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Environment

生物多様性

方針・基本的な考え方


三井物産は、環境方針に生物多様性への影響を評価し、生物多様性の保全に努めることを掲げています。また、中期経営計画2026においては、事業を通じたNature Positive達成への貢献に取り組むことを掲げています。

当社の事業活動は、多種多様な生物がさまざまな関係でつながることにより生まれる、生態系サービスに大きく依存しています。このため当社は、事業活動と、社会貢献活動等事業以外の活動の双方を通じて、環境への負の影響を最大限低減することを目指します。

具体的には、事業活動においては、森林・海洋(水産)等の資源の持続可能な利用や、事業拠点周辺地域への負の影響の防止に努め、生物多様性に与える影響度が比較的高い事業領域を特定した上で、生物多様性の保全に向けた行動を推進していきます。さらに、社有林「三井物産の森」や、三井物産環境基金をはじめとする社会貢献活動において、生物多様性の保全に取り組みます。


目標


生物多様性の構成要素の持続可能な利用

  • 天然ゴム、パーム油、木材、紙製品の調達において森林破壊ゼロを目指す。
  • 2030年までにRSPO認証を含む持続可能なパーム油の調達を100%に引き上げる。

生物多様性の保全

  • 社有林「三井物産の森」のうち、生物多様性保護林(社有林の約10%)およびその他特定したエリアにおいて、生態系モニタリングの定期実施等を通じ、生物多様性保護を意識した維持・管理を行う。
  • 三井物産環境基金を通じて、生態系サービスの保全と利用、ならびに生態系と人間が共存するための調整につながる活動や研究を支持し、森林再生および絶滅危惧種の保護に貢献する。
  • TNFD Forumや30by30アライアンス等、生物多様性の保全につながる社会的なイニシアティブへの積極的な参加を通じて生物多様性の保全に関する国内外の枠組み作りに貢献する。

体制・システム


サステナビリティ委員会

サステナビリティ委員会は、経営会議の下部組織として、生物多様性に関わる経営の基本方針、事業活動やコーポレートの方針・戦略に関し、企画・立案・提言を行っています。
サステナビリティ委員会の活動については、取締役会による監督が適切に図られる体制となっており、サステナビリティ委員会における審議事項は、定期的に経営会議および取締役会に付議・報告されます。

管掌役員 佐藤 理(代表取締役専務執行役員、CSO(チーフ・ストラテジー・オフィサー)、サステナビリティ委員会 委員長)
事務局 サステナビリティ経営推進部、経営企画部

当社サステナビリティ経営の推進体制図やサステナビリティ委員会の活動に関する詳細はリンク先をご参照ください。


三井物産の森における生物多様性の保全・モニタリング体制

三井物産の森では、生物多様性の観点から重要性が高いエリア(全体の約10%)を生物多様性保護林に設定しており、それぞれの区分にあった管理を行い、生物多様性保全に努めています。希少種の生息状況や山林の規模に応じて、山林事務所ごとに3箇所を基本としてプロットを設定し生態系モニタリング調査を実施しています。地表状況調査(希少種、動植物)・林内状況調査(樹種、本数、獣害等)・蓄積調査(胸高直径、樹高、成長量)等を年一回実施しています(蓄積調査は5年に一回実施)。希少種が発見された場合は、マーキングを行い、施業範囲から外す等の対策をとっています。また、林内作業は周辺の広範囲に環境的影響を与える可能性があるため、三井物産の森では、主伐、間伐、路網開設等の林内作業を実施する際には、事前に必ず現地を踏査して土壌状況、地表植生等、林内状況、周辺状況等の20超のチェック項目に基づいた調査を行うこととしています。調査結果に応じて、林内作業計画の実施内容につき見直しを行い、必要があれば計画変更や中止の判断を行っています。林内作業実施後3カ月以内には、必ず現地を再踏査して林内作業が適切に実施されたことを確認し、環境への影響を最小限にし、生物多様性の保全に努めています。田代山林では、2023年6月の山開きの際に祈願祭が執り行われ、巡視も行いました。当社保有地域に隣接する環境省管理地域において発生している大規模崩落は、貴重な高山湿地帯近くまで進んでおり、今後の動向を注視していきます。

ESGリスクマネジメント

当社が事業に取り組むに当たっては、新規に開始する段階に加え、操業時、および撤退時においても環境・社会に対する最大限の配慮に努める仕組みを整えています。生物多様性リスクが高いと考えられる投資案件(食料・地下資源開発・インフラ開発等)において、生物多様性に重点を置いたESGリスク評価を実施し、必要な場合は改善計画を実施しています。


三井物産環境基金における取り組み

当社は地球環境問題の解決に貢献するさまざまな「活動」や「研究」を支援し、経済と環境が調和する持続可能な社会の実現を目指します。当社は2005年より三井物産環境基金を通じて地球環境問題の解決と持続可能な社会の構築に貢献するさまざまな案件を支援しています。環境基金の詳細はリンク先をご参照ください。


三井物産環境基金:三井物産環境基金の概要

ステークホルダーとの協働


イニシアティブへの参画

イニシアティブへの参画を通じた生物多様性への取り組みを推進、拡大させています。各イニシアティブへの参画においては当社の生物多様性に対する基本方針、取り組みと合致しているか確認の上、参画を決定しています。

TNFD Forum(Taskforce on Nature-related Financial Disclosure)

TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures、自然関連財務情報開示タスクフォース)は2021年6月国連(UNEPFI/UNDP)や国際NGOが中心となり発足しました。企業が自然に与える影響と自然への依存度の双方をTCFD同様の枠組みに沿って開示することを求めるもので、欧米を中心に多数の企業・公的機関・金融機関が支持を表明しており、自然資本に関する情報開示の国際スタンダード策定に取り組んでいます。
本TNFD Forum はTNFDの議論をサポートするステークホルダーの集合体と位置づけられています。当社は2022年3月より参加し、メンバー企業として、TNFDの枠組み構築に関する議論への参加を通じて生物多様性の保全に貢献していきます。

30by30アライアンス

30by30は2030年迄に世界の陸地と海のそれぞれ30%を保全・保護することを目指す自然資本に関わる国際目標であり、2022年12月に採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」においても重要施策のひとつと位置づけられています。
本30by30アライアンスは、環境省が事務局を務め、経団連自然保護協議会等が発起人となり設立された民間企業・自治体・団体等によるイニシアティブです。当社は2022年3月に30by30アライアンスへ賛同しており、環境省が2022年に実施した自然共生サイト(生物多様性の保全が図られている区域)の認定試行プロセスに、当社社有林の一つである京都の清滝山林を対象として、申請・参加しました。同山林では、京都の文化保護や天然林へ誘導する施業内容の観点で生物多様性保全に配慮されていることが評価され、自然共生サイト認定相当という結果を得ました。こうした具体的な取り組みを通じ、30by30への貢献を進めていきます。

RSPO(Roundtable on Sustainable Palm Oil RSPO、持続可能なパーム油のための円卓会議)

RSPOは、熱帯林や生物多様性の保全等「持続可能なパーム油」の生産と利用促進を目的とした非営利組織です。パーム油の生産にあたっては、アプラヤシ農園開発による熱帯林破壊や、人権労働問題が指摘されています。当社は、パーム油を取り扱う事業者として、「産業を通じた持続可能性を実現させる」という理念に共感し、2008年にRSPOに参画して以来、正会員として事業を通じ、熱帯林や生物多様性の保全、先住民や地域住民の権利の尊重等に配慮した持続可能な調達に取り組んでいます。2021年の東京オリンピック・パラリンピックでは、持続可能性に配慮した調達コードが策定され、調達コードの一部としてパーム油の個別基準も策定されたことから、油脂関連業界団体のメンバーとして、当社もRSPOおよびMSPO(Malaysia Sustainable Palm Oil)・ISPO(Indonesia Sustainable Palm Oil)の取り組み状況について逐次確認し、普及・推進を行いました。

FSC®(Forest Stewardship Council®、森林管理協議会)

環境NGO、民間企業や先住民団体等による会員制の非営利組織FSC®(Forest Stewardship Council®、森林管理協議会)は、環境保全の点からみて適切で、人権尊重等、社会的な利益にかない、経済的にも継続可能な森林管理を世界に広めるための国際的な非営利組織です。
当社は、全国75か所、約45,000ヘクタールの社有林「三井物産の森」で、森林管理を対象とするFM認証(FOREST MANAGEMENT)を取得し(FSC®-C057355)、切り出した木材の加工・流通を対象とするCOC認証(CHAIN OF CUSTODY)を子会社である三井物産フォレスト株式会社が取得しています(FSC®-C031328)。数量としては日本国内で民間企業ではトップクラスの国産FSC®認証材供給を行う当社は、国内におけるFSC®の普及・推進、日本版の原則基準の検討・作成にも協力しています。なお、当社では、植林事業においてもFSC®認証を取得し、責任ある森林資源管理を推進しています。

経団連自然保護協議会

経団連自然保護協議会は、1992年に「経団連地球環境憲章」の下設立され、経団連自然保護基金を通じたNGOの自然保護活動支援、企業とNGOの交流促進、企業への自然保護と生物多様性の啓発活動等を担っています。当社は、設立当初より参画し、経団連生物多様性宣言および行動指針を支持しています。また、経団連生物多様性宣言イニシアチブおよび環境省との連携による「生物多様性ビジネス貢献プロジェクト」にも参画し、生物多様性条約第15回締約国会議で採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」の下、生物多様性・自然保護の取り組みをさらに推進していきます。


CDP(Forests)

企業の木材に関する世界的な情報公開プログラムCDP Forestsの木材への質問書に2016年から回答しています。2023年に実施されたCDPの質問書に対する回答の結果、Forests(timber)において「B」の評価を受けました。

NGOとの協働

カンボジアプレイロング森林での森林保全活動(REDD+

プレイロングの熱帯低地常緑樹林 プレイロングの熱帯低地常緑樹林
©JEREMY HOLDEN

カンボジア北東部、メコン川西岸に位置するプレイロング地域は、絶滅危惧種を含む多くの野生動物が生息するインドシナ半島最大級の熱帯低地常緑樹林で、同国の貴重な水源にもなっています。しかし、違法伐採や地域住民による農地開拓により森林減少が進み、野生動物の生息域が脅かされると同時に、森林に蓄積されるべき温室効果ガスの排出が増えています。当社は、国際NGOであるコンサベーション・インターナショナルとのパートナーシップにより、カンボジア環境省と協働してパリ協定で定めるREDD+の仕組みを活用し、プレイロング地域における違法伐採取り締まりのための森林パトロールを強化しています。また、地域住民との対話を通じ、森林伐採に依拠しない代替生計手段としての有機農法や稲作の指導・普及等のコミュニティ活動支援を行い、森林および生物多様性の保全に貢献しています。

*:Reducing Emissions from Deforestation and forest Degradation, and the role of conservation, sustainable management of forests and enhancement of forest carbon stocks in developing countriesの略で、開発途上国における森林の減少や劣化を防止することによる排出削減や、森林保全や持続可能な森林経営による森林での炭素固定量増加等に対して、排出権等の経済的インセンティブを与える仕組み。

地方自治体との協働

インドネシアの絶滅危惧種であるスマトラトラの個体数回復プロジェクト

インドネシア・スマトラ島のユネスコの世界自然遺産にも指定されているブキ・バリサン・セラタン国立公園(BSS国立公園)はスマトラサイ、スマトラゾウ、スマトラトラ等、絶滅の危機にある大型哺乳類の貴重な生息地です。しかし、住民とスマトラトラとの遭遇や衝突事例が多数報告され、住民の生活の安全性からスマトラトラが殺されることもあり、スマトラトラの個体数の減少の要因の一つとなっていました。三井物産環境基金の案件の一つとして、世界自然保護基金(WWFジャパン)の活動を助成を通じて地方自治体、国立公園当局、周辺5村の地域住民と協力してスマトラトラと地域住民との衝突被害(トラの被害、人的被害、農園や家畜の被害の総数)を減少させるため、生息域調査やカメラトラップ調査を実施しました。調査の結果、スマトラトラの生息地に関する情報を入手、当該情報に基づき土地利用計画地図を策定し、地域住民とスマトラトラが共存するコミュニティづくりを支持し、スマトラトラの個体数回復に貢献しています。現在も郡政府と地域住民が協力して、土地利用計画地図を利用したモニタリング活動は継続しています。

取り組み


陸上(森林・土壌)

森林資源事業における取り組み

紙の原料となるウッドチップの安定供給を目的に、事業パートナーと共に、オーストラリア・チリで展開している植林事業(2023年3月末現在、合計約9,000ha)では、責任ある森林資源管理を行うとともに、生物多様性に配慮した取り組みを展開し、FSC®等の国際森林認証を取得しています。また、植林事業においてはGHG(温室効果ガス)削減効果の増加が見込める樹種への転換を通じた排出権創出事業を推進しています。
また、当社は世界最大規模の森林アセットマネジメント事業者であり、森林資産総額100億豪ドルの管理・運用を受託する森林アセットマネジメント事業者のNew Forests Pty Ltd.に出資参画しています。New Forestsはサーキュラーエコノミーや地域社会との共生を重視した森林資源投資と管理を行うことにより、投資家向けの長期・安定的な投資リターンの提供と持続可能な未来の実現をビジョンとしており、当社はNew Forestsと共に社会の持続可能な発展に向けた取り組みを拡大していきます。


豪州三井物産株式会社:Group Companies(Mitsui Bussan Woodchip Oceania)

原生林の植生回復を通じたカーボンクレジットの創出・販売事業における取り組み

Climate Friendly社が事業を行う原生林再生エリア Climate Friendlyが事業を行う原生林再生エリア

当社は、オーストラリアの農場における原生林の植生回復を通じてカーボンクレジットの創出・販売を手掛けるClimate Friendly Pty Ltdに出資参画しています。
Climate Friendlyはオーストラリアにおける原生林再生(土地利用)を通じたGHG(温室効果ガス)削減事業を手掛けています。再生した原生林が大気中のCO2を吸着し、そのGHG削減分を排出権として販売し、2020年までに2,000万トンのGHG削減を達成済みで、2025年までに1億トンの削減を目指す同国最大規模の排出権デベロッパーです。また、同社が手掛ける原生林の植生回復事業は、大気中のCO2吸収・固着のみならず、生態系や生物多様性の保護、土壌改善等の副次的効果が見込め、同国政府のGHG削減目標達成において重要な役割を担います。
また、民間企業による排出削減のためのクレジット需要も足元伸びており、引き続き需要は堅調に伸びると予想されます。オーストラリアは当社事業においても重要取り組み国であり、当社グループ企業からのGHG排出削減機会の創出にも積極的に取り組みます。

社有林「三井物産の森」経営・管理における取り組み

三井物産の森とその管理会社の三井物産フォレストは国際的な森林認証を取得しています。
森林認証は第三者が適切に管理されている森林を認証するFM認証(Forest Management)と、認証山林で生産された木材が製品として完成するまで適切に流通されているかを認証するCoC認証(Chain of Custody)で構成されています。
三井物産の森を管理する三井物産フォレストは、国際的な基準に基づいた管理計画を策定、実行し、持続可能な森林管理に携わっています。また、その山林から生産する丸太等は、CoC認証を取得している三井物産フォレストが取り扱うことで、森林認証のチェーンをつないでいます。
三井物産フォレストが実践している特徴的な管理方法は、山林の地形や樹種等さまざまな特徴を捉えて管理方法を分ける「ゾーニング」です。「ゾーニング」には「循環林」「天然生林」「生物多様性保護林」等があり、それぞれの管理方針に基づき適切な森林管理を行っています。特に「生物多様性保護林」では保護価値の高い森林を選定、「特別保護林」「水土保護林」「環境的保護林」「文化的保護林」の4種類に分類し生物多様性に配慮した管理、施業を行っています。


環境負荷の低い生物農薬を通じた持続可能な農業に貢献

環境汚染や食の安全、社会的受容性が社会課題となっている現代では、人体や生態系に影響を及ぼす恐れがあるとして、欧州を中心に化学農薬や遺伝子組み換え技術等への規制が強化され、より安全性の高い手法が要請されています。このため、当社子会社のCertis Biologicals(以下、Certis Bio)では、生物農薬製造販売事業に取り組んでいます。生物農薬は、病害虫・雑草の防除に利用される微生物、天敵、寄生昆虫、植物抽出物等を施用しやすく、かつ効力を発揮しやすいよう製剤化したもので、病害虫や雑草が発生しづらい環境を整え、本来の自然界の天敵を中心としたバランスを活用し、経済的な被害が出ないレベルにまで発生を抑える商品です。
Certis Bioでは生物農薬を製造していますが、化学農薬をゼロにすべきだと考えているわけではありません。生物農薬は防除対象の生物以外への影響が少ないため、人や家畜の健康被害や、環境、生物多様性への負荷を低減しながら防除効果を上げることができますが、残効性が低く、散布時期の見極めが難しい等の短所があります。一方、化学農薬は迅速に効果が出るだけでなく、比較的取り扱いが容易で、生物農薬の短所を補ってくれます。ただ、使い過ぎると土中や植物周辺の生物の多様性が失われ、病原菌や病害虫が発生しやすい環境になってしまいます。生物農薬は、その環境を整え、自然由来の天敵や植物の根を守り、土地の生産性を高める役割も果たします。そのため、生物農薬と化学農薬、両方を上手に使い分ける統合的害虫防除(Integrated Pest Management=IPM)が重要であり、Certis Bioの販売員をはじめ、同社の製品を扱う販売会社には、生物農薬と化学農薬の組み合わせ方や、商品の取り扱い方法の説明と合わせて、農家が円滑にIPMを導入できるようなトレーニングを提供しています。当社はCertis Bioの製造する生物農薬と、化学農薬等を適切に組み合わせるIPMを推進することで、生産性が高く、持続可能な農業システムの構築に貢献していきます。

海洋・河川

水力発電事業における取り組み

ブラジル北部マデイラ川に位置するJirau水力発電事業では、豊かな生物多様性を誇るアマゾン川流域のため、地域社会やNGO等の関心も高く、環境に最大限配慮し事業を運営しています。推進している環境プログラムでは、周辺環境や住民へのあらゆる影響を事前に調査の上、周辺住環境を改善すべく、病院、学校、新しい住居を整備するとともに、魚類・哺乳類を含む動植物の保護等を実施しています。

陸上養殖事業における取り組み

FRDジャパンの商業プラント(木更津市) FRDジャパンの商業プラント(木更津市)

サーモン類の世界消費量は年々増加しており、世界市場規模は海面養殖魚類のトップ3に入る一方で、餌の食べ残しや排せつ物による水質汚染が問題になっており、また養殖場の拡大余地は少なくなっています。こうした状況を受け、当社子会社の株式会社FRDジャパンでは、保有する高度な生物濾過技術により、外部より海水を引かず、水を閉鎖的に循環させながら魚を飼育できる独自開発の陸上養殖システムを構築、海洋への環境負荷を最小限に抑えながら、持続可能な水産業を実現する、サーモンの陸上養殖事業に取り組んでいます。
2018年から千葉県木更津市のパイロットプラントを稼働させ、「おかそだち」のブランド名で養殖したサーモンを販売しています。今後の展開として、年間3,500トン規模を生産する商業プラントの建設を開始しました。当社は本事業を通じ、海洋汚染を極力防ぎ、持続可能な水産物の生産・供給に貢献していきます。

チリのサーモン事業における取り組み

当社出資先であるチリのサーモン養殖・加工・販売会社Multi X S.A.では生物多様性への配慮として、海上養殖ネット破損か所から逃げ野生化し、周辺の海洋生態系に影響を及ぼすのを防ぐため、定期的にゲージの状態を確認し、ここ数年ゲージからの逸失はゼロとなっています。また、アシカ科海生動物等による設備の破損、原魚の食害、脱走・野生化を防ぐため、ネットの二重化等の対策を施しています。その他にも、遠隔操作式自動給餌システムを導入することで、海面下から最適な給餌量のモニタリングを行い、海底への餌の堆積を最小化する取り組みを行い生態系に十分配慮した養殖活動を行っています。

JICA/研究者との協働案件― 赤潮早期予測システムへの取り組み

チリ南部の都市プエルトモントでのサンプリング風景(2019年1月) チリ南部の都市プエルトモントでのサンプリング風景

赤潮は海水中で植物性プランクトンが異常増殖することで起こりますが、生物の生息・生育環境に重大な悪影響を及ぼします。2016年にチリで記録的な赤潮が発生し、主要産業であるサーモンの養殖事業や沿岸漁業に甚大な被害が発生したことを受け、日本およびチリの大学・研究機関が協力し、現地政府機関等とも連携して、赤潮の発生を早期に予測するシステムを構築・運用するための研究プロジェクトが立ち上がりました。
チリにおいてサーモン養殖事業に出資している当社にも、チリ政府から協力要請を受けた独立行政法人国際協力機構(JICA)を通じ協働の依頼がありました。当社は本プロジェクトの成果を社会に定着、拡大させる役割を担うことになり、同プロジェクトへ技術協力という形で参画していたJICAとの間で2018年4月に契約を締結、連携を開始しました。以来、当社は海水の赤潮モニタリングシステムの開発に向け、日本・チリ双方の産学官連携を支援しています。
本システムの予測結果に基づく警戒情報や予防措置情報を漁業従事者に向け発信することで、赤潮による被害を抑制し、生物多様性の保全・回復に努めています。

船舶事業における取り組み

船舶による貨物輸送時に必要となるバラスト水に含まれる海洋生物の越境移動による、海洋生態系への悪影響を与えることを避けるため、国際海事機関(IMO)の「バラスト水管理条約」に対応し、船舶へのバラスト水処理装置の設置の採用を推進しています。

天日塩製造・販売事業における取り組み

当社子会社のShark Bay Salt Pty.は、世界遺産に登録されている西オーストラリア州のシャーク湾に塩田を所有して天日塩を製造・販売しており、地域の生態系改善を積極的に推進。「自然との共生」を念頭に、塩田内の陸地環境やマングローブ生態系、周辺海水を継続的にモニタリングし、同社の事業が絶滅危惧種のジュゴン等地域の生態系に影響を与えることがないよう配慮して操業(結果として同地域では生物の個体数は安定)、またシャーク湾におけるイルカの生態研究活動を支援しています。