©Natsuki Yasuda

森林観測人。

中静 透さん

東北大学大学院 生命科学研究科 教授

1956年新潟県生まれ。大阪市立大学大学院理学研究科後期博士課程単位取得退学(理学博士)。京都大学生態学研究センター、総合地球環境学研究所などを経て、2006年から現職。2011年東北大学植物園園長就任。

 中静透さんの研究フィールドは、白神山地や八甲田山、十和田に広がる東北の美しいブナ林。これらの森林がどのように変化しているかを定点観測し、地球温暖化が生態系に与える影響を調査している。「東北の山は、氷河期から生き残ってきた貴重な植物が残る、生物多様性の宝庫です。これは、多雪や強風といった、日本独自の自然条件の下でかろうじて残ってきたもの。言い換えると、温暖化などの環境変化が起こったときに最も影響を受けやすいんです」。

 調査の基本は、毎年同じ場所の樹木や土壌を調べること。1本1本番号を付けた樹木の太さを計測し、成長速度からCO2の吸収固定量を算出する。さらに土壌を調べて、土に落ちた葉や枯れ木が分解排出するCO2を算出し、その差し引きから、その森林がCO2を固定しているのか放出しているのかを明らかにする。

©Natsuki Yasuda

研究室で森林についての文献に目を通す。多忙のため、フィールドワークに出る時間を捻出するのが難しくなりつつあるのが悩みの種とのこと。

 とても地道な調査だが、中静さんは「同じところを長く見ることが大切なのです」と言う。「温暖化も生態系も、1年の変動が大きいので、長い目で見てこそ傾向が分かってきます。そのためには長期間取り続けてきたデータが不可欠。樹木の寿命は数百年単位ですから、100年くらいで多少気温が上がったとしても、すぐに変化は起こらないかもしれません。けれども大きな変化は、ある時突然訪れるかもしれない。そうした変化をできるだけ早めにとらえるためにも、長く地道に見続けていくことが必要なんです」。

 さまざまな標高のブナ林や亜高山帯林でこうした調査を続けることで分かってきたのは、すでに東北の森林は、温暖化によってCO2放出の方向に傾いているのではないかということだった。「この結果を踏まえて、今後は日本列島で、例えば気温が2度上がったらどうなるかというシミュレーションをしていきたい。さらに、森林の変化なり生態系の変化が、社会にどんな影響を与えるのかを、広く多くの方と共有することも自分の役割だと思っています」。その先にあるのは、温暖化の影響の緩和策にほかならない。

©Natsuki Yasuda

【助成案件名】気候変動が高緯度・高標高域生態系の生物多様性および生態系機能に影響を与えるメカニズムの解明
【助成期間】2012年4月〜2015年3月(3年)

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