アースデイが繋ぐ人と地球。アースデイジャパンネットワークが企業と共に取り組みたいこと
アースデイは、毎年4月22日に世界中の人々が、地球について考え、行動する国際的な記念日です。日本におけるアースデイの現在地と展望について、アースデイジャパンネットワーク 共同代表の谷崎テトラさんに話をうかがいました。
1枚の写真が与えた「地球人」という意識
――世界最大規模の環境アクションと言われている「アースデイ」について、教えてください。
谷崎 アースデイは、地球を感じ、考え、行動する日です。今から54年前、ひとりの学生が「母の日や父の日と同じように、地球の日があったらいいのじゃないか」と提案したことから始まりました。
当時、人々の意識を大きく変えた写真がありました。それは、有人宇宙船アポロ8号から撮影された、「地球の出(Earthrise)」として知られる写真です。
地球の出(Earthrise)
via NASA
谷崎 今では多くの人が地球の写真を見たことがあると思いますが、当時は多くの人がこのニュースによって初めて地球の姿を認識し、地球というアイデンティティを獲得したとも言われています。最初のアースデイは、この写真が発表された15ヶ月後、1970年4月22日に始まりました。しかし、4月22日という日には何の意味づけもありません。なんでもない日が地球の日となり、そして、日付に限らずいつでも毎日が地球を思う日になることを願って始まりました。
当時すでに公害など個別の環境問題はいくつもありました。しかし、アースデイのコンセプトはあくまでも、地球を愛すること。各自が自分のできる方法で、地球への関心を行動に移す運動であり、自由度の高いアプローチは若い世代を中心にムーブメントとして発展しました。街に出てゴミ拾いをする、車ではなく自転車を選ぶなど、それぞれの小さな行動は、やがて社会を動かすものとなっていきました。
谷崎 テトラ(たにさき・てとら)
アースデイジャパンネットワーク共同代表・理事。放送作家としてテレビ・ラジオの番組制作に長く関わるなか、環境活動においても個人の行動変容を応援するエントリーモデルの必要性を実感し「アースデイ東京」の立ち上げに参画。1990年代以降、主に環境・平和・アート・教育など、メディアアートを中心とする企画立案、プロデュース、イベント開催など多数。2023年4月、一般社団法人アースデイジャパンネットワークの設立に伴い現職就任。その他、京都芸術大学客員教授、ワールドシフトネットワークジャパン代表理事、ピースデイ財団理事、楽園学会発起人など、活動は多岐に渡る。
アースデイの歴史
谷崎 アメリカではアースデイをきっかけに1970年末に環境保護庁(Environmental Protection Agency, EPA)が作られたり、1970年代に環境関連法が整備されたり
、今では全米で2000万人が何かしらの環境アクションを起こす日と言われています。企業の取組みとして、アップルストアがロゴのりんごを緑色に変えたり、Googleのロゴが変わったりすることを見た人もいることでしょう。
2009年には国連でも「国際マザーアースデイ」という呼び方で、4月22日を「環境を考える日」に認定しています。2015年に採択されたパリ協定も、2016年のアースデイに署名式が行われました。2021年にバイデン大統領が当選した時は、各国のリーダーに呼びかけ、気候変動サミットをアースデイに開催しています。
小さな始まりから生まれたアースデイが、世界中の多くの人々が地球を考え、行動するきっかけをたくさん作ってきたのです。
日本では「誰もが参加できる入り口」として
――日本でアースデイが始まったのはいつ頃ですか。また、テトラさんが代表を務めていらっしゃる「アースデイジャパンネットワーク」についても教えてください。
谷崎 日本では1990年頃から、環境団体が中心となって、それぞれの地域で呼びかけ、各地でアースデイのイベントが開催されるようになっていきました。そのなかで私も立ち上げに関わったのが、2001年の「アースデイ東京」です。故C.W.ニコル氏を実行委員長に迎え、当初は関係者で費用を負担して開催しました。
当時の日本の環境活動は、有機農業や、反資本主義の声が目立ち、活動に参加するには少しハードルがあるように感じていました。そこで誰もが気軽に参加できる環境活動の入り口として「アースデイ東京」の必要性を感じ、協賛企業を積極的に募集し、2日間で10万人が集まるようになりました。
谷崎 今では東京以外にも日本で40ほどの地域でアースデイが開催されています。アースデイは、特別な日ではなく、個人ができる範囲で行動する日です。各地域のイベントは独立して運営されており、全国で自由に開催しているため、私たちが把握している以上に開催されている地域もあるかもしれません。アースデイジャパンネットワークは、地域間のつながりを強めていきたいと思っているところです。
繋ぎ、活かし合う。アースデイジャパンネットワークの始動
谷崎 アースデイは自由に独立して開催できるものの、やはり実行委員同士の連携は重要です。世界では非営利団体「
EARTHDAY.ORG」が200ヶ所近いアースデイをネットワークしています。そこで日本でも、EARTHDAY.ORGの国内唯一の公式団体として「
アースデイジャパンネットワーク」を立ち上げようと検討をはじめたのが2021年でした。
ひとつの転機はコロナ禍でした。各地で予定していたイベントが中止になり、オンライン開催に切り替わったことが、全国でのオンライン開催という動きにつながりました。
私たちアースデイジャパンネットワークは、日本全国のアースデイを繋ぐことだけでなく、世界のアースデイとも連携できたらと考えています。2023年に一般社団法人を立ち上げ、2024年から本格始動します。
――アースデイジャパンネットワークは始まったばかりだったんですね。
谷崎 これから取り組みたいと考えていることがたくさんある状態です。まずは全国のアースデイ実行委員に呼びかけ、各地のアースデイをマッピングしました。また4月22日のアースデイ前に記者発表の場を設けて、全国の動きと、我々の取り組みを発表する予定です。
とはいえアースデイジャパンネットワークの活動は、全国のアースデイを組織化するものではありません。各実行委員会は主体的に動いていますので、私たちは緩やかに、ハブ的に繋ぐ役割を担っています。コミュニティ構築や環境イベントのアドバイスなどを通して、各地の動きを全国的に繋ぎ、アースデイの普及に取り組んでいきます。
――日本におけるアースデイの浸透について、どんなビジョンをお持ちですか。
谷崎 全国のアースデイを繋ぎながら、日本政府への政策提言など、市民セクターとして動けたらと考えています。NGOとの連携や、EARTHDAY.ORGと共に国連やCOPなど国際社会との協働も目標にしています。
また市民社会との連携も欠かせません。社会への情報発信をしていくことも大変重要だと考えていますので、一緒に活動してくれる企業も探しています。企業の方々とは、環境意識を新たな社会の価値観へと醸成するためのメディアを一緒に作っていけたらと思っています。
私たちアースデイジャパンネットワークのメンバーは、ソーシャルデザインやデジタルイノベーション、グローバル企業でのサステナビリティといった分野でキャリアを確立した人が多いことも特徴のひとつです。このネットワークを活かして、一緒に企画しながら、世界と連携した発信を行えることは、企業の社会的責任にとっても大変重要なはずです。
環境意識をビジネスに活かす、本当の価値
――企業とアースデイジャパンネットワークの協働によって、どんな価値が生まれるとお考えですか。
谷崎 事業に活かせる情報はあらゆる可能性を内包していると思います。EARTHDAY.ORGでは、環境課題に関する最新情報を提供し、ワークショップや教育ツールキットとして共有しています。私たちも企業の皆さんと一緒にそうしたリソースを活かしていきたいです。
一例として「プラネタリー・バウンダリー」という指標があります。これは環境学者のヨハン・ロックストローム氏が専門家のチームを組んで調査しているもので、人間が地球上で生存し続けるために超えてはならない環境限界を数値化したものです。9つの項目のうち4つの指標がすでにレッドラインを超えており、その原因も分析されています。いわば地球の健康診断書です。
プラネタリー・バウンダリー2023
ノルウェーの著名な学者ヨルゲン・ランダース氏はこうしたデータから将来をシミュレーションし、「未来の地球環境は危機的な状況になる可能性が高い」と発表しました。これらの問題意識から、2030年までの達成目標としてSDGsが策定されました。
気温上昇を1.5度に抑える目標や、環境負荷の少ない食糧生産方法など、新たなルール化の背景には科学的なデータに基づいた根拠があります。単なるブームや一過性の流行ではない、新たなルールメイキングが始まるという意味でも、企業がこうした動きに参画する価値は非常に大きいと思います。
――新たなルールが生まれる可能性や、ビジネスパーソンたちが注目すべき環境課題の分野は何でしょうか。
谷崎 アースデイでは毎年テーマとなる環境課題を挙げていますが、今年はプラスチック問題を取り上げています。背景にあるのは、間もなくプラスチック問題に関する国際条約が決まることです。
Planet VS. Plastics
谷崎 これまで気候変動枠組条約と生物多様性条約が採択されました。いずれももちろん重要ですが、プラスチックに関する枠組みが確定することは、私たちの社会構造にもかなり大きく影響する可能性があります。将来、プラスチック汚染をゼロにするには、抜本的なシステム転換が求められます。日本の企業の皆さんにも、ぜひ今から注目しておいてほしいです。
環境活動は本業と切り離した社会貢献活動と捉える企業もあるかもしれません。しかし欧米の事例を見れば、環境保全に注力することでビジネス成果を向上させていることが分かります。
COPなど国際会議に参加する欧米企業は、自分たちに影響するルール作りに積極的に参加しています。例えば、石鹸メーカーは水問題に関する調査データを提示し、水質改善を訴えながら自社製品を提案しています。結果的に、石鹸が溶けやすい温度で計測されるなど、企業の提案が条約に反映されるケースも出ています。企業が出遅れてしまうと、ルールが決められた後で、条件に合う新たな商品開発から始めなければいけません。
こうした例に限らず、欧米ではアースデイと企業のコラボレーションが非常にうまく連携しています。日本の企業も同様に情報収集や市民との連携を望んでいるはずです。私たちが企業と市民のパイプ役になれたらと考えています。
すでに各企業は、さまざまな環境活動を行っていますが、それぞれの活動を面で見せる発信が求められます。そうした活動をより知ってもらえるための役割としても、私たちのネットワークを活かしていただければと思います。
つくりたいのは「毎日がアースデイ」の社会
――最後に、個人がアースデイにできること、そして、アースデイジャパンネットワークが脱炭素社会を願うメッセージをお聞かせください。
谷崎 アースデイは各自が地球を思う日です。母の日や父の日と同じように、それぞれができることをする日、そして、地球のために何らかのアクションをする、それが参加方法です。
とはいっても誰かと一緒に何かをしたいという方は、アースデイのイベントに行ってみることでしょう。代々木公園のアースデイに行くことだけがアースデイではありませんので、各地のアースデイに行ってみる。ぜひ私たちが作っているアースデイマップも参考にしてください。そしてもし近くで開催されていないのであれば、ぜひご自身で主催してみることも考えてみましょう。どれも大切なアースデイへの参加方法です。
また、私たちがアースデイに願うことは「4月22日だけで終わらない」ことです。4月22日はあくまでもきっかけの1日であり、365日がアースデイとなるのが目標です。
地球は私たちの唯一の住まいであり、生命の源です。地球の資源を大切にし、持続可能な方法で利用する責任があります。4月22日のアースデイは地球の美しさとその保全について考え、みんなで地球を守り、未来の世代に美しい環境を残していきましょう。
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