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株式会社三井物産戦略研究所

2020年に向けた中国のエネルギー政策と課題

2017年4月6日


三井物産戦略研究所
アジア・中国・大洋州室
八ツ井琢磨


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中国国家発展改革委員会は2017年1月17日、2016~2020年のエネルギー政策の基本方針を示す「エネルギー発展第13次5カ年計画」を発表した。これと前後して電力全般や石炭、天然ガス、風力、太陽光などに関する各論の5カ年計画も順次発表されている(図表1)。本文ではこれらの政策文書に基づき、2020年に向けた中国のエネルギー政策と課題を分析する。

エネルギー構造改革を推進

中国のエネルギー政策を取り巻く国内・国際情勢はここ数年で大きく変化した。国内的には、中国経済が成長鈍化局面に入り、工業主導からサービス業主導への経済構造変化が進んだ。これにより中国の一次エネルギー消費の伸びは大幅に鈍化し、2015年は前年比1.0%増、2016年は同1.4%増にとどまった。また微小粒子状物質「PM2.5」による大気汚染が社会問題化し、石炭利用抑制やクリーンエネルギー利用拡大が急務となっている。国際的には、米国のシェール革命を背景に原油価格が低下し、原油の輸入依存度が約6割に達する中国は恩恵を受けている。一方、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」が2016年11月に発効し、中国は「二酸化炭素(CO2)排出を2030年前後のなるべく早期にピークアウトさせる」との目標を掲げており、CO2排出削減の継続的な取り組みが必要となる。第13次5カ年計画のエネルギー政策はこうした国内外の情勢変化に対応している。
第13次5カ年計画のエネルギー政策の柱は、中国政府が「二重の代替」と表現するエネルギー需給構造の改善である。二重の代替は①化石燃料における石炭から天然ガスへの代替、②化石燃料から非化石エネルギーへの代替を意味する。第13次5カ年計画では、一次エネルギー消費の増加率を5年間で年平均3%以内に抑えた上で、2020年の一次エネルギー消費に占める石炭比率を58%以内(2015年は64%)に抑制する方針である。一方、非化石エネルギー比率を15%(同12%)、天然ガス比率を10%(同5.9%)に引き上げる方針である。ただし自給率が9割超に達する安価なエネルギーである石炭は、中国にとって依然として重要であり、第13次5カ年計画は経済成長とエネルギー構造改革のバランスを図る内容となっている。以下では化石燃料と再生可能エネルギーに分けて政策のポイントを紹介する。

化石燃料:石炭抑制、天然ガス拡大

石炭は中国の最重要エネルギーである一方、大気汚染の主因であるほか、生産能力過剰も深刻で、石炭利用抑制と生産能力削減が急務となっている。第13次5カ年計画では2020年の石炭生産を39億トン(5年間で年平均0.8%増)、消費を41億トン(同0.7%増)に抑制する。石炭生産能力は2020年までに旧型設備の廃止などで8億トン/年を削減する。石炭火力発電の設備容量は2020年で11億kW以内に抑制するが、2015年(9億kW)から2億kWの増加を見込み、石炭消費に占める発電比率は2015年の49%から2020年に55%に引き上げる。中国では工場の石炭ボイラーなどで分散的・非効率的に消費される石炭が大気汚染の主因となっており、こうした石炭利用を抑制する一方、集中的・効率的な用途としての石炭火力発電は拡大する。
天然ガスはクリーンエネルギーとして利用を拡大する。供給面では国内生産を2020年に2,070億m3(2015年は1,350億m3)に拡大し、うちシェールガスは300億m3(同46億m3)に拡大する。また天然ガスのパイプライン総延長を2020年に10.4万km(同6.4万km)に拡充し、中央アジアなどからの輸入能力を高める。利用面では工場のボイラーや家庭の暖房の燃料を石炭から天然ガスに転換する政策を進める。またピーク調整発電と分散型発電を中心に天然ガスの発電利用を進め、ガス火力発電の設備容量を2015年の0.66億kWから2020年に1.1億kWに拡大する。石油については、2020年の原油国内生産2億トン以上、見掛け消費5.9億トン(5年間で年平均1.5%増)、純輸入3.9億トン(同3.2%増)との見通しを示している。
中国の5カ年計画の指標には、達成が義務付けられる「拘束性」指標と、見通しを示す「予期性」指標があり、後者は達成されない例も少なくない。第12次5カ年計画では一次エネルギー消費に占める天然ガス比率やシェールガス生産量、原子力発電の設備容量の指標は達成されなかった(図表2)。第13次5カ年計画でも、天然ガスについては、足元で生産や消費が鈍化しており、2020年の生産・消費目標は達成が難しいと予想される1。石油についても、足元で生産が落ち込む一方、純輸入は急増しており、第13次5カ年計画が示した指標と比べて生産は下振れ、純輸入は上振れする可能性が高い。

再生エネルギー:「建設重視、利用軽視」を是正

中国の非化石エネルギー(再生可能エネルギーと原子力)の開発は急速に進んでいる。一次エネルギー消費に占める非化石エネルギー比率は2010年の9.4%から2015年に12%に上昇した。2015年の発電設備容量は水力2.97億kW、風力1.29億kW、太陽光(太陽熱を含む)0.43億kWといずれも世界最大である。第13次5カ年計画では非化石エネルギー比率を2020年に15%に引き上げる。設備容量の5年間の年平均増加率は水力こそ2.8%だが、太陽光(21.2%)と風力(9.9%)は高い伸びを見込んでいる2
再生可能エネルギーの設備導入が急速に進む一方、送電容量の制約などから発電が抑制される事態が常態化している。風力発電では、2016年の発電量が2,410億kWhだったのに対し、系統制約などによる発電抑制量が497億kWhで、発電量と発電抑制量の比率を示す発電抑制率は甘粛省で43%、新疆ウイグル自治区で38%に達した。太陽光発電でも、2016年上半期の発電抑制率が甘粛・新疆で各32%に達し、同国西北部を中心に風力・太陽光発電の設備が十分に活用されていない。水力発電でも、同国最大の設備容量を持つ四川省での発電抑制量が2013年の26億kWhから2016年は260億kWhに拡大した。発電抑制の原因としては、①大規模な風力・太陽光発電を行う西北部は電力需要が少なく、主要な電力の需要地である沿岸部への送電網の容量にも制約がある、②季節や天候に左右される再生可能エネルギーの発電量を平準化するためのピーク調整電源や蓄電設備が不足している、③地方政府が地元の発電所の稼働率を維持するために、他地域からの電力受け入れに消極的であるといった問題が指摘される。
中国政府も従来の再生可能エネルギー政策が「建設重視、利用軽視」であったと認め、第13次5カ年計画はこの是正を目指している。まず地域的にバランスの取れた設備導入を進める。風力発電では5年間の増加分(0.81億kW)の57%を東部や南部での設備導入に充て、西部は43%にとどめる。太陽光発電でも重点を西部のメガソーラーから東部と中部の分散型発電に移す。また揚水発電を2015年の0.23億kWから2020年に0.4億kWに拡大するほか、天然ガス火力発電の導入も進め、ピーク調整能力を強化する。中国は一次エネルギー消費に占める非化石エネルギー比率を2030年で20%に引き上げる目標を示しており、第13次5カ年計画の目標(2020年で15%)は重要な通過点となる。このため再生可能エネルギー導入を引き続き拡大する一方、再生可能エネルギーの利用率を高めることが第13次5カ年計画の重要な課題となっている。

本文ではエネルギー構造改革の推進、特に石炭利用抑制と天然ガス・再生可能エネルギー利用拡大という視点から、2020年に向けた中国のエネルギー政策と課題を分析した。これと密接に関係するのがエネルギー価格改革や電力システム改革、石油パイプラインや液化天然ガス(LNG)基地の第三者アクセスといった規制緩和や制度改革であり、エネルギー業界の国有企業改革にも踏み込む必要が出てくる。2017年秋の共産党大会で権力基盤を一層強化するとみられる習近平政権がスピード感を持って改革を進められるか注目される。


  1. 一次エネルギーに占める天然ガス比率は「エネルギー発展第13次5カ年計画」が「10%を目指す」とする一方、各論の政策文書である「天然ガス発展第13次5カ年計画」は「8.3~10%」としており、中国政府も下振れを想定しているとみられる。
  2. 原子力発電は2015年の0.27億kWから2020年に0.58億kWに拡大する方針である。2017年3月現在、中国で稼働中の原発は36基(計0.35億kW)、建設中の原発は20基(計0.23億kW)である。建設期間を5年と想定すると2020年の設備容量は指標をやや下回ると考えられる。

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