「挑戦と創造」の事例


鉄鉱石の将来的な希少性に着目し、製鉄会社の長期取引保証を基礎に、リスクを取って素早く先行者としての優位性を獲得。
厳しい経営環境が続く中でも、長期的視点に立って粘り強く選択と集中、パートナーとの信頼関係の構築と深化を進め、鉄鉱石業界でゆるぎないポジションを形成。
2000年代以降の飛躍の土台となった。
取組みの歴史
1960~1970年
- 1960年代の高度経済成長期、鉄を必要とする自動車・家電・造船・建築産業等の急成長を背景に、日本国内で大規模一貫製鉄所の建設が相次ぎました。同時に、原料である鉄鉱石の安定的確保が最重要課題となる中、当社は製鉄会社との長期引取契約を基礎とし、従来の輸入実務代行にとどまらない、鉄鉱石鉱山の開発・権益取得への投資に踏み切りました。その先駆けとなったのが、西豪州のMt. Newman JVやRobe River JVの出資です。当時の鉄鉱石価格は20ドル/トンを切る一方で、鉱山、鉄道、港湾等のインフラ整備には莫大な資金が必要でした。当社は、世界経済の成長に伴い鋼材需要が増加し続けること、高品位鉄鉱石の埋蔵が一定地域に偏在していることから、将来的には需給が逼迫するであろうことを見据えた長期ビジョンのもと、リスクを取って権益獲得を決断しました。また、ブラジルMBR(企業買収・統合などの再編を経て、現在のValeに至る)への出資により供給源の多様化にも取り組みました。

出典:State Library of Western Australia BA2817/1866
1970~1990年
- 鉄鉱石事業は常に順風満帆であったわけではありません。1970 ~1980年代は鉄鉱石価格が低迷する中、さらに石油危機による需要減、西豪州での度重なる労使紛争に苦しめられ、赤字を計上した年もありました。しかしながら、当社は長期的視点に立ち、投資を継続しながら事業の多角化を進めました。カナダの鉱山会社Québec Cartier Miningへの新規投資を行うとともに、豪州、ブラジルにおいても鉄鉱石資産を拡充しました。豪州では、1990年にYandi JVとMt. Goldsworthy JVに出資し、1967年に参画したMt. Newman JVと株主構成・出資比率を統一。これにより、BHPとの3つのJVを一体的に運営できる体制を築き、効率的なオペレーションを実現しました。また、ブラジルのMBRへの追加出資機会においては、当時の株主の中で当社のみが単独で応じました。

出典:BHP
1990~2005年
- アジア市場の著しい成長を見据え、インドSesa Goa社へ当社として初めてのマジョリティ投資を行うなど、ノウハウ・マーケット情報をさらに獲得しました。また、MBRから始まったブラジル投資は、戦略的に資産を組み替えつつ発展を続け、最終的にVale株式の取得へとつながりました。その結果、豪州から始まり、ブラジル、インド、カナダへと当社の鉄鉱石事業ポートフォリオは拡充されましたが、当社は新たな転換点を迎えます。将来、世界経済の成長にあわせ需要急増を見込んだ当社は、圧倒的な拡張ポテンシャルを持つ豪州・ブラジル資産をさらに強化する方針に転換しました。その結果、カナダ及びインド資産を売却し、現在の豪州・ブラジル集中体制を確立しました。

©Eny Miranda / Cia da Foto / Vale


設備投資・生産効率化
- 目論見通り、ついに2000年代の中国をはじめとする世界の経済発展に伴い、建設やインフラ向けの鋼材需要が急増、鉄鉱石の需給も逼迫し、鉄鉱石価格はトンあたり30ドル程度から2008年には170ドル台に急上昇しました。当社の豪州・ブラジル各資産がこの旺盛な需要に応えうる拡張ポテンシャルを持っていたことは、競合を寄せつけない差別化要因となりました。豪州では、Rio TintoとのRobe River JVやBHPとの各JVを通じて鉱山・鉄道・港湾能力を拡大し、さらにBHP傘下のJimblebar鉄鉱山の権益を新たに取得し開発を推進。ブラジルではValeの大規模鉄鉱山開発により生産能力拡大に取り組みました。急増する鉄鉱石需要に対応することで収益を伸ばし、2008年3月期には1,000億円以上の利益を生み出しています。
鉄鉱石事業:当期利益の推移

収益性
当社は1960年代からリスクを取って、品位・コスト・埋蔵量の観点で優良な大規模権益をいち早く押さえました。また、現在と比べて低い費用で鉄道・港湾等のインフラ開発を完了し、主要部分の減価償却もすでに終えています。さらに、海上貿易流通量の過半を占める鉄鉱石の3大サプライヤーすべてと長年のパートナーシップを持つという、業界において稀有なポジションを確立しています。
これらのことから、当社が参画する鉄鉱石事業はすべて、非常に高いコスト競争力と豊富な生産数量を誇り、操業も安定しています。2000年代以降の生産規模の拡大と同時に、生産設備の自動化、遠隔操作にも積極的に取り組み、コスト削減とともに安全性・生産効率向上にも取り組んでいます。
生産能力の拡張とコスト削減を続けた結果、2014年3月期と2024年3月期の年間平均鉄鉱石価格はほぼ同水準でしたが、同期間中の当期利益は約1,100億円から約3,100億円へと約2.8倍に成長しました。
当社権益持分生産量の推移



新たな「挑戦と創造」に向けて
圧倒的な強みを持つ鉄鉱石事業において、その強みをさらに伸ばすため、鉱量の拡充が必須でした。Rhodes Ridgeは、当社が約60年鉄鉱石事業を手がける西豪州地域において、過去20年にわたり参画機会を狙い続けてきた案件です。知見・実績のある分野・地域において、信頼関係を蓄積したパートナーと共に投資を行う、という当社の基本に則った案件と言えます。
同鉱山は、鉄鉱石の最大供給国である豪州国内で最高品位の鉄鉱石を有し、埋蔵量も極めて豊富です。当社は、50年以上続くジョイントベンチャーを通じ、パートナーのRio Tintoと長期にわたる信頼関係を築いています。また、当社が出資するRobe River JV及びRio Tintoの保有する鉄鉱山に近接しており、鉄道・港湾等の既存インフラの活用が可能です。当社が参画することで、他社には実現できない価値を生み出すことを目指しています。
当社の持分権益の年間生産量は現在約60百万トンで、すでに世界有数のレベルにありますが、本件取得を通じて将来的に1億トン規模に達する見通しです。本件は、鉄鉱石事業をさらに盤石化させ、収益力を数段レベルアップする案件と考えています。
また、今後重要性が高まることが予想される低炭素鉄源事業にも、これまで培ってきた鉄鉱石の知見を活用し、神戸製鋼所と共同でオマーンでの還元鉄事業の立上げに挑戦しています。本事業を通じて、鉄鉱石のみならず、還元鉄供給も手がけることで、販売商品及び機能の拡充を目指しています。
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Rhodes Ridge鉄鉱石事業の競争力
・世界最大規模の資源量
・豪州最高クラスの鉄鉱石品位
・実績あるオペレーターとの提携
・近接既存インフラ活用による低開発コスト・リスク出典:Wood Mackenzie
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Rhodes Ridge鉄鉱山の生産数量見通しとキャッシュ創出力
* 当社前提に基づく。生産数量はプロジェクト全体数値、基礎営業キャッシュ・フローは当社持分の金額。投資ハードルレートの計算は権益取得費用を含む
サイモン・リッチモンド
Simon Richmond
Rhodes Ridge JV
マネジメント委員会 議長
Rio Tinto鉄鉱石部門CFO
Rhodes Ridge JVは、三井物産との長期にわたるパートナーシップの中で、重要なマイルストーンとなるプロジェクトです。私たちはこれまで、共通の目標と価値観を共有しながら、数十年にわたり共同で事業を進めてきました。
Rhodes Ridgeは世界最大級の優良鉄鉱山であり、将来の鉄鋼需要を支えるうえで欠かせない存在です。この分野で豊富な知識と経験を有する三井物産の参画を心より歓迎します。当社の理念でもある「責任ある鉱業」に強く共感する三井物産とAMB と共に、ステークホルダー・地域社会・環境に永続的な価値をもたらすようなプロジェクトの開発を進めています。
本プロジェクトは参画する各社の共通の目標である、「世界のクリーンな鉄鋼生産への移行を支えながら、将来の世代に持続的な利益をもたらす」ことを体現するものです。
ポール・ベネット
Paul Bennett
AMB Holdings 取締役
AMBは、Wright Prospecting Groupの一員として1970年台初頭の設立時からRhodes Ridgeプロジェクトに参画し、同鉄鉱山の開発に向けて長年取り組んできました。三井物産がこのTier 1プロジェクトに参画することを心より歓迎するとともに、同社が世界の鉄鉱石事業で約60年にわたり培ってきた経験と知見がJVにとって大きな力になると確信しています。
三井物産との対話を通じて、鉄鉱石事業だけでなく、環境・気候への考え方でも多くの共通点があることが分かりました。両社は共に、持続可能な鉱山開発と社会価値の創出を重視しています。協業は始まったばかりですが、人々と地球への貢献をさらに高められる可能性に大きな期待を寄せています。