CFOメッセージ

強固な財務基盤を維持しつつ、
ダイナミックなキャピタル・アロケーションを実行し、
ROEの向上に取り組みます
代表取締役 常務執行役員
CFO(チーフ・フィナンシャル・オフィサー)
田中 誠
CFO就任にあたり、特に大切にしたい想いや
考えを聞かせてください
入社以来、長年にわたり財務業務に携わってきました。当社の財務業務には、取引金額の大きさに加え、市場と24時間向き合う為替・金利ディーリング等、常に緊張感のある対応が求められる仕事もあります。こうした経験を通じ、多くの方々に支えられて仕事ができていることを実感するとともに、一人ひとりのバックグラウンドや置かれた状況を理解し、尊重し合うことが、組織の持続的な成長につながると考えるようになりました。
だからこそ、社内外を問わず仕事を通じて接する人の立場や意見を尊重しながら、一人ひとりが自らの経験や能力等の強みをもとに考えを率直に発言し、議論し合える自由闊達な企業風土のより一層の醸成を図ることで、当社の「挑戦と創造」を支えていきたいと考えています。
2026年3月期末時点で、当社の総資産は約20兆円、有利子負債は約5兆円と、過去最大規模に達しています。CFOとして、当社が長年築き上げてきたリスク管理の考え方を継承しながら、財務健全性を支える連結経営基盤の整備や内部統制の強化をさらに進めるとともに、健全なリスクテイクを後押しし、企業価値向上に取り組んでいきます。
中経2026の総括と、中経2029で目指す
戦略について教えてください
中経2026の3年間においては、不確実性とボラティリティの高い経営環境が常態化する中でも、5期連続で1兆円規模の基礎営業キャッシュ・フローを実現し、当社の強固なキャッシュ創出力をあらためて実証できました。
また、既存事業の強化やターンアラウンド、成長投資の収益貢献により、基礎収益力は着実に拡大し、2027年3月期は当社史上最大となる1株あたり25円の増配を予定しています。さらに、2030年以降の収益の大きな柱となる大型投資も実行し、充実した3年間だったと評価しています。一方で、事業ごとの収益性・資本効率のばらつきや赤字・低収益事業といった課題も明らかになっており、投資規律をより一層高める必要があると考えています。
中経2029では、経営環境の変化に応じたキャピタル・アロケーション(資本の最適配分)の実行と、ポートフォリオ管理の強化が特に重要であると考えています。特に、ROEを重要指標の中心に位置づけ、当期利益や基礎営業キャッシュ・フローに加えて、ROIC(投下資本利益率)も重視していきます。
中経2029で掲げているROE12%という目標には、どのような経営の意思が込められているのでしょうか
ROE12%には、資本市場から求められるリターンを上回り続けるという、明確な経営意思を込めています。2030年以降は大型投資案件の収益貢献開始により、さらに高いROEを目指していますが、そこに至る道筋としてROE12%という目標を確実に達成したいと考えています。そのためには、ターンアラウンドを含む既存事業の基礎収益力向上、ポートフォリオの入替え等の地道な取組みの積上げが必要です。
また、ROE向上にあたっては、分子の当期利益の拡大と同時に、分母である株主資本を適切に管理する必要があります。中経2026においても増配や機動的な自己株式取得を実行してきましたが、中経2029では株主還元による株主資本の管理をより意識して取り組んでいきます。
加えて、ステークホルダーの皆様との対話も不可欠です。ポートフォリオ戦略や投資判断の透明性、各種KPIの進捗状況や資本コストに対する考え方の共有を通じて、当社への理解を深めていただくことが、企業価値の最大化につながると考えています。
中経2029の戦略として挙げられた、
キャピタル・アロケーションについて教えてください
中経2029におけるキャピタル・アロケーションの基本的な考え方は、「強固なキャッシュ創出力を基盤に、経営の選択肢を幅広く持ち、経営環境の変化に応じて機動的に資金配分を行うこと」にあります。
当社の安定したキャッシュ創出力は、成長投資・株主還元・財務健全性のすべてを支える「源泉」であり、中経2029でも、この強みを起点に資金配分を行っていきます。一方で、経営環境の変化はその大きさ・速さが共に増しており、これまで以上に将来の不確実性を前提とした経営が求められています。こうした環境下では、資金の使途をあらかじめ固定するのではなく、投資や借入返済、株主還元等を適切なタイミングで実行できる柔軟性を確保すること、つまり、経営の「選択肢」を常に確保することが、より重要だと考えています。
この「選択肢」を支える重要な仕組みの一つが、資産リサイクルの高度化です。当社はこれまでの取組みに加え、戦略的かつ機動的なExit判断と、より収益性・成長性の高い領域への再投資をさらに推進することで、ポートフォリオの質をより一層高めていきます。
資産リサイクルの進捗や市況・金利動向といった外部環境、そして成長投資候補となる案件に応じて、資金支出の規模やタイミングを機動的に見直すことができる柔軟性こそが、不確実性の高い時代における競争力の源泉になると考えています。
事業ポートフォリオの強化に関して、
目指すポートフォリオの姿と、
どのように取り組むのかについて教えてください
中経2026で実行した成長投資の収益貢献が始まる中、既存事業の進化したミドルゲーム推進も含め、各事業のROICが加重平均資本コスト(WACC)を安定的に上回る状態を目指し、更なる事業ポートフォリオの良質化を進めていきます。
ROIC導入後、ROICとWACCのスプレッド、すなわち経済付加価値を持続的に創出できているかという観点も含めて事業を検証し、保有継続の判断を行うことが浸透してきています。加えて、中経2026を通じ、ROICの改善余地がある事業が明確になっており、今後は収益性・資本回転率の改善や投下資本の適正化を一段と進めていきます。
具体的には、赤字・低収益事業におけるターンアラウンド・Exitの徹底を含む、進化したミドルゲームをこれまで以上にドライブをかけて推進していきます。赤字・低収益事業については、黒字化の可否だけでなく、将来的な成長性や当社ならではの価値創出の可能性を総合的に評価し、保有意義を判断することが重要です。当社の価値貢献により更なる成長が見込める事業については追加投資を行う一方で、そうでない事業に関してはExitを検討するなど、メリハリのある経営を徹底していきます。こうしたポートフォリオ経営を支える上で、CFO部門を含むコーポレートスタッフ部門各部の重要性は高まっており、機能発揮が一層求められています。これに応えるべく、引き続き、多様なプロフェッショナル人材の育成を進めていきます。
過去最大規模のバランスシートを踏まえた
財務健全性や財務戦略についても教えてください
当社は過去から一貫して、「強固な財務基盤の維持」と「柔軟なバランスシートマネジメント」の両立を重視しており、この方針は変わりません。2025年は、豪州Rhodes Ridge鉄鉱石事業の権益取得をはじめ大型投資を行いましたが、強固な財務基盤があるからこそ、優位性のある成長投資を機動的に実行できました。また、事業ポートフォリオの多様化と再現性あるキャッシュ創出力の向上を通じて、市況変動に対する耐性の高いポートフォリオ構築にも常に取り組んでいます。
こうした規律ある財務戦略の成果が、格付の安定につながっています。当社は、格付を客観的な視点から財務規律を検証する手段と位置づけており、格付機関との継続的な対話を通じて財務戦略を検証しています。
一方で、資本効率の観点からは一定の財務レバレッジが必要と考えており、景気後退局面においても財務基盤が大きく損なわれない水準で財務レバレッジをコントロールしていきます。
適正な財務レバレッジを検討する上では、有利子負債の規模だけでなく、Debt Portfolioの質を高めることも重要です。10年超の長期借入を中心とした資金調達、返済期日の分散による流動性リスクの低減、複数通貨・市場での調達による柔軟性確保等、より安定的かつ強靭なDebt Portfolioの構築を進めています。加えて、長年にわたり築いてきた幅広い国内外金融機関との良好な関係も、安定的な資金アクセス等の観点から当社財務戦略の重要な基盤となっています。
リスク管理にはどのように取り組んでいますか
外部環境の不確実性が高まる中、リスクを全社的な視点で把握し、経営判断に反映していくことが不可欠です。このような考えのもと、当社は多種多様な定量・定性リスクを全社横断で一元的に把握する「統合リスク管理」を推進しています。重要なリスクを特定し全社レベルで対応策を講じるこの取組みは、散在するリスクの積み重ねが大きな損失につながることを防ぐとともに、リスクを正しく理解し、成長機会獲得に向け、リスクの受容可否を適切に選択できる基盤ともなっています。こうした事業を取り巻くリスクも踏まえた経営判断が、全社、そして個々の事業を経営する力の強化を支える重要な要素であると考えています。
例えば、地政学的リスクについては、個別案件への対応に加え、地域・国別の分散やサプライチェーンの多層化、カントリーリスクの定期的な見直し等により、特定地域への依存を回避するポートフォリオ構築を進めています。
財務戦略との接続という観点では、投融資や商事債権、保証債務に含まれるリスクである「リスクアセット」を継続的にモニタリングし、全社としてのリスク量と耐性を可視化しています。加えて、リスクに見合うリターンが得られているのか、という観点に基づく経営管理の高度化も進めています。
当社の強みは、多様な事業ポートフォリオそのものがリスク耐性の向上につながっている点にあります。市況変動の影響を受けやすい事業とそうでない事業を組み合わせるとともに、事業・地域・時間軸の分散を図ることで、市況や景気変動に対する下方耐性の高い収益構造を構築しています。
株主還元についても、考え方を教えてください
強固なキャッシュ創出力に基づき、成長投資とのバランスもとりながら、安定性と機動性の両立を図ることを株主還元における基本方針としています。還元水準は、当社では会計上の評価損益等の影響を受ける当期利益ではなく、基礎営業キャッシュ・フローを株主還元の基準としています。また、単年度ではなく3年間累計として市況変動の影響等を平準化することにより、株主還元の持続性と柔軟性も意識しています。中経2026では3年間累計の基礎営業キャッシュ・フローに対する株主還元の割合は、目標37%程度に対して53%超という水準を実現しました。中経2029は、50%超を目標とし、配当及び自己株式取得を組み合わせて還元するという明確なフレームを設定しています。
配当に関しては、中経2029においても配当維持または増配を行う累進配当を継続し、2027年3月期~2029年3月期で1株あたりの年間配当140円を下限に設定しています。これは、中経2026までの基礎収益力拡大及び今後の更なる伸長を踏まえ、短期的な業績変動に左右されない安定的な株主還元を重視し、決定したものです。
自己株式取得に関しては、資本効率向上等を目的とした機動的な株主還元と位置づけています。投資機会との比較、株価水準、資本効率改善への効果、資産リサイクルや市況・為替要因でのアップサイドによる追加的なキャッシュ・イン等を総合的に勘案し、金額や時期も含め機動的に判断していきます。
今後も、累進配当により安定性を確保し、自己株式取得を組み合わせながら、株主の皆様のご期待にお応えできるよう、取り組んでいきます。