Green&Circular 脱炭素ソリューション

ソリューション電池・水素

最終更新:2023.08.09

水素発電とは? その仕組みや来るべき水素社会における役割を解説

水素発電は、水素火力発電とも呼ばれ、火力発電に用いられる石炭や天然ガスなどの化石燃料を代替する燃料として、水素を燃料として発電します。発電分野における脱炭素化の手段として期待される水素発電、その仕組みや現状と課題について、国内外の取組み事例とともに解説します。

水素発電の仕組み、3つの方式

水素発電とは、水素を燃料として発電することであり、
その方式には「汽力発電」「ガスタービン発電」「燃料電池」の3つがあります。
・汽力発電
水素をボイラーで燃焼させることで蒸気を作り、蒸気によりタービンを回転させることで発電する方式です。
現在の火力発電においては主流な方式となっています。

・ガスタービン発電
水素をガスタービンで燃焼させることで発生させたガスによりタービンを回転させることで発電する方式です。
ガスタービン単体ではなく、汽力発電とガスタービン発電のコンバインド方式で用いられることが多く、
ガスタービンからの排熱をボイラーで熱利用することによって、高い熱効率を発揮する発電方式です。

・燃料電池
水素を燃焼するのではなく、水素と酸素を化学反応させることで発電する方式で、水の電気分解の逆反応としてよく知られています。発電量を大きくするほどコストがかさむため、大規模発電には不向きとされており、
「エネファーム」に代表される家庭用燃料電池や、FCV(燃料電池自動車)での利用が進められています。
※燃料電池は定義上「水素発電」に該当しますが、本記事では「水素発電」は汽力発電またはガスタービン発電を指すものとして解説しています。燃料電池について知りたい方は「水素エネルギーとは?メリットや利用方法を解説!」を参照ください。
汽力発電とガスタービン発電はいずれも、火力発電で採用されている方式の一つで、
火力発電における燃料(石炭や天然ガス)が水素に置き換わったものと捉えれば理解がしやすいと思います。
燃料に石炭を用いる火力発電は「石炭火力発電」、天然ガスを用いる火力発電は「ガス火力発電」とも言われ、
その観点からは「水素火力発電」とも呼ばれますが、一般には「水素発電」と言われることが多いようです。
資源エネルギー庁 燃料電池推進室「水素発電について」より

水素発電が期待される役割

・火力発電の燃料を化石燃料から水素に代替することによる、発電分野の脱炭素化
火力発電は日本の発電量の約76%を占める主要な発電手段となっています。その燃料には石炭や天然ガスが用いられ、CO2を排出する電源でもあります。これを水素に代替することで、火力発電の脱炭素化が可能となります。
既存の火力発電における燃料を水素に代替することになりますので、既存設備の改良によって水素燃料を利用することができる点も大きなメリットとなります。

・電力の需給調整機能
脱炭素社会の実現に向け、発電分野では太陽光や風力などの再生可能エネルギーの導入が積極的に進められています。しかし、再生可能エネルギーは天候などの影響により発電量が安定しないデメリットを持っています。一方、水素は貯蔵することができるので、既存の火力発電と同様に、発電量の調整、ひいては電力の需給調整機能を担うことが可能です。例えば、再生可能エネルギーを使って発電された余剰分の電力を利用して、電気分解により水素を生成して貯蔵、電力が必要なときに貯蔵された水素で発電するといったことも可能です。
現在は、火力発電(燃料によって石炭火力発電・ガス火力発電などと呼ばれる)が発電量の調整機能を担っている。これが水素火力発電になれば、既存の火力発電のような発電量調整ができるだけでなく、再生可能エネルギーにより発電された余剰電力を水素に変換して貯蔵することも可能となる。
図は、資源エネルギー庁 再エネの大量導入に向けて ~「系統制約」問題と対策より

水素発電の課題① 技術的課題

水素は天然ガス等の既存の燃料に比べ、体積あたりの発熱量が低い・燃焼速度が速い ・断熱火炎温度が高いといった燃焼特性があり、これによって技術的な課題が発生しています。そのため、現在は既存の燃料に水素を混ぜて利用する「水素混焼」方式が取られており、さらには水素を100%使用する「水素専焼」を実現するための技術開発も進められています。
・燃料発熱量が低いため、火力発電設備のガス流量を増加させる必要がある
水素は天然ガス等の既存の燃料に比べて燃料発熱量が低く、同じ発電量を確保するためには既存燃料より多くのガス(水素)を必要とします。そのため、既存の火力発電に水素を用いる場合には、ガス管などに工夫が必要となります。

・燃焼速度が速く、逆火による燃焼器(バーナー)の焼損が起こりやすい
水素は燃焼速度が速いため、燃焼器の火炎が逆流する「逆火」が起こりやすく、主要部品の焼損が起こりやすいという問題があります。

・断熱火炎温度が高く、NOx(窒素酸化物)が発生しやすい
水素は断熱火炎温度が高く、局所的にホットスポットが起こり、空気中の窒素と酸素が結びついてNOx(窒素酸化物)が発生しやすくなります。
このような問題に対処するため、燃焼器(バーナー)の開発といった技術開発が進められており、大規模ガス発電における水素の混焼率を初期は30%程度から、以降段階的に高め、将来は水素専焼にまでもっていきたい考えです。

水素発電の課題② 水素供給の課題

火力発電などの発電分野に水素が利用できるようになれば、大規模な水素需要が創出され、水素が急速に普及することが期待されます。一方で、これに対応する充分な水素を安定的に供給する必要が生まれます。
・クリーン水素の製造・供給
水素は燃焼時にはCO2を排出しないクリーンエネルギーとして知られています。また、燃料として注目される以前から、さまざまな用途で利用されてきましたが、そのほとんどが化石燃料から生成される「グレー水素」であり、製造過程でCO2を排出します。これに対し、製造過程におけるCO2排出を低減した「クリーン水素」の製造・供給が進められています。既存燃料と比較した製造コストの高さは、クリーン水素普及・拡大に向けた課題の一つですが、脱炭素社会に向けては「クリーン水素」を競争力のある価格で安定供給することが必要とされています。

※水素エネルギーの作り方や種類などについて知りたい方は
「水素エネルギーとは?メリットや利用方法を解説!」を参照ください。

・水素サプライチェーンの構築
大規模な水素需要が発生すれば、それに見合う水素の供給が必要となり、水素サプライチェーンの構築も必要となります。再生可能エネルギーを用いて水を電気分解することで生成した水素は「グリーン水素」と呼ばれる「クリーン水素」の一つですが、再生可能エネルギー資源に乏しい日本では、その大半を輸入に頼ることが見込まれています。そのため、国内外で安定的に水素を供給するサプライチェーンの構築が望まれています。

水素発電の現状 世界と日本の動向

水素発電はこれまで、国内外で数MW規模の小規模な実証実験がおこなわれてきました。しかし、近年では水素エネルギーがますます注目されており、大規模な水素発電で水素専焼を目指す実証実験が世界各地で始まっています。
・オランダNuon Magnum(ヌオン・マグナム)発電所
同発電所では、132万kW級の天然ガス焚きガスタービン発電設備3系列のうち、1系列(44万kW相当)を2023年までに100%水素専焼へ切り替える計画を発表しています。
これにより、1系列当たりのCO2排出量年間約130万トンのほとんどを削除する計画です。

・米国ユタ州
米国ユタ州では、グリーン水素を活用した84万kWの大型水素発電を2025年に運転開始予定。当初は水素混焼率30%でスタートし、2045年には水素専焼運転を目指す計画です。また、水素混焼率を30%とすることで、最大で年間約460万トンのCO2排出量削減(東京都の約2.4倍の面積の森林が吸収するCO2の量に相当)に寄与するとしています。

・日本 水素発電実証設備「高砂水素パーク」(三菱重工業)
三菱重工業は、開発・製造拠点を置く高砂製作所(兵庫県高砂市)にて、水素製造から発電までにわたる技術を一貫して検証できる「高砂水素パーク」を整備すると発表。この取組は世界初となります。2025年の商用化に向け、566MWの大型水素ガスタービン発電施設の長期実証運転を通じて、水素30%混焼発電を検証。中小型水素ガスタービンについては、水素100%の専焼実証をおこなうとしています。

・日本 富士吉田水素発電所(イーレックス、Hydrogen Technology)
同社では、2022年4月より国内初となる水素専焼の発電所として実証実験を開始しています。燃料には製造工程においてもCO2を排出しない「クリーン水素」を用い、出力は320kWと小規模ながら、次のステップには大型水素実証設備の検討も進める計画です。また、今後は水素ステーションやケミカル用途としての水素利用を目的に検討を進めていくとしています。
環境省 水素発電の実証状況(例)より
これら水素発電に関する実証実験は、発電設備のみならず、水素の製造、水素を燃料とした発電、電力の供給まで一貫して検証するものも多くあり、クリーン水素の製造、水素サプライチェーンの構築といった水素発電の周辺課題にも対応しています。

三井物産の取り組み

水素は、火力発電の燃料として利用することで発電分野の脱炭素化を実現するだけでなく、水素の大規模な需要を創出するものとして期待されています。同時に、その大規模需要に対応すべく、クリーン水素の製造や水素サプライチェーンの構築が国内外で進められているところです。
三井物産では、「グローバルな水素サプライチェーンの構築と日本国内での水素事業の創造」「海外地産地消型水素事業の推進・創造、エコシステムの構築」を目指し、クリーン水素製造プロジェクトや水素サプライチェーンの構築に取り組んでいます。
三井物産の水素に関する取組みは本サイト「電池・水素」をご参照ください。

水素社会実現に向けた日本の現在地

日本はカーボン・ニュートラルに向けた水素の重要性を早くから認識し、世界に先駆けて2017年に「水素基本戦略」を策定しました。また、2023年6月には「我が国の水素社会への歩みは、技術開発段階から商用段階への移行を迎えており、水素社会実現の成否が、国家の競争力を左右する」として、水素基本戦略が改定されました。その中で、水素発電は「脱炭素型発電」として重点分野の一つに位置付けられ、大規模な水素需要を創出するものとして商用化が期待されています。

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