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株式会社三井物産戦略研究所

欧州で拡大する木質ペレット市場と注目のトレファクション技術

2014年6月12日


ドイツ三井物産
新産業・技術室
吉沢洋一


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欧州連合(EU)は2020年までに再生可能エネルギー(RE)の割合を最終エネルギー消費ベースで20%まで高めることを目標に、EU加盟国にその導入を義務付けている。加盟国ごとに課せられた割合は異なるものの、各国とも積極的にREの導入を推進している。REといえば風力発電、太陽光発電が注目されがちだが、生物資源であるバイオマスの担う役割も忘れてはならない。
EUにおける2011年の統計によると、発電部門ではEU全体の発電量3,280TWhのうちREの割合は21.3%でそのうちバイオマスは約19%と低いが、冷暖房部門では全体の熱供給量のうちREは16.5%でそのうちバイオマスが95%以上を占める。バイオマスというとバイオエタノールなど交通分野で利用されるバイオ燃料が想像されがちだが、本稿では、発電、冷暖房に利用される木質ペレットについて、現在の市場の状況とトレファクションと呼ばれる新たな技術について概説する。

欧州の木質ペレット市場

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木質ペレットとは、間伐材や未利用樹、木材工場から排出される残廃材等を顆粒状に砕き圧縮後に固めて形成される、長さ数センチメートル程度の棒状の固形燃料である。形成する際に木材の構成成分であるリグニンが軟化して接着剤の役割を果たすため化学的な添加剤を加える必要がないこと、原料を凝縮させるので発熱量が高く含水率も低いこと、大きさが均一であるため取り扱いが容易で搬送・保管に優れていることなどの利点がある(図表1)。
欧州バイオマス協会によると、世界の生産量は、過去10年間で約10倍に増加し、2012年の世界の木質ペレット生産量は約2,200万トンとなっている。欧州での生産はそのうちの約半分であり、北米、ロシアと続く。一方、世界全体の消費量約2,200万トンのうち、EU27カ国の消費量は1,500万トンと世界全体の7割近くを占めており、世界最大の木質ペレット消費地域となっている。欧州における生産と消費の差分となる約400万トンは、輸入によって賄われている。主な輸入元は米国、カナダ、ロシアであり、これら3カ国で輸入全体の9割近くを占めている。
次にEU域内の状況を見てみよう。欧州ペレット協議会がまとめた統計によると、2012年、EU最大の木質ペレット生産国はドイツ(220万トン)であり、スウェーデン(120万トン)、ラトビア(98万トン)、オーストリア(89万トン)と続く。ペレットはEU域内でもさかんに取引されており、特にラトビアは、自国の生産量の9割以上を輸出しており、EUにおける主要な木質ペレット供給国となっている。
EUにおける木質ペレット消費は、全体として見ると、発電用と暖房用の利用が約半々となっているが、各国別の消費市場は利用用途によって大きく①発電用(石炭火力発電所における混焼)、②熱供給用(住宅や商業用施設等における暖房等)、③両者の混合(バイオマスコジェネ等)、の3つに分類される。①の利用が盛んなのは、英国、オランダ、ベルギーの3カ国である。これらの国は、域外(米国とカナダ)からの輸入が圧倒的に多いことが特徴である。②に分類されるのはイタリア、ドイツ、オーストリア等である。その中でもドイツとオーストリアはペレットボイラーが多いが、イタリアはペレットストーブの導入数が多くなっている。③に属するのがスウェーデンとデンマークである。スウェーデンは自国生産が多いが、デンマークは自国産が少なく大部分を輸入に頼っており、EU域内ではラトビアとエストニア、域外ではロシアからの輸入が多い。
木質ペレットの利用用途の違いは、各国の制度によるところが大きい。木質ペレットのコストはトン当たり約160ドルと、石炭(トン当たり80~90ドル)と比べて割高であるところ、英国ではRE利用義務証書制度によって、電力会社が販売電力の一定割合をREにしなくてはならないという義務が課されている。そのため、石炭火力発電所を有する電力会社は、石炭との混焼によってその割合を満たす必要が生じており、発電部門において木質ペレットの需要が増加してきた。一方、ドイツの再生可能エネルギー法では、バイオマス発電に対する買い取りは20MWまでに限られており(かつ5~20MWのバイオマスは熱電供給という条件がある)、大型の石炭火力発電所を有する電力会社に木質ペレットの混焼を行うインセンティブが働かない。むしろ、再生可能エネルギー熱法において、新築の建物で消費される一部の熱エネルギーにREの使用が義務付けられており、また既存の建物に対しては旧型の暖房設備からREを利用したバイオマス熱供給システムや太陽熱暖房への設備更新に対して助成があったことが、これまでのペレット市場の拡大を後押ししてきた。ドイツ木質エネルギー・ペレット協会の指標によると木質ペレットの小売価格は1kg当たり25~30セントユーロで推移しており、暖房費(発熱量ベース)を灯油と比較すると4割近く安いので、消費者にとっても魅力的となる。

新たな技術として期待されるトレファクション

欧州で木質ペレット市場が拡大するにつれて「トレファクション(torrefaction)」という技術が注目を集めている。トレファクションとはもともと「(コーヒー豆を)焙煎すること」を意味するが、バイオマスのトレファクションでは、酸素のない状態で200~300℃程度の温度条件で行う熱処理プロセスをいう。この処理によってバイオマスから揮発性有機化合物が分解してガスとして抜けるため、トレファイド・ペレットは発熱量が処理前に比べ3割ほど増す(図表1)。石炭の発熱量に近づくため「バイオ・コール(バイオ石炭)」、また黒色をしていることから「ブラック・ペレット」、木質ペレットと比較して「第二世代木質ペレット」などとも呼ばれる。発熱量が増加するほか、疎水性が高まり運搬・貯蔵が容易になり、石炭火力発電所において石炭との混焼率を引き上げることが可能になる、といったメリットが挙げられる。
トレファクションはもともとフランスで開発された技術だが、現在は欧米の企業を中心に40ほどのプロジェクトで技術開発が行われている。欧州では特にオランダがトレファクション協会を設立するなど力を入れている。EUの研究開発プログラムである第7次研究枠組み計画(FP7)では、トレファクションに関するプロジェクト「SECTOR」が採択されている。21の企業、大学、研究機関が参加する産学連携プロジェクトで、トレファクションの技術に限らず、全サプライチェーン(原料の供給から輸送・貯蔵、最終利用)を通じた課題解決のほか、規格、社会的影響、環境評価といったあらゆる側面について研究、分析することを目的としている。トレファイド・ペレットの規格化も本プロジェクトを中心に進んでいくことが考えられる。さらに、国際的にトレファクションの利用を促進するために、国際バイオマストレファクション協議会が2012年に設立されている。
トレファイド・ペレットのターゲット市場は現在のところ欧州であり、石炭火力発電所への混焼が主な用途となる。実際、オランダTopell Energy社の生産したトレファイド・ペレットは同国の石炭火力発電所での混焼に用いられており、また米New Biomass Energyは欧州への輸出を行っている。ただし、今後はアジアでの需要が高まることも考えられる。トレファクション・プラントを森林等バイオマスの豊富な北米、北欧などに建設して供給し、大陸を超えた世界規模の市場へと拡大していくことが考えられる。

今後の動向

これまで木質ペレット市場は欧州を中心に拡大してきたが、今後は世界的にREを後押しする政策によって石炭火力発電所での混焼用および地域暖房など暖房熱供給用としての需要がともに高まっていくと考えられる。フィンランドのコンサルティング会社Pöyryによると、今後10年で世界の木質ペレット市場は倍増し、2025年には世界全体の生産量が5,000万トンを超えると予想されている。あわせて第二世代木質ペレットともいわれるトレファクション技術の導入が進むであろう。森林資源の豊富な日本で活用することも可能であろう。木質ペレットの利用を増やし、トレファクション技術を導入することでバイオマスの利用率を高めれば、エネルギー自給率を上げると同時に温室効果ガスの排出量削減にも寄与することが可能となる。そのためには政策的後押しも必要であり、欧州の経験が参考になろう。

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