©Natsuki Yasuda

福島一万世帯の声を聞いた男。

丹波 史紀さん

福島大学 行政政策学類 准教授

1973年愛知県生まれ。日本福祉大学大学院社会福祉研究科博士後期課程中退。名古屋市の知的障害児施設で勤務後、専門学校講師や短期大学での専任講師を経て、2004年3月から福島大学行政社会学部助教授。

 手に取るとずしりと重みを感じる、製本された報告書。そこには東日本大震災の原発事故で故郷を離れざるを得なかった人たちの思いがつづられている。福島県双葉郡8町村の全世帯へのアンケート調査を行い、報告書を作成した福島大学の丹波史紀さん。「福島大学では、震災1カ月後から、キャンパス内に広域避難者のための一時避難所を開設しました。事故で家族が離散し避難所を転々とする、あまりに過酷な状況に接する中で、実態を把握する調査が必要だと思ったのです」。

 事故後の混乱が続く中、自治体の協力を得るのに苦労したと話す丹波さん。県や市町村と調整を行う中、双葉郡8町村が「全世帯を対象とするなら」と申し出てくれ、ようやく調査が実現した。「アンケートが戻ってきたのは、2万5,000世帯中1万3,576世帯。膨大な自由記述からは、避難を余儀なくされている悔しさや、困難な状況を聞いてほしいという思いが伝わってきました。スペースが足りないからと、わざわざノートに書いてくださる方もいて、アンケートに込められた一人ひとりの気持ちの重みを感じました」。

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返送された膨大なアンケートを見る。今後は報告書を多くの人に読んでもらうために、自治体や大学の図書館に献本する予定だという。

 震災から半年の時点での全世帯調査は他に例がなく、国会審議や原子力賠償紛争審査会における指針作りに活かされてきた。丹波さんは「双葉郡全体で調査したことの意味が大きかった」と振り返る。双葉郡全体の復興計画を作るべきだという声に応え、大学としては、郡全体を見据えた自治体間の連携や郡全体の復興計画づくりにも協力していく予定だ。

 「何よりも、この調査結果を多くの人に読んでいただき、原発事故が起きた時にどんな被害があるのかを知っていただきたい。家族の離散、時間軸の設定の難しさ、コミュニティーの崩壊など、原発災害には独特の問題がありますが、福島が抱える問題は、原発の再稼働を控える自治体、そして福島の原発によるエネルギーで生活を支えられていた首都圏など、福島以外に暮らす人たちにも、深くつながっているのですから」。

©Natsuki Yasuda

【助成案件名】東日本大震災にともなう福島県の広域避難者に対する緊急実態調査と生活再建に関する研究
【助成期間】2011年8月〜2014年3月(2年8カ月)

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