©Natsuki Yasuda

里山の守り人。

田中 ひとみさん

特定非営利活動法人 つくば環境フォーラム 代表理事

1956年長野県生まれ。東京農工大学農学部環境保護学科卒業後、アジア航測で環境アセスメントの調査業務に従事。90年から牛久自然観察の森レンジャーとして勤務。2001年つくば環境フォーラムを設立、代表となる。

 日本有数の学術都市として知られる茨城県つくば市。2005年につくばエクスプレスが開通し、東京の都心部まで1時間以内とアクセスも良好だ。そんなつくば市周辺の環境の調査・研究・保全に取り組む、つくば環境フォーラムの田中ひとみさんは「都市部にありながら、里山の豊かな自然が残っている。そんなつくばの良さを継承していきたいと、10年前に米づくりを始めたんです」と話す。

 90年代後半に、ご主人の転勤でつくばに暮らすことになった田中さん。それまでも、地域で自然観察や環境保全に積極的に取り組んでいたが、つくばでは地元の人との交流が生まれ、その中から活動が広がって行った。「高齢化や産業構造の変化などで里山文化が失われつつある状況、そして自然を残したいという地元の方々の思いを知ったんです。そこで、地の利を活かして、都会の人の力を借りて、つくばの里山や谷津田を再生していければと考えました」。

©Natsuki Yasuda

筑波山麓の里山の保全活動の中から、新しい里山と人との関わりを模索している。農業体験や自然体験を通じ、地元の人の知恵と都会の人のパワーを結ぶ。

 4反5畝の田んぼを借りてスタートした米づくりは、当初は分からないことだらけだったという。「素人が始めたことですから、水の管理や猪の食害など、本当に苦労しました。それでも、地域の農家の方に教えていただき、機械や道具を貸していただきながら、少しずつお米が収穫できるようになっていきました」。

 今では田んぼも8反に広がり、参加する人たちの数も増えている。「参加者の年齢や層も広がっています。次世代の子どもたちの体験の場であることはもちろん、オーナーになれる制度を利用して、環境教育の場として参加されている企業もいます。田植え、ホタル観察、稲刈り、収穫祭などを楽しみながら、つくばの里山を守り育んでいただけたらと思います」。また、田中さんが当初から目指してきた「生き物と共生する田んぼ」にはホタルが舞い、周辺の森では国蝶オオムラサキが見られ、猛禽類のサシバが営巣するなど、自然の豊かさが増している。

 都市と農村に暮らす人どうしが結び付き、多様な生き物や里山の文化を守り育む。新しい協働のあり方は、多くの地域でも求められるものだろう。

©Natsuki Yasuda

【助成案件名】筑波山麓地域活性化に向けて〜谷津田再生から始まる都市と農村を結ぶ新たな結(ゆい)づくり〜
【助成期間】2006年7月〜2007年6月(1年)

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