機関投資家と社外取締役との対話

2026年6月、社外取締役のサラ L. カサノバ氏と
約30社の機関投資家との間で
対話を実施しました。
社外取締役
サラ カサノバ
Sarah L. Casanova
はじめに
私はこれまで、消費者ビジネス分野において長年経営に携わってきました。その経験を踏まえ、現在は消費者ビジネスやブランド構築の経験や知見を活かして取締役会の議論に参加しています。
三井物産の取締役に就任してから強く感じているのは、多様な事業ポートフォリオ、人を重視する文化、そして長期的なパートナーシップを大切にする姿勢です。投資アプローチ、リスクマネジメント、事業推進力を組み合わせながら、変化の大きい環境の中でも持続的な価値創造を追求している会社です。
また、私が特に魅力に感じているのは、「Never Satisfied(現状に満足しない)」という文化です。常に改善を追求し、事業機会を見極め、育てていこうとする姿勢が組織全体に根づいていると感じています。
取締役会の実効性について、
特徴的だと感じる点を教えてください
三井物産では、取締役会の前日までに案件に関する事前説明や質疑を行うブリーフィングが実施されます。事業領域が非常に広いため、このプロセスはとても重要です。事前に基礎的な質問や確認を行うことで、本番の取締役会では議論に集中することができます。
また、興味深いのは、説明者が事業本部長だけではないことです。各事業領域の中核を担う次代のマネジメント層が説明を行うことも多く、社外取締役にとっては将来の経営人材を知る機会になりますし、説明する側にとっても取締役の関心事項を理解し、経営目線を養う貴重な経験になっています。
現場視察も重視しています。例えば、米国テキサス州のシェールオイル・ガスのプロジェクトやルイジアナ州のLNGプロジェクト、シンガポールの民間病院グループIHH等を実際に訪問しました。写真を見るだけでは分からないことも多く、現場を見ることで事業への理解が深まり、より具体的かつ多面的な議論につながります。
加えて、社外取締役・社外監査役のみで意見交換を行う機会もあります。多様な経験や専門性を持つ社外役員同士で論点を共有し、取締役会での議論をより充実させるための有意義な機会となっています。
取締役会事務局も、取締役の時間を最大限有効に活用できるよう運営を工夫しています。議題に応じて、オンライン会議や書面による決議・報告を活用しながら、対面での議論が有用と考えられるテーマの際には実際に集まり、十分に議論する時間を確保しています。
私は、取締役会の価値は議案を承認することそのものではなく、そこに至る議論にあると思っています。そのため三井物産では、取締役の時間をできるだけ重要な議論に充てられるよう、継続的な改善が行われています。
また、経営陣は取締役会に対して非常に透明性の高い情報共有を行っていると感じています。形式的な基準にかかわらず、「取締役会が知るべき」と判断した事項については積極的に共有されており、それが取締役会におけるより深い検討、議論や意思決定につながっています。
取締役会の実効性評価においても、社外役員の評価はおおむね一致しており、三井物産のガバナンス水準は非常に高いものだと感じています。
中経2029の策定において、社外取締役は
どのように議論に参加したのでしょうか
取締役会は中経2029の策定プロセスに深く関与しました。事業環境レビューから始まり、グランドデザインや骨格、ドラフト、最終化に至るまで、複数回にわたり多くの時間をかけて議論を重ねています。
社外取締役はそれぞれの専門性を活かして議論に参加しています。AI/DXについても活発な議論が行われ、デジタル分野に知見を持つ取締役を中心に多くの質問や提言がありました。
この議論は三井物産が中経2029で示したCombinatory Valueにも通じるものです。DX活用を単なる効率化にとどめるのではなく、事業、人材、データ、AIを組み合わせることで、新しい価値を創造できるかという観点から議論が行われました。
社外取締役は経営陣とどのように向き合っていますか
私たちの役割は、経営陣が本当に重要な論点を十分に検討しているかを確認し、必要な問いを投げかけることです。
過去にも、取締役会においてリスク・プロファイルを正確に把握するためにリスク評価について更なる検討を求めた案件がありましたが、経営陣はこうした意見をオープンに受け入れ、追加検討を実施しました。その結果、より良い形でプロジェクトを推進することにつながった事例があります。
社外取締役には、それぞれ異なる経験や専門性があります。その役割の一つは、多様な視点を持ち込むことで、グループシンク(議論が特定の考え方に偏ってしまうこと)を防ぐことだと思っています。
意見の違いはありますが、それは対立ではなく、よりよい意思決定のための建設的な議論です。経営陣は社外取締役からのフィードバックに対して非常にオープンであり、そうしたやりとりから得られた示唆は、実際の経営判断や事業運営にも反映されています。
三井物産のサステナビリティへの取組みについて、
社外取締役としてどのように見ていますか
三井物産は、良き企業市民として社会課題の解決に取り組む姿勢が組織全体に根づいていると感じています。サステナビリティもその中核にあるテーマであり、短期的な環境変化に左右されるものではなく、長期的な視点で取り組むべきものだと考えています。
GHG排出削減をはじめとする各種目標を掲げ、その達成に向けて着実に取り組んでいます。
また、三井物産では、インテグリティを事業運営の根幹に据える考え方が組織全体に浸透していると感じています。「正しいことをする」という考え方は経営トップから組織全体に浸透しており、事業運営のあらゆる場面で実践されています。
健康・安全についても、従業員だけでなく、取引先や事業に関わる人々も含めて重視する姿勢が徹底されています。
「Never Satisfied(現状に満足しない)」という
企業文化を具体的に感じた事例を教えてください
三井物産では、個々のプロジェクトや事業案件において、「もっと良くできないか」「もっと価値を創造できないか」という視点で改善を積み重ねることがあたりまえになっています。そうした姿勢は取締役会の運営にも表れています。
私が就任した時と比べても、取締役会の運営は進化しています。
例えば、「すべての会議を同じ形式で行う必要があるのか」「もっと効率的なやり方はないのか」といった議論が継続的に行われています。
このように、現状に満足せず、改善を積み重ねていく姿勢こそが、私が感じる「Never Satisfied」の本質です。
中経2029で掲げる攻め筋
「Wellness Ecosystem Creation 2.0」について、
どのように見ていますか
世界的にウェルネスへの関心は高まっています。
重要なのは、治療だけではなく、予防への関心が高まっていることです。そして、それは身体だけではありません。人々が心身共に健康で豊かな人生を送るためのウェルネスへと関心が広がっています。
また、三井物産には病院事業を通じて蓄積される豊富なデータや知見があります。私が特に可能性を感じているのは、それらを活用して新たな価値を創出できる点です。
それらをどのように活用し、適切なパートナーと共に新たな事業機会につなげていくのか。幅広い事業基盤を持つ三井物産にとって、そこには大きな可能性があると思います。
収益性については、すでに知見や事業基盤を有する領域では早期の収益貢献も期待できる一方、新たな領域や事業モデルについては、パートナーとの連携やノウハウの蓄積を通じて、時間をかけて事業価値を高めていくことも重要です。Wellness Ecosystem Creationは、こうした取組みを組み合わせながら、収益性を高めていく領域だと考えています。
三井物産は歴史的にB2B企業ですが、
今後の成長領域において、そうした強みを
どのように活かせると考えていますか
三井物産が歴史的にB2B企業であるという点には同意します。一方で、B2BとB2Cをそれほど別のものとは考えていません。B2Bであっても、三井物産が取引している企業はお客さまです。
相手が個人の消費者であっても企業であっても、「お客さまが何を望み、何を必要としているか」を理解するという基本は変わりません。
B2C領域では、より個人単位のデータやインサイトが重要になり、消費者に近い領域で事業を推進している人材やチームは、すでにそうした領域に関する知見を蓄積しています。さらに、三井物産には長年培ってきたパートナーシップ構築力や事業開発力があるため、こうした領域においても十分に強みを発揮できると考えています。
投資後の事業価値向上に対して、社外取締役、
取締役会はどのように関与していますか
社外取締役としては、新規の投資案件だけでなく、既存事業の価値向上に向けてどのような取組みが行われているのかにも強い関心があります。
そのため各事業本部には、新規投資だけでなく、既存事業における「ミドルゲーム」の状況についても説明をお願いしています。
投資を実行した後に、どのように事業価値を高めていくのか。どのような改善を積み重ねているのか。取締役会もそうした取組みを継続的に理解し、議論しています。
私は、この「ミドルゲーム」の考え方は三井物産の特徴の一つだと思っています。単に投資を実行するだけでなく、その後も継続的に価値向上を追求していくことが重要です。
三井物産がさらに成長するための課題は何だと考えますか
私が継続的に重要だと考えているのは、多様性、特にジェンダーダイバーシティです。
この点は取締役会でも繰り返し議論しています。
特に、Wellness Ecosystem Creationのような領域では、女性の視点が事業機会の発見や顧客理解に直結する場面も少なくありません。多様な視点を経営や事業に取り込むことは、競争力向上にもつながると考えています。
ダイバーシティの進化は三井物産がさらに成長し、発展していくための重要な取組みだと考えています。
三井物産のリーダーに求められる資質とは何でしょうか
リーダーシップには「What(何をするか)」と「How(どのように実行するか)」があります。
三井物産のリーダー候補であれば、「What」は分かっていると思います。事業をどう成長させるか、どこに投資するか、といったことを考える力は当然持っています。
私がより重要だと思うのは「How」です。
人をどう率いるのか。どうやって組織の力を引き出すのか。三井物産が大切にしている人材、インテグリティ、健康・安全といった価値観を、どのように組織に浸透させるのか。
以前、私は「Shadow of the Leader(リーダーの影響力)」という言葉をよく使っていました。リーダーの影響力は役職があがるほど大きくなります。その人の言動や価値観は、良くも悪くも組織全体に広がっていきます。
だからこそ、三井物産のリーダーには、人を育てる力と高いインテグリティが必要だと考えています。
おわりに
ご質問を通じて、投資家の皆様がどのような点に関心を持たれているのかを知ることができ、私自身も多くの学びを得ることができました。
こうした対話を通じて得られた示唆は取締役会にも共有し、今後の議論や情報発信の充実につなげていきたいと思います。