©Natsuki Yasuda

空飛ぶ納豆科学者。

牧 輝弥さん

金沢大学 理工研究域 准教授

1973年奈良県生まれ。京都大学農学部水産学科卒業。「奇妙なもの」好きが転じて、誰も調べていない新奇な研究対象に携わるべく科学の道へ。空を浮遊する微生物「バイオエアロゾル」分野のパイオニアとして研究に取り組む。

 黄砂や花粉から、微生物や細菌、カビ、ウイルスまで。大気中に浮遊するこれらの微小粒子は総称して「バイオエアロゾル」と呼ばれる。PM2.5の拡散などで注目を集めるこのバイオエアロゾルの研究に取り組んでいるのが、金沢大学の牧輝弥さん。「きっかけは、2007年に中国のタクラマカン砂漠を訪れたことでした。それまでは水や土壌にいる微生物の研究をしていたのですが、砂漠で大気中の微生物を採取して、日本に持ち帰って分析をしてみたんです。そうしたら予想を上回る量の微生物が採取できて、それ以来、バイオエアロゾルが専門分野になりました」。

 当初は、黄砂と共に日本に飛来する微生物による病原菌の伝播や動植物への健康被害などを研究していた牧さん。ところが、2010年に中国政府から調査禁止を言い渡された。「それならば、病原菌ばかりでなく、より広い視野に立ってバイオエアロゾルを研究しよう」と考えた牧さんは、ある一つの菌に着目した。「採取した中に納豆になりそうな菌があったので、夏休みに作ってみたんです。すると部屋の中に納豆の匂いがプーンと充満してきて。夏休みで誰もいなかったのが幸いでした(笑)」。

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研究室の学生と共に、バイオエアロゾルの研究に励む。納豆の開発のほかにも、バイオエアロゾル対策に効果的なマスクや空気清浄機の研究や開発も進んでいる。

 試しに食べてみると「納豆みたいな味がして、しかも粘る。これは間違いなく納豆だろうと。ただ僕が食べただけなので、これは納豆屋さんに聞いてみようということで、地元・石川県の金城納豆さんに持ち込んだんです」。こうして始まった金城納豆とのコラボレーションは、「そらなっとう」として商品化され、金沢大学生協での販売を経て、2012年秋には市販がスタート。こうした有用微生物の研究が評価されたのか、今では中国での調査活動も再開した。「納豆づくりでは、われわれの発酵食品文化のルーツを感じることができました。バイオエアロゾルの研究を始めて8年が経ち、大気中には予想外にいろいろなものが飛んでいることが分かってきています。今後は、大気中の微生物が環境に与える影響を、エコロジーの観点から調査していきたいと思っています」。

©Natsuki Yasuda

【助成案件名】バイオエアロゾルが引き起こすヒト健康への影響とその大気防疫システムの構築
【助成期間】2012年4月〜2015年3月(3年)

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