©Natsuki Yasuda

飯舘村再生支援人。

田尾 陽一さん

特定非営利活動法人 ふくしま再生の会 理事長

1941年神奈川県生まれ。東京大学理学部大学院物理専攻修士課程修了(高エネルギー加速器物理学)。元物理研究者。工学院大学客員研究員。IT企業の経営や、社会システムデザインの研究など、活動範囲は多岐にわたる。

 東日本大震災から約4年。計画的避難区域に指定された福島県相馬郡飯舘村には人の姿はほとんどなく、放置された田畑が広がっている。そして、その風景のそこかしこに、除染によって出た汚染土などの放射性廃棄物を詰めた黒い袋が山積みにされている。

 この飯舘村の再生を目指す人々が立ち上げたのが、「NPO法人ふくしま再生の会」。会を結成するきっかけは、理事長の田尾陽一さんをはじめとする市民ボランティア・研究者・医師ら十数名が、福島第一原子力発電所の事故後に福島に向かったこと。県内各地での放射線量計測を経た一行は飯舘村を訪れ、畜産農家の菅野宗夫さんに出会う。「宗夫さんは牛や牧舎を処分するため、村に残っていました。お話を伺う中で、放射能のために生まれ育った村を離れなくてはならないつらさ、生活の糧を放棄せざるをえない無念さが伝わってきました」。

2013年秋に飯舘村で試験作付米の稲刈り作業を終えて。左から、田尾陽一さん、大久保金一さん、菅野宗夫さん、溝口勝さん。田んぼで使用している測定器は、東大教授である溝口さんの研究室のもの。

 菅野さんとの対話の中で、あらためて原発事故は天災ではないと意見が一致。ここから飯舘村の生活と産業の再生を目指す、市民ボランティアや研究者と農家の協働が始まった。「飯舘村を失うことは、日本の里山が育んできた山村文化を放射能で見捨てるということ。原発推進の負の結果を飯舘村に押し付けていいのか。僕はここを廃村にしたくないのです」。田尾さんを含む専門家はボランティアとして毎週末に飯舘村を訪れ、村民と共に留守宅や農地、山林の放射線の計測や除染を行い、農業再生のための実験を行っている。活動のスローガンは“共感と協働”。「展望が見えないからこそ、村民と協働して解を見いだしたいのです」。

 活動への共感が広がると共に、ボランティアとして村を訪れる学生や社会人も増えつつある。「原発事故は次世代に大きな課題を残すことになりました。そこで、放射能はもちろん、医学、農学、経済学、社会学などを網羅した国際総合研究所を飯舘村に設立することを考えています。そこで得られた情報は世界に還元し、幅広く考えてもらいたい。そうした取り組みの中から、村の再生の道が開ければと願っています」。

©Natsuki Yasuda

【助成案件名】福島県飯舘村の生活・産業再生に向けた実験・実践活動
【助成期間】2012年10月〜2015年9月(3年)

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