Green&Circular 脱炭素ソリューション

コラム

最終更新:2024.03.25

トランジション・ファイナンスとは? メリットや課題も解説

CO2多排出産業が盛んな日本において、一足飛びに脱炭素化を達成することは難しい状況です。そこで、脱炭素化への「移行(トランジション)」に必要な資金を調達する金融手法「トランジション・ファイナンス」に注目が集まっています。その概要や取組み、メリットと課題を解説していきます。

トランジション・ファイナンスとは?

概要

2050年カーボンニュートラルを目指すにあたり、とくに「多排出」「排出削減困難(hard-to-abate)」と呼ばれる産業は、「省エネ」や「エネルギー転換」などで低炭素化を実現させ、最終的に脱炭素化を目指す道筋が不可欠です。その「移行(トランジション)」における取組みに対して、資金調達する金融手法を「トランジション・ファイナンス」と言います。

背景

日本は、鉄鋼・化学・電力・ガス・石油・紙/パルプ・セメント・自動車など、多排出分野と呼ばれる製造業が盛んな国です。これらの8分野が、日本におけるCO2排出量の約8割強を占めています。このような産業構造において、一足飛びに脱炭素化を目指すことは困難です。
日本の産業部門別CO2排出量内訳
また、日本が脱炭素化するためには、今後10年間で官民合わせて150兆円を超える投資が必要だと試算されています。欧州を中心に環境向けの投資でポピュラーなのはグリーンファイナンスですが、上記のような日本の産業構造を鑑みると、用途範囲が限られるグリーン系の金融手法や、政府の直接支援だけでは資金が足りず、脱炭素化を実現するのが難しい状況です。
そこで、金融庁・環境省・経産省が合同で「トランジション・ファイナンスに関する基本指針」を策定し、その科学的根拠としてロードマップを作成。モデル事業に対して補助をおこなうことで、民間がおこなう「トランジション・ファイナンス」の信頼性を後押しする施策を2021年度よりスタートしました。

グリーンファイナンスとの違い

グリーンファイナンスは、再生可能エネルギーの活用やGHG排出量削減など、環境改善効果のある事業(グリーンプロジェクト)に特化した金融手法です。一方、トランジション・ファイナンスは、製造プロセスを革新的技術に変えていくなど、「移行」の道筋に焦点を当てており、より長期的な戦略に対しての投資となります。つまり、グリーンファイナンスの枠では資金調達が難しい、脱炭素化を目指す企業やプロジェクトに対して有効な金融手法なのです。
※グリーンファイナンスの一種であるグリーンボンド(債券)について詳しく知りたい方は「グリーンボンドとは?原則に加え、発行や投資をするメリット・デメリットを紹介!」をご覧ください。

資金供給者のメリット

トランジション・ファイナンスの中には、ボンド(債券)もローン(融資)もあります。どちらにおいても、利回りなどのリターン(収益)が他の金融商品と比べて優れているということはありません。
しかし、「トランジション・ファイナンス」という国家主導のラベルが付くことで、金融機関はステークホルダーに対して、多排出産業への投資目的を説明しやすくなります。さらに、持続可能な社会の実現に向けた支援することで、社会的な支持を獲得できる可能性があります。

トランジション・ファイナンスで求められること

トランジションであることを示す 基本の4要素

黎明期にあるトランジション・ファイナンスの信頼性を高め、より普及させるにあたり、国は「トランジションについての基本指針」を示しています。これは、資金調達においてどのような説明をおこなうべきかを示した指針です。

4要素からなる基本指針は、ICMA(国債資本市場協会)が発表した「クライメート・トランジション・ファイナス・ハンドブック」という国際原則を踏まえ、2021年5月に策定されました。
1.戦略とガバナンス
2050年カーボンニュートラルに向けて、どう脱炭素化を進めていくのかの戦略。そしてガバナンス(管理体制)を示すこと。
2.マテリアリティ(重要度)
その取組みにおける中核的な事業とは、マテリアリティ(重要課題)は何なのかを示すこと。
3.科学的根拠
脱炭素化に向けた戦略が科学的根拠に基づいていることを示すこと。
4.透明性
何にどれだけ資金を使ったのか、成果はあったのかなど、レポーティングなどで透明性を示すこと。

ロードマップとは?

トランジションの4要素の一つ「科学的根拠」の適格性を判断する参考材料として、経済産業省はCO2多排出産業向けに分野別ロードマップを策定しています。現在、日本の排出量の8割強を占める、鉄鋼・化学・電力・ガス・石油・紙/パルプ・セメント・自動車の8分野を網羅しています。
ロードマップの対象分野
各分野における技術革新の実現性と将来性を加味し、日本固有の事情や日本の政策、さらにはIEAなど国際的なシナリオを踏まえ作成されています。ロードマップがあることで、産業ごとの目指すべき方向性がわかりやすくなるだけでなく、各分野の技術に詳しくない資金供給者が議論を深める材料になります。つまり、資金供給者と資金調達者の目線が合致することで、トランジション・ファイナンスの調達が円滑になるのです。

フォローアップガイダンスとは?

資金調達後、脱炭素化に向けた取組みを促進させ、トランジション・ファイナンスの信頼性と実効性の向上を目的として「フォローアップガイダンス」が策定されました。債券投資家にとって実践的な内容となっており、資金調達者との対話の重要性・必要性を訴求しているのがポイントです。
確認の対象となるのは、主に戦略・目標・対象事業であり、当該実績が適切に開示されているかが重要です。また、今後の方針や取組みについて共通認識を醸成する内容もガイダンスされています。

トランジション・ファイナンスの種類(位置付け)

トランジション・ファイナンスは、より長期的な取組みに焦点を当てているため、既存のグリーン系債権やローンと重複する部分があります。下記の図はそれらとの関係性を示したうえで、トランジション・ファイナンスの位置付けを示しています。
1.トランジション・ボンド/ローン(資金使途特定)
資金の用途はグリーンプロジェクトではないものの、トランジションの4要素を満たしている債券・ローン。ここが既存の枠組みにはない部分です。
2.サステナビリティ・リンク・ボンド/ローン(資金使途不特定)
資金使途を特定しない代わりに、KPIによって評価・測定、その達成度合いに応じて金利などの借入条件が変動するサステナビリティ・リンク・ボンド/ローン。その手法や原則を用いたうえで、トランジションの4要素を満たしている債権・ローンがここに該当します。
3.グリーンボンド・ローン(資金使途特定)
資金の用途がグリーンプロジェクトに該当しており、さらにトランジションの4要素も満たしている債券・ローンがここに該当します。

トランジション・ファイナンス推進に向けての取組み・事例

モデル事例・補助金事業

トランジション・ファイナンスを普及させるため、経済産業省は基本指針に整合し、モデル事例となるものに補助をおこなっています。
補助対象事例として、日本航空や三菱重工業、太平洋セメントといった多排出産業が並びますが、2022年度には多排出産業ではないキリンホールディングスのトランディション・リンク・ローンも選ばれました。これはサプライチェーン全体での脱炭素化を目指すもので、国内のみならず海外拠点も含め、それぞれの地域性を考慮した取組みであることが評価されています。
その他、三菱HCキャピタルがトランジション・ローンで調達した資金を使い、東京ガスに発電設備を販売&リースする、リースバックのスキームも選ばれています。この取組みが広がることで、中小企業においてもトランジションが進んでいくことが予想されます。
なお、トランジションであることを説明するためには、評価機関からの評価書が必要になります。現在、それら評価にかかる費用を補助金でサポートしています。2021年度は9割負担、2022年度は8割負担、2023年度は7割負担と、補助率は段階的に下げられています。

トランジション推進のための金融支援制度(成果連動型の利子補給制度)

CO2削減の取組み(トランジション)を進める、10年以上の計画(産業競争力強化法における事業適応計画)を策定し、各事業の所轄大臣の認定を受けた事業者への貸付を対象としています。計画には期中の目標達成期限と具体的な目標内容が盛り込まれています。
計画認定を受けた事業者には、最初の目標達成期限まで0.1%幅の利下げを実施します。さらに、期中目標を達成できた場合は、最大0.2%までの利下げがおこなわれます。期中の目標が未達成の場合は通常金利に戻ります。

クライメート・トランジション・ボンド

「クライメート・トランジション・ボンド」とは、政府が発行するトランジション・ボンドの名称です。トランジションを目的とした国債を個別発行するのは世界初であり、資金調達だけでなく「トランジション」に対する国際的な理解を促進する役割も担っています。

トランジション・ファイナンスの課題

トランジションの定義が曖昧

各国の地理的条件や産業構造などにより、脱炭素化への道筋は異なります。そのため、「何がトランジションに該当するか?」は、国や地域によってさまざまで、ときに理解されないことがあります。場合によってはグリーンウォッシュ批判をされてしまう可能性もあります。日本にとってなぜトランジションが大事なのか、その取組みになぜ力を入れるのかを説明するためには、今後も信頼性の高い仕組み構築に向けた継続的な改良が不可欠です。

ファイナンスド・エミッションにおいて優遇されない

金融機関は自社のみならず、投融資先のGHG排出量も2050年までにネットゼロにすることが求められています。国際的な算定方法に基づき導き出された「投融資先の排出量」を「ファイナンスド・エミッション」と呼びます。
トランジション・ファイナンスの最終目標は2050年カーボンニュートラルですが、現在の算定方法では、脱炭素化に向けた投資であっても「ファイナンスド・エミッション」が高くなってしまうことがあります。ゆえに脱炭素化への投融資を阻害する可能性も指摘されています。この課題は国際的にも認識されており、計測方法や開示手法の工夫について検討が進んでいます。

中小企業にとってハードルが高い

トランジションであることを示すためには、時間をかけて戦略を策定し、その科学的根拠を示すために評価機関に費用を払い、レポーティングをおこなうなど、人的・金銭的なコストがかかります。そのため、現時点でトランジション・ファイナンスを活用しているのは大企業が中心となっています。今後は中小企業含むサプライチェーン全体へと、いかに広げていくかが課題となっています。

成長を続ける「トランジション・ファイナンス」

脱炭素化に向けた動きは、EUを中心に国際的な枠組みが決まることが多くありました。そのため、地理的条件や産業構造が異なる日本において、同じ道筋で脱炭素化を進めるのは難しい点も多々ありました。そこで日本は世界に先駆け「トランジション」という考え方を打ち出し、「トランジション・ファイナンス」を推進しています。取組み開始から3年で、国内累計額は約1兆6,440億円にまで拡大しました。
日本の国際競争力を高めるためにも、「トランジション・ファイナンス」が幅広く活用されることが今後も期待されています。

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