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株式会社三井物産戦略研究所

世界の食肉需要の動向と飼料用穀物

2014年5月19日


三井物産戦略研究所
産業調査第二室
松浦武蔵


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世界では、現在年間約23億トンの穀物(小麦、米、粗粒穀物)が生産・消費されているが、この量は今後も人口増加や新興国の経済発展に伴って拡大していくものと予想されている。利用用途別に見ると、需要の約5割を占める「食用」は人口と比例した拡大ペースが見込まれ、同2割の「工業用」はエタノール原料の非可食植物へのシフト等により大幅な拡大は想定されていない。そうしたなか穀物需要を左右するカギと見られるのが、残りの約3割を占める「飼料用」の動向である。飼料用穀物の需要は、経済発展に伴う新興国での食肉需要の拡大に対応して大幅に増加する可能性があるためだ。そこで本レポートでは、食肉の消費・生産との関係性を軸に、今後の飼料用穀物の需給動向を考えてみたい。

食肉消費の世界概況

初めに、飼料用穀物の需要の源泉となる食肉需給の概況を見てみよう。米国農務省のデータによると2012年の世界の食肉生産量は253百万トン、消費量は249百万トンと、いずれも2000年比3割近く伸びている。品目別に見ると、牛肉の生産量は2000年比8.7%増の58百万トン、豚肉は同25.8%増の107百万トン、鶏肉は同50.5%の89百万トンとなっており、牛肉に比べて豚肉、さらには鶏肉の伸びが顕著である。
この傾向は、国別の1人当たり食肉消費量からも明らかである。図表1は2000年と2012年の主要国の1人当たり食肉消費量を牛・豚・鶏に分けて示したもので、各国で最も多く消費されている品目を黄色地で表示している。同表によると、国・地域によって食肉全体の消費量も、その構成も大きく異なっているが、2000年から2012年にかけて牛の割合が減り、鶏が増えた国が数多く見られ、ブラジル、オーストラリア、メキシコ等、最も多く消費される品目が牛から鶏に変化した国もある。この理由の一つとして、欧米を中心に、健康志向からホワイトミートと呼ばれる魚の白身や鶏肉の胸肉部分の需要が拡大していることが挙げられ、日本でも業務用を中心として鶏肉のニーズが高まっている。
また図表1で各国の1人当たり食肉消費量の合計値を見ると、極めて大きな格差が存在していることが読み取れる。その要因の一つは所得水準と考えられ、ベトナムやフィリピンといった低所得の国では食肉の消費は少量にとどまっている。一部品目のデータがなく単純な比較はできないが、インドネシアやインドも、存在するデータから推測すると、1人当たりの食肉消費量は低水準にとどまっているものと考えられる。しかし、中所得国や高所得国では、必ずしも所得が高い国ほど肉を食べているとはいい難い。中所得国に位置付けられるアルゼンチンやブラジルは高所得のEUや日本よりも多く肉を食べている。中所得国以上になると、食肉消費は所得水準よりも食文化や食習慣に左右される度合いが大きくなるということであろう。
それを踏まえると、中国をはじめとするアジア諸国では、所得水準が向上しても、米州や欧州のように肉を大量に消費するようになるとは考え難い。今後は、2000年以降ほぼ横ばいで推移している韓国の60kg/人・年程度といったあたりが、食肉消費拡大の一つの目処と考えられる。人口規模の大きさから、近年の世界の食肉消費増加の主力となってきた中国も、1人当たり消費量の拡大ペースは既に鈍化している(図表2)。水準も日本を上回る54kgに達しており、今後の拡大余地は限られているといえるだろう。今後の世界の食肉消費の拡大は、中所得国の段階に入りつつある中国よりも、インドやインドネシアをはじめとする低所得国の動向がカギとなりそうである。

食肉消費と飼料用穀物消費の関係

次に、世界各国の食肉需要の動きとの関係性を軸に、飼料用穀物の需給動向について見ていこう。図表3は、各国の食肉生産量と飼料用穀物の消費量の2000年から2012年にかけての変化を示したものである。この間、世界の飼料用穀物消費は105百万トン増加しているが、国別に見ると、食肉生産と同様、中国とブラジルの増加が目立っている。ただ、食肉生産量の増加率と比較してみると、中国とブラジルとでは状況が異なる面もある。
中国では、食肉生産量の増加率が34.4%であるのに対して飼料消費量の増加率が63.6%と、食肉を大きく上回る伸びを示している。この理由として考えられるのは、食肉の生産様式の変化である。小規模の農家が牧草や残飯・残肴を食べさせて生産するスタイルから、畜舎などで飼料穀物を与えて肥育する「工業型」の生産様式に移行すると、食肉の生産量が変わらなくても飼料消費は拡大することになる。中国の場合は、まさにそうしたケースに当たるものと考えられる。図表3には、各国で食肉を1kg生産するために投入された飼料の量も記載している。中国では2012年には食肉1kg当たり2.4kgの飼料を使用して生産しているが、これは2000年比で0.4kg増加した水準であり、中国の食肉生産が飼料穀物を用いる様式に移行しつつあることが読み取れる。
それに対してブラジルでは食肉生産76.1%増、飼料消費52.7%増と、飼料の伸びが食肉に比べて低くなっている。これは、生産する食肉の品目別の構成が変化したためと考えられる。一般に肉を1kg生産するのに必要な飼料は、牛の場合は11kg、豚肉では7kg、鶏肉では4kgといわれており、食肉全品目の生産量が変わらなくても、投入される飼料は、牛の比率が上がれば増加し、鶏の比率が上がれば減少することになる。図表1で示したとおり、ブラジルでは2000年以降、急速に鶏の消費が伸びており、その影響で食肉生産量に比べて飼料消費の伸びが抑えられたものと考えられる。ブラジルの食肉生産1kg当たりの飼料消費は、2000年の2.1kgから2012年には1.8kgに低下している。こうした傾向は、やはり鶏へのシフトが進んだ米国やカナダにも共通している。ただ、ブラジルの牛肉消費量が鶏肉のそれを下回ったとはいえ、依然、牛肉消費が多いにもかかわらず、食肉生産1kg当たりの飼料消費の値が中国等に比べて低いのは、放牧による牧草等で飼育している割合が高いためと考えられ、これはアルゼンチンやオーストラリアといった主要牛肉生産国にも当てはまる。

今後の展望とウオッチポイント

以上の分析を踏まえて、今後の食肉と穀物飼料の需給の推移を展望してみたい。まず食肉消費については、中国を含む中所得国や高所得国では、牛から鶏へのシフトをはじめとする構成の変化の可能性はあるが、全品目合計の消費量の拡大余地は限られてきており、今後の増加ペースは緩やかなものにとどまるだろう。焦点はインド、インドネシア等の低所得国へ移ってきており、こちらは経済発展に伴う所得水準、生活水準の向上の結果として、大幅に拡大する可能性が高い。2012年時点で1人当たりGDPが5,000ドルを下回る低所得国の人口を合計すると34億人に達する。その人々が現在より年間10kgずつ多く肉を食べるようになれば、2012年の世界の食肉消費量の約14%に相当する34百万トンの需要が追加されることになる。
飼料用穀物の需要は、そうした低所得国を中心とする食肉消費の増大に応じて拡大すると同時に、世界各国の食肉消費の品目別構成の変化や、生産様式の変化にも左右される。例えば中国において食肉の工業的生産様式への移行が進み、食肉1kgを生産するための飼料が2012年の2.4kgから、同じアジアの先進国である韓国並みの4.5kgに増加したとすると、同国の飼料消費は3.2億トンに倍増し新たに1.7億トンの需要が生まれる計算になる。これは現在の世界の飼料穀物消費の約2割にも相当する規模である。
ここで想定した変化は、方向としては確実に進行していくものと考えられるが、そのペースは、低所得国の経済発展のスピードや、肉および穀物の価格動向にも左右されることになる。今後、世界の食料需給を中長期的に展望していく上では、こうした構図を踏まえ、低所得国の食肉消費や各国の肉の生産様式といった変動要因の動きを継続的にウオッチしていくことが必要だ。

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