CHROメッセージ
当社の企業価値の源泉は「人」です。不確実性が高まり変化が常態化する時代だからこそ、社員一人に宿る潜在的な力を最大限に引き出し、それぞれの強みと自信につなげていくことが重要です。多様な人材が互いを理解し受け入れながら能力を発揮できる環境を整え、グローバル・グループでの戦略的適材配置を通じて、一人ひとりの成長を世の中への貢献と企業価値創出につなげていきます。
4月にC H R Oに就任されましたが、三井物産らしい人的資本経営のあり方と、大切にしていることを教えてください。
入社以来、金属資源本部、経営企画部、IR部、世界銀行への出向を含む二度の米国駐在等さまざまな経験をしてきました。一貫して大切にしてきたことは、常に能動的に動き、相手の話に耳を傾け、さらに一歩前進するために貢献できることは何かを深く考えるということです。その積み重ねが社会課題の解決を通じた社会貢献となり、ひいては企業価値向上につながると考えています。
当社には「すべては人からはじまる」「人が仕事をつくり、仕事が人を磨く」など、人への想いや重要性について先人たちが残したさまざまな格言がありますが、私自身もこれまでの多様なキャリアを通じて、当社企業価値の源泉は最終的に「人」であると確信しています。当社の「自由闊達」「挑戦と創造」といった企業風土を「人の三井」と評していただいていますが、事業を通じた経験を重ねる中でこの企業風土を体現するスタイルが自然と身につき、自分自身を含め社員一人ひとりの強みとなっていることを実感しています。CHROとして、この企業風土とインテグリティをベースに、社員の自律的な成長と、お互いを理解し受け入れ共に成長するインクルーシブな環境を促進することにより、本レポートのタイトルである「未来をつくる」人をつくり、持続的な企業価値向上を実現することが使命と考えています。
新CHROとして、人的資本経営を通じて何を実現したいですか。
不確実性が高まり、事業ポートフォリオの高度化や入替等変化が常態化する中で、経営戦略と人材戦略の連動を最重視しています。2026年5月に公表した中期経営計画2029では「強い『個』の育成」「インクルージョン」「戦略的適材配置」を人材戦略とし、「ウェルビーイング・H&S」を、戦略を支える基盤として位置づけています。この人材戦略の取組みとDX/AIの活用を掛け合わせることにより、経営戦略の実行力を高めていきます。組織運営においては、多様な人材や異なる領域の知見の掛け合わせによるグローバル・グループでの戦略的適材配置の実践が重要であり、そのためには社員一人ひとりに宿る潜在的な力をいかに引き出し、各自の強みや自信につなげ世の中への貢献という形にしていくのかがCHROの重要な役割の一つと考えています。当社の多様なプロフェッショナルが能力を最大発揮できる環境整備と、その社員一人ひとりが企業価値創出の担い手として、変化に柔軟に対応し、挑戦し続ける強い組織を構築していきます。そのためにも、経営の考えをグローバルの社員に分かりやすさを意識して発信し、浸透を図りながら社員の行動変容につなげます。
事業戦略の実行力を高めるため、採用・人材プールの活用・全社最適配置をどのように進めていきますか。
中期経営計画で掲げる事業戦略を遂行するためには、持続性と即戦力を掛け合わせたプロフェッショナル集団の確保・強化が不可欠であり、そのための人材ポートフォリオの多様化・高度化を推進します。この実現に向け、人材戦略を経営戦略と一体で推進するため、社長、CHRO及び各事業本部長等が参加するHR Strategy Meeting(HRSM)を開催しています。HRSMでは、重要ポジションのサクセッションプラン、戦略人材の育成・配置、多様な人材の活躍推進等について経営レベルで議論し、事業ポートフォリオの変化を踏まえた人材ポートフォリオの高度化につなげています。人材に関する重要テーマを経営が主体的に議論することで、グローバルベースでの戦略的適材配置をさらに加速していきます
また、HRSMで議論した内容の実効性を高めるためには、グローバルの全社員が共通の人材観や行動基準を理解し、実践することも重要です。2020年にグローバルベースでの社員の行動基準であるMitsui Leadership in Actionを、2024年にはグローバルの全社員を対象に社員と会社の双方が目指す姿を示したグローバルタレントマネジメントポリシーを策定し、当社の人材に対する考え方・方針を言語化しました。暗黙知ではなく社員全員が共通の認識を持つことで、取組みの更なる加速につなげるのが狙いです。また当社の競争力の源泉である組織横断的取組みの加速化と、知的融合を通じてイノベーション創出を促進するため、グローバルタレントマネジメントシステム「Bloom」を導入し、適材配置による多様な人材の知見の掛け合わせにも取り組んでいます。引き続き働き方や女性活躍推進等のインクルージョン施策、時代に即した人事制度の改定等を通じ、多様な社員が能力を最大限発揮できる環境整備にも力を入れていきます。
Bloomの進捗と今後期待する効果を教えてください。
Bloomを2024年に全世界で導入し、海外拠点に分散していた人事情報を統合・共通化しました。グローバルの社員一人ひとりの経験・スキル・強みを可視化する基盤が整い、現在はそのデータをもとに、事業戦略や新規投資、ミドルゲーム等各事業フェーズに応じた機動的な人材配置を実現するための実践段階にあります。グローバルベースでの人材を可視化の上、事業戦略に即した人材配置を通じて価値創造の加速につなげるため、多様なフィールドで活躍する社員の経験やスキルをタイムリーに把握し、採用地や属性にかかわらない部門や地域を超えた挑戦機会の拡大につなげていっています。また同時に、社員同士が相互にスキルや経験の情報共有をすることで、自身が目指すキャリアの方向性とそのために必要なスキルを認識し、自律的なキャリア形成も後押しします。Bloomのデータ、AIの活用により、「世界中から最適な人材を最適なポジションに」という考え方を具体化し、事業戦略に連動したグローバルでの戦略的適材配置を実現していきます。
人的資本投資の成果をどのように可視化・検証し、企業価値向上につなげていきますか。
人的資本投資の成果は、単一の指標だけで測れるものではなく、定量・定性の両面から複合的に捉える必要があると考えています。
定量においては、人的資本のガイドラインであるISO30414に準拠しながら、人事領域での取組みに対する幅広いデータを5年の経年で開示しています。これをもとに経年での変化、他社との比較等さまざまな観点から分析を行い、人事施策の各取組みが当初想定していた成果につながっているのかを検証しています。特に社員エンゲージメントについては各取組みの総合的な結果として、会社の戦略やビジョン、経営の方向性が社員にどれだけ浸透しているかを示す重要な指標と位置づけています。そのため、社員エンゲージメントの前期比増減は取締役(社外役員を除く)の報酬フォーミュラの一部としています。一般論としても社員エンゲージメントの高い企業は財務面でも優れている傾向があるといわれており、CHROとしてもその結果を重視し、指標から見えてきた課題を真摯に受け止め改善を重ねていく、その繰り返しによって施策や取組みの高度化を進めています。
定性においては、その成果を比較可能な形で可視化することは容易ではないものの、当社では社員の自律性や主体性の発揮、そして組織力の向上を重視しています。例えば、当社が推進するミドルゲームにおいては、社員一人ひとりが困難な課題に主体的に取り組み、多様な価値観を持つ人材が組織の枠を超えて協働しながら最適解を導き出せるかが重要となります。事業を成長へと導く力の源泉は、社員一人ひとりの能動的な行動と、それを支える組織の推進力にあり、これこそが当社の組織風土そのものが持つ強みです。人的資本の中核は、このような数値では捉えきれない価値にあり、持続的な企業価値向上を支える重要な基盤であると考えています。
今後も定性と定量を組み合わせ、都度成果を振り返りながら着実に取り組んでいきます。
HR Strategy Meeting
経営戦略と人材戦略を統合的に捉え、組織の持続的成長を支えるために、人材に関する重要なテーマを深く掘り下げて議論する場です。当社グループの重要ポジションのサクセッションプラン(後継者育成計画)を中心に、女性社員や海外採用社員等、多様な人材の活躍状況と育成方針の確認・共有を行っています。
この議論には、社長とCHRO、人事総務第一部長・第二部長が参加し、各事業本部長、コーポレートスタッフ部門の部長、海外地域本部・地域ブロックのCHROと直接対話を重ねています。事業環境や事業ポートフォリオの変化も踏まえながら、重要ポジションの後継者計画や多様な人材の活躍・育成について議論し、経営戦略と人材戦略の連動を図っています。これにより、グローバルかつ多様な人材から構成される後継者人材プールの状況を継続的に把握し、戦略的な適材適所の配置を通じて、組織パフォーマンスの最大化を図っています。
また、想定外の事態への備えとしてのBCP(事業継続計画) の観点からも重要な役割を果たしており、組織マネジメントの継続性と経営の安定的な運営を支える仕組みの一つとなっています。