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役員座談会

当社ガバナンス体制の変更と更なる向上に向けて

当社ガバナンス体制の特徴

  • 高野:初めに、当社のガバナンス体制の特徴についてお聞かせください。
  • 江川:当社取締役会の特徴は4つあります。1点目は、当社は監査役会設置会社として取締役会が重要な意思決定と監督の両方を担っていますが、経営会議メンバーが社内取締役或いは陪席として議論に参加することで、社内の知見を踏まえた実質的な意思決定ができることです。また、当社の意思決定では全員一致を原則としています。2点目は監査役の存在です。日本の会社は、監査役の発言が活発な会社と抑制的な会社に二極化していますが、当社では監査役が活発に議論に参加し、意思決定の妥当性を高めています。3点目は自由闊達な議論をベースに意思決定しており、経営陣が社外取締役の発言に耳を傾けていることです。4点目は社外取締役の多様性が高く、それにより意思決定の質を向上させていることです。
    取締役会の多様性は投資家などから注目される重要な要素です。日本企業が外国籍の方を取締役に迎える際に、日本在住者を選ぶケースも多いですが、当社は本当の意味で多様性を追求するため、種々検討の上で今の取締役会構成に至っていることは非常に重要だと思います。
  • 安永:日本在住の外国籍の方は日本文化に詳しく議論もしやすいですが、共通理解のもとでの議論が多く、本質的な意味での多様性に寄与していないケースもあります。日本の文化に馴染んでいない方々の方が、刺激のあるインプットや思ってもみなかった指摘をいただけることも多く、多様性の価値を感じます。
    グローバル、かつ産業横断的な事業に取り組んでいる当社にとって、日本的価値観だけでの議論は、将来のリスクや機会損失につながるという危機感を持っています。そのため、多様な価値観や専門性を持つ外国籍の方、海外企業のトップを務めた経験のある方や海外企業の日本法人を率いた経験のある方などを迎え入れ続けることは、当社がグローバル企業であるための必要最低条件です。
  • 江川:おっしゃる通りです。そのような方々に来ていただくことで、業界の専門知識が得られる利点に加え、海外企業のガバナンスをよくご存じなので、例えば、社外取締役と執行の関係等に関しても、さまざまな事例に基づく意見が聞けて有益と思います。
  • 高野:当社の任意の委員会、特にガバナンス委員会についてどのように評価されますか。
  • 江川:2004年時点でガバナンス・指名・報酬の3つの委員会をつくったことは先進的ですし、そもそもガバナンス委員会を持っている会社は少数です。通常、取締役会において、その実効性や機関設計などについて議論することになりますが、ガバナンス委員会があることで、それにフォーカスした議論ができます。これらの議論の重要性を認識しているからこそ、ガバナンス委員会を設置していますし、対外的にもその意義が理解されやすいと思います。

ガバナンス体制の変更

  • 高野:今回のガバナンス体制の変更は、現行の機関設計である監査役会設置会社を維持し、社内取締役を9名から6名に減員し、社外と社内の割合を6対6の同数にしました。また、執行体制も見直し、経営会議メンバーをリーダーシップチームとして改めて位置づけ、ジェネラル・カウンセルを設置しました。江川さんは今回の変更をどのように評価されていますか。
  • 江川:良い変更と思います。従前は取締役の人数が多く、社内取締役比率がやや高いなどの問題がありましたが、それらを解決することができました。体制については監督を担う取締役とリーダーシップチームを峻別し、取締役会に入るのはChief Officer職を担っている方として、役割分担が明確になりました。また、営業管掌の方は取締役ではなくなりましたが、取締役会に陪席することで、当社の強みに沿った良い形が出来上がったと思います。
  • 安永:過去を振り返ると、私が社長に就任した2015年当時の社外取締役は5名でしたが、企業経営の経験者よりも、政府系や学術系をバックグラウンドに持つメンバーが多い構成でした。経営会議で全社的な議論をし、取締役会で社外取締役の知見を入れて議論していましたが、より広くグローバルや企業経営の視点を反映させるために、取締役会に更に多様性あるメンバーを入れる必要性を感じていました。
    会社経営全般の議論をするためには、個別案件の議論を通じて、人・組織マネジメント、当社の地域軸と商品軸がどのように機能しているか、さらには当社がどのように現在の収益構造に至ったか、そして将来にわたる仕事の展開へどのようにつながるかなどを理解いただく必要があります。そのために、バックグラウンドの多様性にもっと執着すべきと考え、取締役会の構成を変えてきました。現在の6名の社外取締役の方々は、国籍、ジェンダー、キャリア、考え方等多様性に富み、私が考える取締役会の1つの理想型、すなわち案件の審議のみならず、案件の背景を含めた議論ができるレベルの方々に集まっていただいています。
  • そこで1つの理想形に近づいたと思っていましたが、取締役会をもっとインタラクティブにする必要がある、社内対社外の質疑応答のような議論になっているのでは、という指摘も出てきました。取締役会は、個別案件の審議に留まらず、それを通じて会社の未来を決めていくために必要なことを案件プラスアルファで議論する方向に持っていくべきという指摘もあり、そのとおりと思いました。
    現在の取締役会は、この会社が将来にわたって成長し、社会に貢献するためのあり方、そのための資源配分など、様々なテーマを高い視座で活発に議論しています。
  • 江川:今のお話を伺い、当社の取締役会の変遷がよく分かりました。
    近年、多くの日本企業が社外取締役の比率を高めてきたので、当社も比率を少し高めてもよいと思っていましたが、今回の株主総会をもって社外取締役の比率は5割になりました。
  • 高野:今回の検討において、何か印象的な議論はありましたか。
  • 江川:最も印象的だったのは、社内取締役の方々の位置づけについてです。一番長く議論しましたし、実質的にも重要な論点だったと思います。取締役会で個別案件をしっかり議論するためには社内取締役の知見も必要ですし、取締役というタイトルが外れたことで、例えば、対外的に不利なことにならないかといった懸念もありました。私たちが取締役会やガバナンス委員会で話し合った以上に、社内で様々な議論がされたと想像しています。しかし、それらを考慮した結果、取締役会は監督機能ということで、Chief Officer職の方を中心に運営し、リーダーシップチームは経営会議メンバーという重みを対外的にも打ち出していく、と整理できたことはよかったと思います。結果的に監督と執行という役割分担が明確になりましたし、社外取締役比率向上によって監督の強化につながったと思います。
  • 安永:今回、ガバナンス委員会でガバナンスのあり方をゼロから議論しました。管掌役員が取締役でなくなったら権限が減るのか、あるいは役割期待が変わるのか。そうではなく、むしろ、経営会議メンバー、リーダーシップチームの一員であることを前面に出し、取締役であることと執行側にいるということを対比的に明確化することで、新たなガバナンス体制においても管掌役員が十分に機能できるという考えに至りました。
    さまざまな議論を踏まえ、最終的には海外企業の取締役会の構成も考慮し、決めました。海外企業の取締役会メンバーは、執行側はCEO、またはCEOとCFOくらいであとは社外取締役で、執行は執行の意思決定機関であるマネジメントコミッティーなどのリーダーシップチームに委ねられています。海外に対して、今回の体制変更によって海外標準になったと言うと、この体制でも社内取締役が多いと言われます。一方、日本の中ではずいぶん先鋭的なことをしますね、と言われます。
    管掌役員に対しては、権限は変わっていないどころか、より全社目線で議論する必要があるということを伝えていますし、社内に対しても、これによって当社は本当の意味でのグローバル企業への道筋を歩んでいると言っています。
    加えて、これだけの多様な6名の社外取締役に入っていただいているので、もっと社外取締役の役割期待、責任を大きくした方が、要するに15分の6ではなく、12分の6として、一人ひとりの意見の重さを、12名が感じながら会社のかじ取りをしていく方がよいと考えています。

近年の取締役会の運営の変化

  • 高野:ここ数年、取締役会の実効性を高めるために、運営においてさまざまな取組みを進めています。例えば、取締役会付議事項の付議基準の見直し、社外役員への事前ブリーフィングと社外役員会議の充実化、社外役員への情報提供の強化などが挙げられます。これらの取組みについて江川さんはどのように感じていますか。
  • 江川:取締役会の付議基準を見直して、少数の骨太の議題に集中する取組みは以前から進められています。また、それと並行する形で、取締役会の頻度を減らす議論もありました。特に海外在住の取締役の声が大きかったと思います。海外企業は、取締役会の頻度が少なく、1回当たりの時間が長くなります。
    以前、私が研究したときに参照した調査では、アメリカの取締役会は対面が年に4~5回、電話によるものが1~4回、合計5~9回で、所要時間は対面が平均5時間以上、電話が平均1時間でした。現在の当社の取組みは、海外のプラクティスに近づいているというイメージを持っています。開催頻度を減らし、オンラインや書面決議で緊急性のある案件を補う一方、対面では時間をかけてじっくり骨太の議論を行っています。事前ブリーフィングの充実に加え、取締役会の前後にフリーディスカッションや社外役員会議等を組み合わせることで、実質的な議論を増やしています。事前ブリーフィングの際には、戦略的に重要だが取締役会に付議されない案件についての説明もあります。
  • 安永:取締役会の開催頻度については、多過ぎないかと思っていました。一方で、個別事業案件のスケジュールは、パートナー、ホスト国などとスケジュールを合わせる必要があるので、3ヶ月に1回の審議では間に合わないこともあり、案件形成のスピードに合わせて一定の頻度で開催する必要があります。この状況の中で、できるだけ前広に個別案件の議論をする、あるいはオンラインで対応するといった工夫が必要と思います。但し、オンラインでは重要議題が審議しにくいという意見もありますので、実開催の必要性を認識しながら、いかに運営を工夫していくか、これは継続的な課題です。
  • 高野:取締役会で取り上げるテーマの変化についてどのようにお考えでしょうか。
  • 江川:いくつかの顕著な変化が見られます。例えば、社外取締役の提案によって、ポートフォリオの見直しの議論やサステナビリティの議論が増加しました。HSE(健康、安全、環境)の報告、特にセーフティの議論も充実してきました。
  • 高野:私も去年まで事務局を担当していましたが、社外取締役の方々からの、より大きな戦略的な議論をすべきというご意見を踏まえ、取締役会として経営上の重要事項を審議する機会を増やし、また個別案件の審議においても、全体戦略における位置づけをしっかりと説明するように努めました。
  • 江川:社外役員会議などで、各事業本部の戦略や事業内容の説明を受けることはとても意義があると思います。個別案件の審議だけでは、投融資額が大きな案件の本部の理解は深まりますが、それ以外の本部との接点が少なくなりがちなので、取締役会や社外役員会議の議題設定の中でそこをうまく補っていただけていると思います。

更なるガバナンスの向上に向けて

  • 高野:更なるガバナンス強化に向けて、どのような改善を行うべきと考えていらっしゃいますか。
  • 江川:取締役会では、会社全体を俯瞰しながら戦略を議論し、ROICを意識しながらポートフォリオの見直しを引き続き深めていくことが必要と思います。また、大型投資については、最初にFID(最終投資決断)を行ったときに、例えば、2~3年後にレビューすることをあらかじめ決めておくことも、規律づけには役立つと思います。また、ガバナンス委員会や実効性評価の中で既に意見が出ていますが、社外役員だけでの議論も定期的に行うと良いと思います。
  • 安永:社外役員の皆さんの議論で、社内が見えてないものを指摘いただくことは、ぜひやっていただきたいと思います。
    一方で、現場では案件のPDCAサイクルをずっと回しています。すべての案件のミドルゲーム*の進捗については、ポートフォリオ管理委員会でも経営会議でもモニタリングしています。これらの情報を全部報告すると取締役会は回らなくなってしまうので、新規案件と課題案件に絞る必要があります。PDCAの回し方も効率的に行う必要があると思います。例えば、報告書が毎週のように出てくる課題案件もあり、執行側の社内報告のあり方についても別途考える必要があります。また、現場視察は社外役員の皆さんに当社の価値創造や出資先の企業価値向上に向けた取組みを見ていただくには一番よい機会と考えていますので、例えば、今年は北米の現場に訪問いただきましたが、地域ごとに現場視察ができるようにスケジューリングするなど工夫していきたいと思います。
  • 高野:最後に、今回のガバナンス体制の変更により、取締役会議長として今後どのような取締役会にしていきたいと考えていますか。
  • 安永:自然体でやりたいと思います。人数が変わり、構成が変わっても、目標としている全員一致を重視します。反論、異論を多数決の下で封殺してしまっては、多様性の意味がないと思っています。当社の多様性を大事にしつつ、将来に向けて成長するためには、多様な社内外取締役が、皆で一致して意思決定することが必要です。それができないのであれば、そこには何か課題があるのであり、全員一致を基本線とすることを変える気はありません。意思決定の期限が差し迫り、ここで決めなければいけないといった局面であっても、議論を尽くし、全員が納得する方法を探ることが、多様性を持つ取締役会の最大の価値と考えています。そのために、もっとインタラクティブな議論をして、相互理解を深め、更に実効性のある取締役会にしていきたいと思います。

* 事業投資の入口と出口の間の段階。個別事業の強化やターンアラウンドの実行により収益力を向上