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CEOメッセージ

三井物産は常に発展段階。
不変的なコア機能を絶えず磨きながら、
ポートフォリオをダイナミックに変革し
成長を続けていきます

代表取締役社長

堀 健一

三井物産が目指す姿について教えてください

三井物産とは

当社は、トレーディング、サプライチェーン・マネジメント、リスクマネジメントをはじめとする商社の基本的な機能をコア機能とし、長い期間にわたり、ぶれることなく磨き、拡充し続けてきました。そして、その過程でグローバルなネットワークを駆使して発掘した事業機会から、ビジネスを創り、育て、展(ひろ)げることで、事業ポートフォリオを継続的に、かつダイナミックに変革してきました。この変革が、当社の企業活動そのものです。このような事業ポートフォリオを有する当社自身は絶えず発展段階であり、不変的なコア機能を絶えず磨きながら成長し続ける事業体です。

Partner of Choiceを目指して

当社は設立以来、世界中の社会課題に対して、事業を通じた現実解の提供を続けています。社会課題は複雑化・高度化していますが、グローバル・各産業にまたがる事業ポートフォリオとコア機能を活用し、そこで得た知見を業際で組み合わせることで、顧客・地域・産業に合わせた解決策を提供しています。さらに、これらの解決策は、他地域や他産業への横展開も可能です。例えば他地域へ展開する場合、地域コミュニティへの深い理解と洞察を得ながら、地域性・文化・発展段階等に合わせたテーラーメイドな現実解を提供しています。このような価値創造の実績を積み重ね、信頼を蓄積し、世界中のパートナーから選ばれる企業、「Partner of Choice」を目指しています。

人材と企業文化

価値創造を支えているのは、人材と企業文化です。当社社員は、一人ひとりが高度な機能を発揮しながら、絶えず知見を積み上げ、自らを磨き、徹底してプロフェッショナリズムを養っています。こうした自律的な社員が互いをリスペクトし、チームを形成することで、業際を超えた、あるいは地域を超えた協業が自然と起こっています。この根底にあるのは、「自由闊達」という企業文化です。実際に当社社員は、地域軸や商品軸等のさまざまな組合せからイノベーションを生み出す経験を持ち、また共有しています。このような人材と企業文化は、当社の価値創造を支える強みです。

中期経営計画2026(中経)の1年目を振り返り、
経営環境認識と成果について教えてください

経営環境認識

地政学的リスク、サプライチェーンの分断や偏在リスクが上昇する可能性は引き続き高く、金利や為替等のマクロ経済要因とともに、常に注視しています。金属資源やエネルギー、素材、食料、ヘルスケア等、物資・サービスの長期的な希少性が高まる中で、安定的なサプライチェーンの責任ある構築・管理に対する当社の役割は大きいと考えます。

また、サステナビリティの観点では、気候変動や人的資本等の重要性は更に高まっています。2050年ネットゼロエミッションに向けた取組みや、当社の競争力を保ち、そして高めるために多様性ある人材の採用・育成・登用を引き続き世界中で推進しています。さらに、自然資本や人権・サプライチェーンについても、当社として感度を高く持って取り組んでいます。

中経1年目の振り返りと取組みの成果

3期連続で1兆円規模の基礎営業キャッシュ・フローを実現し、当期利益とともに歴史的に高い水準で推移しています。これが1つ目の成果です。これは、事業ポートフォリオの良質化、統合的なリスクマネジメント、事業環境に応じたアップサイドの取込みとダウンサイドリスクへの対応、既存事業良質化につながるミドルゲームへの全組織を挙げての注力等、さまざまな取組みが機能した結果によるものです。引き続き練度を上げ、更なる成長に結びつけたいと思います。

2つ目の成果は成長投資の進捗です。中期経営計画2023(前中経)期間から、次の成長に向けた潜在的な投資案件やテーマをいち早く追いかけてきました。その結果、豊富な案件パイプラインを手元に持ち、どの案件を優先的に進めるべきかを検証できる状況になっています。年間1兆円レベルの投資の実行は、その何倍もの規模の案件パイプラインの中から良質な案件を厳選して初めて可能になるという感覚を持っており、当社の投資計画は豊富な案件パイプラインに裏打ちされた、実行性が高いものです。

3つ目は、実行体制の変化です。部門間の垣根を越えた、業際的な取組みを後押しする体制の確立が進んできました。結果として、中経で掲げた3つの攻め筋において、産業横断的な組合せによる現実解の提供を通じ、当社らしい価値創造が結実しつつあります。加えて、当期はガバナンス体制の変更を行いました。当社の取締役会は、持続的な成長に向けて、CEOとして非常に多くの示唆を得られるものとなっています。多様な知見と経験を有する社外取締役の視点が入り、充実した議論を担保する仕組みが更に強化されるように、絶えずガバナンス体制を見直し、進化させています。

更なる成長に向けて

持続的な成長に向けて多くの成果や手応えを感じている一方、業際での取組みを更に拡大していきたいと考えています。当社がグローバル・産業横断的に商社機能や知見を組み合わせて創出している価値は「業際プレミアム」であり、不断のイノベーションが求められる不透明な世界において、その価値はますます高まっていきます。当社の事業ポートフォリオの良質化、成長投資、部門の垣根を越えた取組みの進捗を踏まえると、より多くの事業領域で更なる業際プレミアムを創出できると確信しています。当社のポテンシャルを更に発揮できるように、経営として先導していきます。

三井物産のポートフォリオ経営について教えてください

ポートフォリオ経営の強み

当社のポートフォリオ経営には3つの強みがあります。1つ目は、早期に収益貢献を狙う事業と長期的な収益基盤を盤石にする事業の両方を、既存事業としても、また案件パイプラインとしても有していること。2つ目は、先進国と新興国に事業をバランスよく持ち、また、いずれの地域においても、優れた企業コンソーシアムを主体として事業に取り組んでいること。3つ目は、当社に知見の蓄積がある領域「Own Field」とその周辺領域で知見を組み合わせ、当社にとって未知の領域を極小化しながら、業際プレミアムを創出していることです。

これらの強みを活かして構築してきた当社の事業ポートフォリオは、地政学的リスク、カントリーリスク、市場リスク等、さまざまなリスク要因が複合化する経営環境下において、統合的なリスク管理の要にもなっています。すなわち、分散された事業ポートフォリオによりリスクを低減し、パートナーを含めた知見の組合せにより当社にとって未知の領域を限定し、リスク管理の実効性を高めています。

こうした事業ポートフォリオの分散と組合せの技を使うことで、早期収益貢献と長期収益基盤構築の両立を実現できる体制の構築と、環境変化に対する収益の下方耐性強化は、相応に進捗していると考えています。

さらに、事業ポートフォリオ全体の強化のために、常に資本コストを意識し、キャッシュ創出力を高める観点でROICを重要指標と位置づけています。そして、個別産業の特性やリスクプロファイルに応じたROIC向上を意識しながら事業ポートフォリオの変革に取り組んでいます。

今後も変革の実績を積み重ね、当社の強みを積極的に深めていきます。

当社らしい事業ポートフォリオとは

事業ポートフォリオは多くの当社らしい事業により構成されており、その代表的な型は、信頼を長期間蓄積したパートナーとの協業によるもの、長きにわたる知見の蓄積がある事業領域におけるもの、そして産業をまたいだ機能や知見を組み合わせたものです。

信頼を長期間蓄積したパートナーとの協業の一例として、アラブ首長国連邦(UAE)でのLNG事業をご紹介します。当社は1970年代から、UAEのエネルギー産業を代表する企業であるアブダビ国営石油会社(ADNOC)とLNG事業を共同運営しています。この50年以上の取組みの歴史を経て、今回、UAEのルワイスにおける新たなLNG事業に、エネルギーメジャーと共に強力な国際コンソーシアムを組成して参画します。当社のLNG事業は8カ国で合計11プロジェクトを展開しており、その一つひとつが当社らしい特徴を持っています。

また、長きにわたる知見の蓄積と、産業をまたいだ機能や知見を組み合わせた事業の一例として、同じくADNOCと共同検討を進めているクリーンアンモニア事業があります。当社には、50年以上にわたるアンモニアトレーディングの実績があり、日本向け輸入では約6割のトップシェアを維持しています。また、複数のアンモニア製造事業を操業してきた経験と併せ、専用船やタンクの操業を含めた、危険化学物質であるアンモニアの取扱いについて熟知しています。加えて、長年のLNGの日本・アジア向け供給実績があります。クリーンアンモニア事業は、化学品とエネルギーの産業横断的な知見の組合せが不可欠であり、業際での取組みがプレミアムにつながる当社らしい事業です。

事業ポートフォリオの入替え

事業ポートフォリオ全体の強化においては、資産の入替えも重要です。価値を創出できる間は保有し、その上で、責任を持って事業を継続して価値を高めていただける第三者にバトンを渡し、当社は新たな価値を創造できる領域にシフトしていく。このようなダイナミックな拡大型の事業ポートフォリオ入替えを資本効率・事業軸・地域軸を踏まえながら実行しています。

拡大型の事業ポートフォリオの入替えの一例は、インドネシアにおけるパイトン石炭火力発電事業です。パイトンは、1990年代におけるプロジェクトの立上げ、その後の安定稼働を通じて地域社会への安定的な電力供給を担い、長きにわたり地域社会への貢献、また当社への収益貢献を続けてきました。しかし、社会課題や外部環境の変化を踏まえ、責任を持って事業継続できる事業者への売却を実行しました。このように、当社が社会に対して付加価値を提供できる期間と、そのプロジェクトの保有期間をできるだけ一致させるように取り組んでいます。そして、現在立上げ中のタイにおけるガス火力発電事業に取り組み、パイトン売却以降も同レベルの収益貢献を維持し、長期的には再生可能エネルギー事業により収益貢献が拡大していく見込みです。

企業価値向上の取組みについて教えてください

CEOとして組織・社員をリード

経営会議メンバーから構成されるリーダーシップチームは、事業ポートフォリオ全体の運営、個別の骨太の成長施策、パートナー戦略等の推進において、当社企業活動を先導しています。また、社員が最大のアウトプットを出せるよう、会社の仕組みも継続的に議論し、アップデートしています。同時に、個性ある社員一人ひとりが知見や洞察を発揮し、業際や地域をまたいだ活躍ができるように、社員に範を示し、あらゆる後押しを行うことをコミットしています。

私自身もさまざまな機会を活かし、社員一人ひとりが自身の力をフルに発揮し成果を上げられるように、コミュニケーションを重ねています。同時に、私自身の考えを共有するために、全社員に向けたメッセージも発信し続けています。このような取組みが次世代のリーダーシップチームの育成につながり、経営の連続性の担保につながっています。

株主・投資家の皆様へ

株主・投資家の皆様をはじめとするステークホルダーの皆様との対話の継続を、非常に重視しています。皆様との対話から得た洞察は、経営改善に活かし、更には社員とのコミュニケーションにも織り込んでいます。

また、早期に収益貢献する成果の積上げと、将来の盤石な事業基盤構築の両方を絶えず進め、持続的な企業価値向上につなげます。これらの取組みを通じて獲得したキャッシュ・フローを、成長投資と、安定した配当と機動的な自己株式取得を組み合わせた株主還元にバランスよく配分することを引き続き当社経営の基本とし、収益力とROEの向上を両立させていきます。

ダイナミックにポートフォリオを変革し、業際プレミアムを創出しながら成長を続けることで、皆様のご期待に応えてまいります。

堀 健一