脱炭素先行地域 北九州市「稼げるまち」へのGX戦略 - Green&Circular 脱炭素ソリューション|三井物産

コラム

最終更新:2024.09.24

脱炭素先行地域 北九州市「稼げるまち」へのGX戦略

世界全体の動向に併せ、日本政府が掲げた「2050年までに二酸化炭素の排出量実質ゼロ」という目標。その実現に向けて、各地でさまざまなイニシアティブが発足しています。
環境省による脱炭素先行地域にいち早く選定され、環境先進都市と呼ばれる北九州市が立ち上げた「北九州GX推進コンソーシアム」もその一つ。今回はそのメンバーの一員である北九州市 産業経済局 未来産業推進課のみなさんに、コンソーシアムが生む新たな価値の可能性について伺いました。

「産学官金」のオール北九州体制

――北九州GX推進コンソーシアムの活動内容や設立背景について教えてください。
福田 このコンソーシアムは、北九州地域のカーボンニュートラルの実現と、地域産業のグリーン成長を目指し、2023年12月に設立された組織です。人材育成・企業支援・研究開発促進を通じて、経済と環境の好循環を実現し、持続可能な地域発展を目指しています。
立ち上げには、国が2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、これからの10年間で150兆円のGX投資を見込んでいる背景があります。これを地域全体が成長するチャンスだと捉え、企業や商工会議所などの「産」、北九州学術研究都市の強みを活かした「学」、我々のような「官」、銀行をはじめとする「金」のオール北九州で連携して設立され、2024年5月末の時点で200社以上の団体が所属・参加しています。また、コンソーシアム自体は、北九州市以外の企業や団体の方も参加が可能です。
岩本 真幸(いわもと まさゆき):右
北九州市産業経済局未来産業推進課 課長
2002年北九州市入職。日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社への出向、海外や東京、省庁での勤務など、多様な経験を活かしながら、2024年4月から現職。北九州市のGXを盛り上げ、存在感を高めるための取組みを進める。
福田 修(ふくだ おさむ):左から2番目
北九州市産業経済局未来産業推進課
GX推進担当係長
2000年北九州市入職。これまで企画部門(国家戦略特区)、税務部門、公営競技部門などに従事。環境分野では宮城県石巻市の災害廃棄物受入れや内閣府での環境未来都市業務を担当。2023年4月から現職。産学官金オール北九州でGXに取り組む「北九州GX推進コンソーシアム」の企画・創設メンバー。
前田 裕佳(まえだ ゆか):右から2番目
北九州市産業経済局未来産業推進課
主査
2015年北九州市入職。子育て部門、内部管理部門をはじめ、地方創生プロジェクトとして初の地方開催を実現したTGC北九州を担当。2024年4月より、現職で初めて産業振興や環境政策に携わる。北九州市の環境先進都市のブランドを活かし、GXコンソーシアムから全国に先駆けた取組みを進める。
岩城 貴志(いわき たかし):左
北九州市産業経済局未来産業推進課
主査
2022年12月より日本アイ・ビー・エム株式会社より北九州市へ出向中。日本アイ・ビー・エムでの経験や知見を活かし、DXやGXについて地域企業への支援を実施中。最近の生き甲斐は、北九州GX推進コンソーシアムのWebサイトへのコラム投稿。
――市職員であるみなさんは、どんなことを担当されているんでしょうか。
岩城 コンソーシアムには4つの柱があります。まず1つめは最先端の研究開発と社会実装、2つめはその技術を梃子にしたGX関連産業の集積、3つめはGX人材の育成と、そして、4つめは地域企業のGX支援で企業変革を促進することです。私たちは、すでにGXを進めている大企業だけでなく、市内に多数ある中小企業にこの取り組みを知ってもらうことが最初のミッションだと考えています。
例えば、大企業が進める事業において、中小企業に対する部品やパーツへの脱炭素に関するニーズが今後出てくると思われますので、将来を見越して商機を逃さないようにしましょうという呼びかけを行っています。企業の理解のもと、具体的に参画してもらうために、CO2排出量可視化ツールの無償提供等、できるところから進めていきたいと考えています。
――コンソーシアムへの関心は、現時点でどう感じていますか。
福田 2023年10月に、東京大学未来ビジョン研究センターの高村ゆかり教授と江守正多教授を呼んでGXシンポジウムを開催しましたが、定員の150人は満席でした。12月の設立総会にも300人近くの方がお越しくださり、翌1月には、自治体としては初の開催である「北九州GXエグゼクティブビジネススクール」にも15社27名の参加があり、関心の高さを実感しています。
最先端の情報がほしいという志高い中小企業の経営者の方が多いのですが、一方で、実際何をしたらいいのか分からないという悩みもあるようです。まずは意識の高いみなさんの気持ちに火をつけて、一緒に活動を大きくすべく、尽力していきたいです。
――産学官に加え金融機関「金」との連携は非常に特徴的だと思うのですが、実際に協働してみた印象はいかがですか。
岩城 金融機関は、GXに取り組んでいる企業を繋ぎ、一緒に企業訪問をしていただく等、とても協力的です。私たちもまずは企業のみなさんの課題をお聞きしたかったので、大変貴重でありがたかったです。また、金融機関のみなさんも、GXに関連したESG投資やインパクト投資などの金融商品はあるものの、審査項目が多く、なかなか進まないといったお悩みもあったようで、協働することはお互いに価値のあることだったと思います。
――半年間で200以上もの団体が参画したとのことでしたが、北九州市はもともと環境意識が高いのでしょうか。
福田 それはあると思いますね。北九州は、脱炭素先行地域である他に、環境モデル都市や、環境未来都市、そして、SDGs未来都市にも認定されており、環境先進都市としてのブランドがあります。
また、北九州学術研究都市では、20年以上にわたって環境系、情報系の研究を進めており、実証実験などの取組みも進めやすいといったことも関係していると思います。日本製鉄、TOTO、安川電機などのリーディング企業の存在も含め、GXの推進における高いポテンシャルがあります。
全国市町村の産業部門におけるCO2排出量の平均は約3割ですが、北九州は素材系の産業が集積していることもあり6割を占めています。それだけに我々としては、企業のみなさんにGXは成長のチャンスですと言い続けていく必要があると思っています。
――CO2排出量可視化ツールを2000社に無償提供、と聞きました。非常にインパクトがあるキャンペーンですね。
岩本 GXに関連するビジネスを展開するにしても、その第一歩としてまず現状を知ってもらうために、「測る」ことを計画したキャンペーンです。ツールの提供は、北九州市に新たに進出された企業に連携協定の一環としてご協力いただきました。2000社という数は大きいですが、私たちがオール北九州で取り組むことでそれだけの可能性があるという期待をこめた数字として設定しました。簡単な手続きだけで始められますので、気軽に登録していただければ嬉しいです。
また、この無償提供と同時に、GXを事業戦略に取り込みたい企業に専門家を派遣し、具体的な支援へとつなげていくための「ワンストップ相談窓口」も設立しました。すでに「風力発電にチャレンジしてみたい」等のお問い合わせもいただいています。規模や内容に関係なく、多くの企業さんに活用してほしいですね。

GXを通じて北九州を「稼げるまち」に

――北九州市がこのコンソーシアムを通して実現したいビジョンを教えてください。
岩本 3月に武内市長が発表した北九州市新ビジョンに沿って「産業振興未来戦略」という戦略が練られ、私たち「未来産業推進課」も新設されました。スローガンとして「稼げるまち」を掲げ、現在、3兆円半ばのGDPを4兆円にするのが目標です。環境先端都市の北九州らしい、環境やGXという切り口で新しい付加価値を加え、達成に寄与していきたいと思っています。
――最後に、同様の取り組みを検討している読者に向けたメッセージをいただけますか。
前田 このコンソーシアムでの取組みが、地元企業の皆さんに「GXは成長の好機である」と意識していただくきっかけになることを願っています。相談窓口やビジネススクール等を活用し企業の皆さんのニーズに寄り添いながら、実践可能な取組みのお手伝いをしていきたいと思います。
岩城 海面温度は毎年、上昇していますし、パリ協定の目標である平均気温1.5℃を今年超えてしまうという推測もあり、温暖化の状況は深刻で対応は急務です。そのため、法律的にも対策を強化する方向に向かうと思います。避けては通れない道であるならば、中小企業のみなさんには前向きに楽しく対策に取り組んで、未来の先導者になっていただきたいなと思っています。
福田 地域企業の皆さんにこのGXの流れに乗っていただき、北九州市がより「稼げるまち」として成長していってほしいと心から思います。本当に北九州市にはいい企業さんがたくさんあるので、GXで伸びていただいた事例をどんどん紹介していきたいですし、このコンソーシアムを通じて全国トップの実績を目指していきたいです。
岩本 私個人としては、GXに対してまだネガティブな側面も根強いと印象を受けることがあります。しかし、GXは利潤を生むものであると広く認識していただくことが私たちの仕事だと認識しています。その中で生まれた成功事例を、街全体に拡げていく、そうした取り組みに、より一層チャレンジしていきたいと思います。

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