インターナルカーボンプライシング(ICP)は、企業が脱炭素経営を推進するための有効な手法です。CO2排出量に応じて社内で価格を設定し、具体的な削減目標を達成するための意思決定を支援します。これにより、企業の持続可能性向上と社会的責任を果たすことが可能となり、業界全体での気候変動対策が加速します。ICP導入の背景やメリットを深掘りし、企業戦略にどのように組み込むかを解説します。
インターナルカーボンプライシング(ICP)の概要
インターナルカーボンプライシング(ICP)とは
インターナルカーボンプライシングとは、企業が自社の事業活動に伴うCO2排出量に対して、企業独自の価格を設定し、その価格を経営上の意思決定に反映させる仕組みです。具体的には、各事業部門のCO2排出量に応じた資金を収集して低炭素投資を推進したり、投資判断の基準を設定することで、企業の環境負荷の削減を促進しています。
導入が求められる背景
気候変動のリスクの深刻化により、企業には脱炭素への実践的な取組みや、炭素排出に対する適切なコスト認識を求められています。こうした状況を受け、環境省はICP活用のガイドラインを積極的に発行し、更に多くの企業が炭素価格を経営戦略に組み込むための支援を行っています。
環境省 環境省 「インターナル・カーボンプライシングについて」p.7
そして、ICPの導入が求められる背景には、外部及び内部要因が存在します。外部要因としては、国際的な情報開示基準が強化される中で、CDPやTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)等でICPの導入が重要視されています。これらの組織は、企業に対して気候変動に関するリスクや機会を開示するよう求めており、その一環として炭素価格の導入が推奨されています。
一方、内部要因としては、CDPの回答等、企業によるESG関連情報の開示、SBTやRE100等、低炭素目標の設定に加え、今後の強化・導入の可能性が想定される低炭素規制への準備が影響しています。ICPを導入することで、企業は温暖化対策の一環として自社のCO2排出量を管理し、脱炭素社会に向けた投資や戦略の形成を促進することができます。更に、将来の社会的な要請に備えるため、ICPは重要な経営戦略の一部となります。
このように、ICPは単なる環境対策にとどまらず、企業戦略としての役割も果たし、経営判断において炭素コストを適切に反映させるための重要なツールとなっています。
インターナルカーボンプライシング(ICP)導入の目的やメリット
脱炭素投資の推進
ICPは、企業がCO2排出量の削減に主体的に取り組むための有効な手段です。ICPを導入する目的は、排出量削減に対する明確なインセンティブを持ち、環境への配慮を経営戦略に組み込むことにあります。特に、CO2排出量の多いプロジェクトに対しては、その排出量を可視化し、削減手法を検討することが促されます。これにより、企業は環境負荷の低い設計や再生可能エネルギーの導入を積極的に検討し、CO2排出量の削減に向けた努力を行うようになります。
リスク管理と収益機会の可視化
ICPの導入は、企業が脱炭素社会への移行において重要な役割を果たします。ICPを採用することで企業は定量的な基準を設け、CO2排出に関連するリスクを適切に可視化、管理することができます。これにより、投資家やステークホルダーからの脱炭素に対する要請に対して、リスクを把握しつつ経済的成果を追求する姿勢を明確に示すことができ、信頼を獲得します。特に、CDP等の外部評価機関で高評価を得る可能性が高まり、企業の信頼性が向上します。
また、ICPは企業の社員の意識改革にも寄与します。社員は自社の環境負荷を具体的に理解し、排出削減のための行動に積極的に取り組むようになります。これにより、企業全体での脱炭素化の意識が高まり、企業文化として定着することが期待されます。
更に、ICPの導入は外部のステークホルダーへのアピールにもつながります。環境配慮や持続可能な経営を推進する姿勢を示すことで、取引先や消費者、投資家に対して企業の社会的責任を強調でき、信頼関係を築くことができます。その結果、ブランド価値向上を図ることが可能となります。
国際的な規制対応の基盤構築
ICPの導入は、企業が国際的な規制に適応し、将来のカーボンプライシングに備えるための重要な基盤となります。国内外でカーボンプライシングの導入が進む中、企業は早期に自社の事業活動における炭素排出コストを把握すると共に、対応する体制を構築することが可能となります。
また、ICPは日本政府が掲げる環境目標に対する協力の一環としても機能します。政府の脱炭素化の目標に沿った企業の取組みを促進することで、脱炭素経営を実践することができ、国際的な規制に適応し、競争力を維持するための強固な基盤を築けます。
インターナルカーボンプライシング(ICP)の導入企業数
2020年時点で、世界では2,000社以上、日本では約250社がICPの導入を予定しており、その数は年々増加しています。今後も環境規制の強化や投資家の要求に対応するため、その数は増えると予想されます。日本でも、低炭素投資や省エネ推進のためにICPを導入する企業が増えており、今後の動向に注目が集まっています。
環境省 環境省 「インターナル・カーボンプライシングについて」p.4
インターナルカーボンプライシング(ICP)の導入のポイント
導入に向けた5つのステップ
ICPの導入は、企業の環境戦略や経営方針策定において重要なステップとなります。排出削減を目指し、経営に炭素価格を組み込むことで、持続可能な成長を支える仕組みを構築できます。以下、ICP導入に向けた5つのステップをご紹介します。
1.導入目的の明確化
ICPの導入目的を明確にし、環境目標や経営戦略と一致させましょう。排出削減や投資家への対応、規制適応等、目的に基づいた目標設定が重要です。
2.価格設定
自社の排出量に対して適切な社内炭素価格を決定します。この価格は排出削減のインセンティブとなるため、事業活動に与える影響を十分に考慮し慎重に設定します。
3.価格活用方法の検討
設定した炭素価格を経営にどう反映させるかを決定します。投資判断や事業評価に組み込み、排出削減の意思決定を促進する役割を果たします。
4.社内体制の構築
ICPの運用には、専任のチームや部門を設置することが必要です。炭素排出量の管理体制を整備し、社員への教育や意識醸成を進めることも求められます。
5.導入後の取組みを検討
ICP導入後は、専任チームを中心として定期的に成果を評価し、必要に応じて改善策を検討します。モニタリングを行い、炭素価格や対策を見直すことで、目標達成に向けた継続的な改善が可能となります。
ICPで決めるべき重要な要素は「価格設定」「活用方法」、次いで「社内体制」です。それぞれポイントを見ていきましょう。
価格設定のポイント
社内炭素価格の設定は、企業の環境戦略において重要な要素であり、その設定方法には主に2つのアプローチがあります。まず、「シャドープライス」は将来の炭素コストを想定に基づき設定する方法です。これには、外部のカーボンプライシング市場の価格や政府の規制予測を参考にすることが求められます。次に「インプリシットプライス」は、過去の実績に基づき価格を設定する方法で、これには同業他社の価格設定をベンチマークとして活用することが一般的です。また、社内で低炭素投資を促す価格を協議すること、数理的な分析を用いてCO2削減目標に基づいた価格設定を行うことも考えられます。
価格設定の方法を選ぶ際は、気候変動対策の実効性や導入の難易度を考慮することが重要です。自社の状況や取組みやすさに応じて、最も適切な価格設定方法を選ぶ必要があります。さらに、価格設定を決定する際には、事業部門や他部署との協議が欠かせません。企業全体での環境投資に対する合意を確認し、部署間での合意形成を図りながら、環境方針や企業の目的に整合する方法を選定し価格設定をすることが求められます。
活用方法のポイント
ICPの効果的な活用方法には、いくつかの重要なポイントがあります。まず、自社内の理解度や投資基準に基づいて、部署への展開方法を提示することが必要です。これにより、ICPが迅速かつ効果的に導入され、企業全体での取組みがスムーズに進むでしょう。
そして、自社のICP導入の目的を明確にし、導入推進部署と実業務に影響を与える事業部との間で対話を行う必要があります。この対話により、各部署のニーズや課題を把握し、共通の目標に向かって一致団結することが可能となります。
社内体制構築のポイント
ICPを導入する際は、設定価格や活用方法を踏まえた上で、企業の実態に即したスケジュールで進めることが重要です。まず、導入計画を策定し、各段階でPDCAを回しながら推進することで、スムーズな実行が可能になります。
最初に、ICP導入を担う推進組織を決定し、その責任者やチームを確定します。この組織が中心となり、関係する部署や経営層との調整や連携を図ります。
次に、導入に必要な項目を整理し、各部署の役割や具体的な業務を明確化します。適応範囲やスケジュールを設定し、関係部署と緊密に連携する必要があります。
企業によって最適なICPのあり方は異なるのが実情であり、導入前だけでなく、導入後にも価格の見直し方法や組織体制、社内浸透の方法について長期的かつ多面的に検討することが成功の鍵となります。
脱炭素経営に向けたインターナルカーボンプライシング(ICP)
ICPは、企業が脱炭素経営を実現するための強力なツールです。ICPを導入することで、CO2排出量の削減に向けた具体的な目標設定や、それに基づいた投資判断が可能となり、企業の持続可能性向上に大きく貢献します。具体的な目標があることで、社員全体が同じ方向を向いて取り組むことができ、実効性が高まります。
また、より多くの企業がICPを導入することは、脱炭素経営を加速させる上で非常に重要です。個々の企業の取組みだけではなく、業界全体での取組みが求められます。これにより、企業間での学び合いやベストプラクティスの共有が進み、効果的な気候変動対策が実現されます。
持続可能な社会を構築するために、今後もICPの導入と活用が広がることを期待します。地球環境と企業の持続可能性を高めるために、皆で協力して取り組んでいきましょう。
*カーボンプライシングについて詳しく知りたい方は「
カーボンプライシングとは?その概要と日本の導入状況を詳しく解説」をご覧ください。
参考
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