーションのすべてのコンテナに細かく表示がありますし、スタッフもいて「わからないものは聞いてください」と案内をしています。45という数だけ聞くと負担が大きく感じますが、町民の方が戸惑われることが多いものを細分化し、できるだけ分別しやすいようにした結果、45まで増えたというのが実際のところです。
移住者の方は最初こそ戸惑われますが、元からお住まいの方は、1997年から徐々に増えてきたものなので、「数は多いけど慣れてくれば大丈夫」というご意見が多いですね。
上勝町役場 ゴミ分別ガイドブック (9559)

via 上勝町役場 ゴミ分別ガイドブック
――なるほど、45という分別数はユーザーファーストの視点に立った結果なんですね。ところで、町のゴミが集まる「ゼロ・ウェイストセンター」はとても素敵な建物で、視察やイベントなども実施されていますが、それらの反響はいかがですか。
栗林 2020年にセンターをリニューアルするまで、「ゴミは不衛生」というイメージがあるのか、視察以外で訪問されることはほとんどありませんでした。しかし現センターは町民の方がご自宅で使っていた窓や家具などを組み合わせて造られており、とても親しみを感じていただいています。また建物を一つのアート作品として興味をもつ方が来てくださり、リニューアル前と比べて来訪者の幅がすごく拡がった印象があります。
併設されているホテルも、建設前は「ゴミ捨て場の脇のホテルなんて誰も来んから絶対やめた方がいい」という意見もあったそうですが、予想以上に興味のある方がいらしてくれて、とても順調に運営しています。
ゴミステーションは町民の方のゴミしか処分できないのですが、HOTELWHYに宿泊に来た方は、自分の部屋で出たゴミをゴミステーションで分別体験していただけます。私たちの取り組みを聞くだけではなく、実際に分別体験ができるこの宿泊パッケージに、多くの方が興味を持ってくださっています。
また、町内の事業所や飲食店も食品ロス対策に取り込んでいるため、ゼロ・ウェイストセンターに来訪された方がその話を聞いてお店に行かれることもあり、町内での繋がりが生まれて、連携もしやすくなりました。
――消費者・事業者・行政といったステークホルダーとの課題はありますか?  
栗林 町としてはマスクなどの衛生ゴミや革製品などの焼却、プラスチックとガラスなど複合製品の埋め立てが課題です。生産者にはリサイクルまで視野に入れた商品を製造してもらえると助かるのですが、すぐにはできません。なので現状は、生産者との連携も進めつつ、一方で捨てられたものをどうリサイクルしていくかというチャレンジをしています。
例えば、子どもたちが学校給食で飲んだ牛乳パックで樹脂を強化した給食トレイや、詰め替えパウチの空き容器を利用し、子どもが遊べるおもちゃにするなどの実証実験をやってきました。子どもたちへの環境教育としてもできるだけわかりやすく、目に見える形で知ってもらえるような工夫をしています。
私たちもリサイクルに関してはまだ素人なので、増えているお問い合わせのすべてに対応するのは難しく、課題解決というところまではいかないのですが、できる限りがんばっていきたいと思っています。

他地域からの来訪者も増加

――移住者は増えているのでしょうか?
栗林 移住については近年、年間40〜50人ぐらいの転入があり、その理由にもゼロ・ウェイストが挙がるようになりました。「自然が好きだから」という方が多く、取り組みに対してクリーンなイメージを持っていただいていること、子どもたちが大きくなった時にこうした取り組みが当たり前になると考えて、「今からそういう暮らしのなかで育てたい」という理由が増えています。
――他地域からの視察者数はいかがですか?
栗林 視察者数については、ゼロ・ウェイストともう1つ、「いろどり」という葉っぱビジネスの視察を併せて、年間2,000人ぐらいの方にお越しいただいています。
特にコロナ禍以降、リモート会議でのやり取りができるようになってからは、メディアの取材などを含め、お問い合わせが増えました。民間事業者さんにもご協力いただきながら、海外からの視察にも対応しています。

海外が注目する「人づくり」の力

――ここまでのお話しで、実行が難しく時間もかかりそうな課題に対し、町全体で取り組まれている印象を受けるのですが、町長や役場以外に民間でリーダーシップを取られている方がいらっしゃるのでしょうか。
栗林 起点はゼロ・ウェイストへの関心が高かった笠松町長を筆頭に役場で進めてきたものです。現在の花本町長も、リサイクルに対しての政策には前向きに取り組んでいます。
ですが、役場だけでは難しいので6名の「ゼロ・ウェイスト推進員」を委嘱しており、飲食店の経営者や子育て中の保護者、移住者の方などそれぞれの分野で活躍していただいているところです。センターの運営や仕組み作りも一緒に考えてもらうなど、役場と町民の間に立つお仕事をしていただいているのですが、推進員の行動力と信頼がとても大きいため、「あの人が言うんだったら一緒にやろうか」言ってくださる方も多いんです。私たちも本当に助かっています。
――このような方法は「日本人だからできるのであって、海外だと難しいのでは」という声も聞いたりするのですが、実際はいかがでしょうか。
栗林 確かに海外から視察にいらした方などに「町民の意識はどうやって醸成されたのですか」という質問が多く、上勝町の「人づくり」の取り組みに関心をもっていただいていることを実感します。町長や推進員など、キーパーソンの重要性を再確認できたことや、昔から地域行事を一緒にしてきた町民同士のつながりから、「地域の人がみんなでそうしようっていうんだったらがんばろうよ」という気持ちになっていただくことができ、その流れをお話すると、人々の意識改革が上勝町は上手だったのですね、と多くの方が言ってくださいます。

未来に向けて強める横の広がり

――現在は上勝町と同じようなゼロ・ウェイスト宣言を行っている自治体が上勝を含めて5つありますが、それらへの働きかけや連携の動きみたいなものはあるのでしょうか。
栗林 2024年2月には、ゼロ・ウェイスト宣言をした自治体が上勝町に集まって、会議が開催されました。廃棄物担当者同士の情報交換を目的としており、リサイクル処理を進めている事例の紹介など、宣言自治体同士の取り組みを共有できました。
しかし、人口の多い都市などはゴミの量が多く「上勝町のようにはいかないが、自分の町にあった仕組みを模索したい」というご意見もありました。
――今後は、町内に集中するのか、またはもっと大きな全国規模のムーブメントにしたいなど、何か展望などを聞かせてください。
栗林 町として目標に掲げている「人づくり」という観点でお話を聞きに来てくださる方や、学校単位で学びに来てくれるところが増えているので、これからは子どもたちへの教育の取り組みを強化していきたいと考えています。
日本全国の方たちに向けて、もっと受け入れの幅を広げ、仲間も増やしていけるように、これまで町が蓄積してきた情報や携わってくれた方々のノウハウを、カリキュラムとしてお伝えできる仕組みを作ろうと考えて、進めているところです。
また、これまでは町内だけで食品ロスやゴミゼロのイベントをすることが多かったのですが、環境省や外務省と連携して都心部でレセプションを開いた際、一般の方や企業に対して町をPRできる機会となりました。これからも外部への発信を強めながら、町の課題を解決しつつ、将来的には各地にゼロ・ウェイストを牽引できるような影響力となれるよう、がんばっていきたいと思います。

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