みんなで取り組む脱炭素。「デコ活」が呼びかける行動変容への流れ
デコ活は、カーボンニュートラルの実現に向け「脱炭素につながる新しい豊かな暮らし」を創る国民運動です。企業や自治体から個人までが暮らしやビジネスを通して取り組めるデコ活について環境省の島田智寛さんに伺いました。
2050年までのカーボンニュートラル達成に向けて、国民の行動変容を応援する「デコ活」をご存じですか。「脱炭素につながる新しい豊かな暮らし」を創る国民運動として、2022年、国民1人ひとりに本気で取り組んでもらうために始まった、現在進行中の国家プロジェクトです。誰でも参加できるこのチャレンジについて、環境省地球環境局デコ活応援隊 隊長の島田智寛さんに、脱炭素(Decarbonization)でエコな活動=デコ活で目指す社会像や課題についてお聞きしました。
目指すは家庭から、温室効果ガス66%削減
島田 デコ活は、日本全体で脱炭素のムーブメントを作っていこうという、2022年に始まったプロジェクトです。2050年までにカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量の実質ゼロ)を達成するという長期目標に向けて、日本でも温暖化対策を推進する地球温暖化対策計画を定めました。そのなかで温室効果ガスは2030年までに2013年比で46%、できれば50%削減する目標が定められています。なかでも家庭部門、つまり私たち1人ひとりの暮らしから2030年までに2013年比で66%ほどを減らすことが掲げられています。
製造業等の産業部門は、温室効果ガスの排出量が多い反面、過去からの経緯でみれば削減実績があります。家庭部門についても、現在、その様な大幅な削減が求められる状況になりました。そこで、家庭等の部門の削減のため、生活の中でもっと意識的に取組みやすくしようと考えたのが、このプロジェクトの主旨です。
島田 智寛(しまだ ともひろ)
環境省地球環境局デコ活応援隊 隊長
2006年に環境省入省。COP15(コペンハーゲン)、COP16(カンクン)等に参加し代表団のとりまとめや、東日本大震災からの復興、北京の在中国日本大使館にて日中二国間での環境分野における調整などの経験を経て、現在はデコ活応援隊長として、2050年カーボンニュートラル及び2030年度削減目標の実現に向けて、国民・消費者(生活者)の脱炭素に向けた行動変容、ライフスタイル転換を促すため、国民運動「デコ活」を推進。
—— 「脱炭素につながる新しい豊かな暮らし」とはどのようなものでしょうか。
島田 脱炭素やカーボンニュートラルという言葉を知っている人はかなり増えてきた一方、何をすればいいのか分からない、という声が多いのも事実です。そこで生活の中で取組んでほしいことをいくつか提案しています。ポイントは、私たちの暮らしの領域でできることです。
例えば衣食住の「衣」では、従来から環境省で呼びかけているクールビズやウォームビズに加え、サステナブルファッションの推進。「食」なら、地産地消やフードロスを防ぐ取組み。「住」では、屋根上の太陽光発電や断熱のリフォーム、高効率給湯器の設置、LED照明化や省エネ家電への買い替えなどを呼び掛けています。
衣食住以外にも、公共交通の利用、自動車はEVなど次世代自動車への切り替え、テレワークの導入など、暮らしの一領域として「働き方」にもアプローチしています。暮らしの全領域にわたって脱炭素に繋がると同時に、光熱費の削減や余暇時間の増加、あるいは健康効果といったように、脱炭素を通じて得られる豊かな暮らしを、みんなで進めていこうというものです。
出典:環境省「デコ活」
1万件を超えた「デコ活宣言」
—— デコ活の具体的な活動の内容について教えてください。
島田 まずひとつは、「デコ活応援団」ですね。個人はもちろん、1,000社以上の企業、300を超える自治体、その他さまざまな団体や教育機関、NGO、NPOなど併せて、すでに約2,000以上の方々が参加する官民連携協議会です。情報交換や、プロジェクトの提案、事業マッチングの支援などを行っています。
そしてこの活動に賛同してくれる方々の「デコ活宣言」。これは個人だけでもすでに9,000人を超える方々に宣言してもらっており、デコ活応援団の参加者も含めて、10,000以上のデコ活宣言が集まっています。
そのほか国や自治体と、脱炭素な暮らしにつながる製品やサービスを提供している企業で連携し、社会に実装するための補助事業も行っています。これは、脱炭素につながる事業アイデアに対して、シードマネーとして国の公的資金から1/3を補助するものです。残りは民間の資金力を活用していただきながら、消費者の行動変容を促すようなプロジェクトがすでに複数進んでいます。
—— デコ活を通じて、環境省が達成したい目標とはどのようなものですか。
島田 脱炭素に取り組む効果や価値は、実はとても幅広いものにつながります。家庭に関連した暮らしから例を挙げると、太陽光などの自家発電は停電の際にも電力供給があるため防災機能があります。また、断熱機能が高い家では建物全体の熱効率が向上し、エアコンの使用を削減するだけでなく、急激な温度変化による健康リスクを軽減でき、夏の猛暑や冬の寒さから身を守れます。ほかにも、テレワークは、交通によるCO2を削減できるだけでなく、育児や介護など家庭の事情と仕事を両立できる環境が整い、働き方の柔軟性が向上します。
脱炭素のライフスタイルを取り入れることは、その他の価値も作られていくということです。デコ活を通じて、脱炭素の目標達成だけでなく、地域の活性化や、多様な働き方が社会に許容され、より多くの方が健康で快適に過ごせること。それこそが豊かさであり、そうした暮らしや社会を作っていくことこそ、私たちが達成したい目標です。
他にも新しい設備などを導入する時はどうしてもお金が掛かりますが、国や自治体の補助事業をうまく活用しながら、日々の暮らしのなかで脱炭素につながる取組みを進めていただくことで、健康で快適な生活を過ごすことができ、節約もできて余暇時間も生まれるといったメリットも生じます。脱炭素の製品やサービスを提供している事業者にとっても、「デコ活応援団」での連携やマッチングなど、新たなビジネスチャンスに繋がっていくと思います。
過去の反省を踏まえ「G to B to C」で促す行動変容
島田 補助事業では、2024年度の開始からすでに9件の採択をしています。例えば、ECサイトの楽天市場では、環境に配慮したさまざまな商品が掲載されたEARTH MALL(アースモール)というページがあり、商品のCO2削減効果をデカボスコアで掲載しています。デカボスコアは、Earth hacks株式会社が作った指標ですが、CO2の削減「量」ではなく「率」で示す数値のため、さまざまなものを比較しやすい指標です。こうした楽天とEarth hacksの連携によって、環境に配慮された製品やサービスを幅広く知ることで、選ぶものが変わっていく人も多くなるでしょうし、その先には社会の変容があることも感じています。
出典:楽天 EARTH MALL
デカボ スコア | 商品を選ぶ新しい基準のひとつに
商品やサービスの排出CO2相当量の“削減率”を「デカボ スコア」として可視化しています。
島田 もうひとつ、企業が多い品川駅の港南口エリアを対象にした、アプリのプロジェクトも補助事業で採択されました。NTTグループが提供する従業員の環境意識の向上と行動変容を測定するアプリを活用して、初めは企業向けから、次にビル・街区向け、更には自治体や中小企業も含めてより広範囲に波及させていこうという取り組みです。これらの補助事業は現在始まったばかりのため、2024年度末以降に成果が共有される予定です。
島田 温室効果ガスの削減目標の内訳を考えた時に、家庭部門等、私たちの暮らしから削減していかねばならないということがまず課題でした。2005年からは、温室効果ガスを抑制するための国民運動「チームマイナス6%」進めたり、その当時から現在まで、夏を快適に過ごすためのライフスタイル「クールビズ」を推奨しています。しかし、これらの取組みを通じて、これまでの国から国民全体に一斉に呼びかけるのとは異なるアプローチが必要と考えるに至りました。以前は、政府や環境省などが国民に広く呼び掛けていく「G to C(政府→国民)」でしたが、単純に温暖化問題が大変ですよ、と1億2,000万人に一方的に発信しても、一人ひとりの日々の生活の中での「行動変容」を進めるのは難しかったのです。
情報を受け取った人が、実際に日々の暮らしの中で何かの行動変容を行うにはなかなか至らない、これがこれまでの反省点でした。そこでデコ活では、国・自治体・企業・団体等が連携し、国民1人ひとりの新しい暮らしを後押しするという姿勢でいます。いきなり「G to C」で呼びかけるのではなく、そうした暮らしが必要だと考える企業と共に、官民連携の新しい動きとなるアプローチを進めること。いわば「G to B to C(政府→企業→国民)」です。
以前の反省を踏まえて、連携する企業や個人に対してただ参画を広く呼びかけるのではなく、具体的な事業を進める中で、脱炭素を推進する想いがある方々にお声かけしています。その結果、官民連携協議会のメンバーが2,000団体以上、また、デコ活宣言は企業、団体、国・自治体が2,000以上、個人は9,000人以上、併せて1万を超えており、これは国民の数から見れば少ないとはいえ、着実に普及してきていることを実感できています。
—— これから参加する可能性がある企業の方々に、どんなことを期待されますか。
島田 2024年も夏は本当に厳しい暑さでしたよね。熱中症などのリスクを理由に、スポーツ大会のキャンセルや中断も増えていますし、地域の生業である特産品の収穫が難しいケースが見受けられます。私たちはどうしても目先の生活に捉われがちですが、気候変動の影響で暮らしが変わってきているのは紛れもない事実ですので、少しでも多くの方と連携しながら、この国民運動を進めていきたいと考えています。
例えばクールビズのように、家庭より職場でのほうが実践しやすい取組みもあります。また、6月の環境月間や、10月のフードロス削減月間など、行政の取り組みと紐付けた職場内の取り組みを企画するなども、とてもよい呼びかけになると思います。ぜひ何かアドバイスや、あるいは質問、お問い合わせなどもお気軽にお寄せいただければうれしいです。
デコ活は、いつでも誰でも参加できる、ハードルの低い仕組みですので、より多くの方々に、デコ活応援団やデコ活宣言の実践をお願いしていきたいです。
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