海と人が共にある社会: 日本財団と考える、脱炭素・サーキュラーの鍵
地球の表面の7割を占める海。地球温暖化により海水温が上昇し、昨今の異常気象につながっているなど、海は地球環境にも大きな影響を及ぼします。今回は、そんな海を舞台に多様なセクターと協創し、海洋環境、船舶関連事業のほか、災害復興や福祉、国際協力など、さまざまな社会貢献活動への支援を行う公益財団法人 日本財団の中嶋 竜生さんと青柳 由里子さんにお話をお伺いしました。
海洋環境・船舶から国際貢献まで、日本財団の多様な支援
――日本財団の概要や設立の背景について教えてください。
中嶋 日本財団は1962年に「日本船舶振興会」という団体としてスタートしました。公営競技であるボートレース(競艇)、の収益金を財源として、国内外の社会課題を解決しようという活動に対して、主に助成金を交付して事業を盛り上げる役割を担っています。
もともと日本船舶振興会は戦前から戦後にかけて日本の主要産業として人々の生活を支えていた造船業界を盛り立て、日本を元気にしていくことを活動の主旨として発足しました。しかし時代とともに日本の産業構造が変わり人々の生活も物理的に豊かになっていくなか、日本財団の活動も、国内の海事(船の事)だけでなく地球規模の海洋をテーマにした問題をはじめ、さまざまな社会課題を解決していくことを目指すように変化してきました。また、全国からお預かりする助成金のご申請を審査するだけでなく、新しい仕組みやプラットフォームを一緒に考えてモデルを作り、社会課題を解決に導いていく活動も大きくなり、現在に至っています。
中嶋 竜生
公益財団法人 日本財団 海洋事業部部長 東京都足立区出身、2004年日本財団に入会。日本財団の活動の原資を生み出す24のボートレース場でのファン感謝イベント担当や、経営企画部、国際協力部、ミャンマー駐在を経て、2019年より海洋事業部。
――助成金というのはどのようなプロセスを経て決定されるのでしょうか。
中嶋 助成金は、原則として一般社団法人や一般財団法人、NPO法人などの非営利組織に助成するものですが、時代のニーズに則した国家的なプロジェクトであったり、地域でのさまざまな関係者との協働の仕方によっては、企業の方々にも大いにご活躍頂いています。
日本財団では、社会課題を解決する大きなトリガーとなるのは何かを常に考え、そのトリガーとなりうる活動をされている団体や人を発掘し、NGO、企業、政府、国際機関などとの連携をしながら、日本財団にしかできないことを見つけて挑戦するようにしています。特に、企業や政府、自治体などでもなかなか手が届かず、何かのハザマや縦割り間のすきまに埋もれてしまっているような課題に対してさまざまな関係者をおつなぎしてチームを作ることができるのが、日本財団の重要な役割だと感じています。
――活動のメインテーマである「海事」「海洋」について、現状や課題を教えてください。
中嶋 ご存知のとおり日本は島国で、四方を海に囲まれていますが、海のことについて関心をもたない、つまり「海ばなれ」がデータで顕著に出てきています。その背景は、レジャーの多様化による海水浴など海で遊ぶ機会の減少や海が危ないという怖さだけの認識によるものなど多岐にわたります。日本の輸出入の99.6%が海運によるもの、地球の7割が海で占められていることを考えると、「海ばなれ」は、自分の生活だけでなく、日本という国、さらには地球全体にとっても大きな問題であることは間違いありません。私たちはその課題感から、人々にまずは海に親しんでもらいたい、海の存在、恵みも怖さも不思議さも意識してもらいたいと、幅広い活動をしています。参考:
海と日本プロジェクトについて
洋上風力発電への挑戦:海から未来のエネルギーへ
――昨今、積極的に取り組まれている洋上風力発電の人材育成について教えていただけますか。
青柳 政府は、2030年までに10GW、2040年までに30~45GWの洋上風力案件を形成する目標を掲げています。海には風車を設置できるポテンシャルをもつスペースが多くあり、陸上と比べ、遮るものがなく風力による発電の効率がとても高いとして、注目されています。
青柳 由里子
公益財団法人 日本財団 海洋事業部 海洋船舶チームチームリーダー。2016年から海洋開発分野の人材育成に取り組む。
青柳 しかし洋上風力発電を建設するには、陸上と比べて特殊な技術やより幅広い分野の知識が必要になります。そのため、洋上風力を推進していくためには、この分野に貢献する人材の育成を進めていくことも欠かせません。そこで、地元の方々と一緒に、子供たちを対象に洋上風力について親しみを持ってもらうワークショップや、大学生向けに国内外での研修等も進めています。こうした長期的な視点の取り組みも日本財団らしいものの1つかもしれません。
フランスでの浮体式洋上風車設計国際コンペに出場する大学生
国や企業と連携し「水素で動く船」も開発中
――その他、気候変動と海に関わる取り組みなどあれば教えていただけますか。
中嶋 現在は水素で走る船の実証実験を行っています。商船三井グループさんも参加していますが、何十社の企業・の皆様とコンソーシアム形式でチームを組んで、助成金を活用いただいています。
もちろん船だけでなく、水素ステーションの港を造ることなど、普及のために解決しなくてはならない問題もたくさんあります。しかし今までは競合同士だった会社がタッグを組み、これまでの造船業界とは異なる業界にも参加いただき、また関係省庁とも協働することで、普及に向けて重要な法律のあり方なども検討可能となります。皆で足並みを揃えて進んでいけたらと思っています。
ゼロエミッションの運航を行った「HANARIA」
青柳 日本は島国であるため、輸出入の99.6%が海運に依存しています。このため、船舶の燃料として舶用重油が使用されていますが、これには硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)などの大気汚染物質が含まれています。自動車の排気ガス規制と同様に、船舶の排気ガス規制も段階的に強化されてきました。国際海運からの排出量は世界全体の2%程度と言われており、これはドイツ1国分程度の量に該当します。海運においてCO2排出量を減らすことは、カーボンニュートラル社会の実現に向けて非常に重要であり、CO2を出さない燃料(水素やアンモニア等)に置き換えるための技術革新も各国で進んでいます。
また水素エネルギーの活用だけでなく、商船三井さんが運航するフェリーさんの「さんふらわあ」は、LNGを燃料として、CO2排出量削減に貢献されています。
子どもたちに、青い海を残したい
――海といえば、ごみの問題もとても大きいですよね。海洋ごみを減らすには私たち消費者の意識と行動の変容が必要な印象ですが、海洋ごみに対する活動もされていますか。
中嶋 日本人の海の意識調査の結果も踏まえ、海に親しんでもらうために2016年から「海と日本プロジェクト」というのを始めました。当時はまだ今ほど海洋プラスチックの問題は出てきていませんでしたが、それでも2017年頃から、「海といったらゴミ!」と答える子どもたちが多くなってきました。海に親しみも持てず、さらに海といったらごみを想起するのは、とても悲しいですよね。そこでこの海洋ごみ問題に対して私たちはどうすればいいのかをみんなで考える機会をつくるために、海洋ごみ対策に特化した「
CHANGE FOR THE BLUE 」というプロジェクトを2018年から開始しました。
CHANGE FOR THE BLUE
子どもたちにさまざまな体験機会をつくるのと並行し、科学的な根拠に基づいたコミュニケーションができるよう、東京大学さんらと共に「海洋プラスチックやマイクロプラスチックが人体に実際どういう影響があるのか」、「そもそも海にプラスチックが出ないようにするにはどうするか」といったテーマの研究も行っています。
中嶋 海洋ごみといわれるものの、それらの80%は陸から川を経て出ているという研究結果があります。となれば尚更のこと、自分たちの生活によってごみを海に流さないようにすることができるかもしれないと思えますよね。
そこで、外海からごみが流れ込みにくい瀬戸内海で、陸から流れ込んでしまうごみとすでに海に出てしまったごみをどうやったら減らすことができるかという実証実験を、岡山・広島・香川・愛媛の各県知事と共に一丸となって進めています。日本や世界中の他の地域でも「やってみよう」「隣と連携しよう」というきっかけになるような成果を出していきます。
――その他、ごみゴミに関する活動もあれば教えていただけますか。
青柳 調査データによると、ごみ拾いを経験した人はごみを捨てなくなる、という指摘があります。そこでより多くの方にごみ拾いに携わってもらいたいと考え、コスプレでのごみ拾いや、ロボットと一緒にごみ拾いをするなど、アイデアを凝らしながらイベントの企画・実施をしています。
中嶋 5月30日、ごみゼロの日から1週間を「ごみゼロウィーク」と定め、2019年から全国各地でコスプレイヤーさんと一緒にごみ拾いをするイベントを開催しています。コスプレイヤーの皆さんは、写真撮影を大切にされるので、撮影場所をきれいにするということだけでなく、物事に対する洞察力と、それを伝えようという発信力もあるため、ごみ拾いを進めようという活動に親和性がとても高いと感じています。2024年6月1日の福岡では500名もの参加者が集まるムーブアップイベントになりました。
コスプレをしてのごみ拾いの様子
中嶋 また、昨年はスポーツごみ拾い、略して「スポGOMI」ワールドカップの第1回を開催し、20カ国の代表が東京に集結しました。結果は、イギリスが1位、日本は2位、イタリアが3位の白熱した大会で、大好評だったこともあり、ワールドカップといえば4年に1回ですが、スポGOMIワールドカップは来年もやろうかという話も出ています(笑)。
ごみを拾うことで自分や周りの人たちの意識や行動を変え、ひいては自治体や国の政策につながり、海に流れ込んでしまうごみが減らすことも、私たちの目指す、美しく豊かな海を次世代に引き継ぐことにつながると思っています。
――すばらしい活動ですね。最後にお二人から読者の方にメッセージをお願いします。
中嶋 是非お子さんも誘って、各地の海と日本プロジェクトなどのイベントに参加していただけたら嬉しいです。あるいは地域の海に親しむ企画を作って運営する側として、こういう事業をしたい、こんな事を実現させたい、という事業プランのご相談は本当にウェルカムです。特に異業種・異分野いろんな方々を巻き込んだ取り組みは、新しい何かを生み出せる可能性があります。
企業の皆様の中で、それぞれの強みや持ち味を活かして海の課題解決に取り組みたい、地域のさまざまなセクターと連携したい、という思いをお持ちの場合は、是非ご相談いただけると嬉しいです。日本財団が結節点になって、地域の活動の中で助成金を活用いただく方法を考え、協働させていただくのは大変ありがたいことです。
青柳 日本だけでなく、世界全体が食料不足やエネルギーの安定供給、気候変動など、さまざまな課題や危機に直面しています。これらの問題に対する解決策は海にあると信じています。これからも海を中心に据えて、世界の課題解決に向けて皆さんと共に努力していきたいと思います。
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