©Natsuki Yasuda

海と森の賢人。

田中 克さん

公益財団法人 国際高等研究所 チーフリサーチフェロー

1943年滋賀県生まれ。京都大学名誉教授。京都大学農学部水産学科に入学し、以降40年間にわたって稚魚の生態や生理に関する研究に取り組む。2003年ころから「森里海連環学」を提唱し、活動を行う。NPO法人「森は海の恋人」理事。

 九州の有明海と東北・気仙沼市の舞根(もうね)湾。田中克さんは、この二つの海をフィールドに水辺の再生に取り組んでいる。「住まいのある京都は、有明海と舞根湾のちょうど中間。今は、舞根湾に月に数日行くとすれば、有明海にも数日行くというペースで、行ったり来たりしています」。

 小学生のころに体験した琵琶湖でのホンモロコ釣りがきっかけとなり、水産学科へ進学。その後40年以上にわたり、主に有明海の稚魚の研究を続けてきた。自ら「現役時代は専門バカの典型でした」と笑う田中さんの研究生活を大きく変えたのは、60歳を迎えるころに生み出した「森里海連環学」だった。「森里海連環学」は、森林や河川、沿岸、海洋などの生態系のつながりを科学的に明らかにし、人と自然の関わり方を考え直すための新しい学問。「それまでの私は、稚魚の研究をしながらも、稚魚が生きられる環境づくりには一つも貢献してきませんでした。さらに振り返ってみると、私たち人間が暮らす環境のためにも何もしてこなかったことに気づいたのです。そうした思いから、残る人生は自分の孫をはじめとする次世代の人の幸せと魚の稚魚の幸せのために、水辺の再生に取り組みたいと思いました」。

©Natsuki Yasuda

2014年4月にオープンした「舞根森里海研究所」にて、「森は海の恋人」代表の畠山重篤さんと。同研究所は、三陸沿岸の水産漁業の研究・教育の拠点となる施設。

 2003年から続く気仙沼のNPO法人「森は海の恋人」との交流は、社会運動としての「森は海の恋人」と、その科学的バックグラウンドである「森里海連環学」の連携へと発展。そのつながりから、東日本大震災後は舞根湾の再生にも力を注いでいる。そして長年の研究フィールドである有明海でも、地元の中高校生に環境教育の場を設けるなど、幅広い活動に取り組んでいる。「森里海連環学の最終ゴールは、自然を再生すること。そのためには、森と海の生態系のメカニズムが分かっただけでは駄目なんです。壊してしまった森と海との豊かなつながりを元に戻すには、里に住む私たち自身の暮らし方や、環境に対する価値観が変わることが不可欠。そのためには、次の世代の人たちと共に、長期的な視点に立って活動を続けていくことが必要だと考えています」。

©Natsuki Yasuda

【助成案件名】瀕死の海、有明海の再生:森里海連環の視点と統合学による提言
【助成期間】2011年4月〜2014年3月(3年)

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