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株式会社三井物産戦略研究所

転機を迎えたクルマ-自動運転が変えるモビリティの未来-

2014年3月20日


三井物産戦略研究所
ICTイノベーション室
割石浩司


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2010年にGoogleが自動運転車の開発を表明して以降、自動運転車への関心が高まっており、自動車産業のみならず、異業種を巻き込んで世界中の企業が取り組みを始めている。
日本においても、2013年10月14日~18日に開催された第20回ITS世界会議東京2013では自動運転が主要テーマの一つとなり、その前後に開催された最先端IT・エレクトロニクス総合展のCEATEC Japanや東京モーターショーにおいても、各社が開発中の自動運転車が公開され、安倍首相が試乗したことが報道されたこともあり、大きな注目を集めた。
トヨタ自動車は、2010年代半ばに高速道路での高度な運転支援システムの実用化を目指すとしており、日産自動車は、高速道路だけでなく一般道でも走らせることを目標として開発を進め、2020年までに自動運転車を市場投入すると表明している。
本稿では、自動運転の動向と、その効果・課題を踏まえ、将来的な普及可能性を展望する。

自動運転とは

自動運転は、周辺環境認識技術や自己位置推定技術、自動誘導技術などの多岐にわたる技術により、自動車の基本的な性能である「走る」「曲がる」「止まる」を支援して、安心・安全で快適な運転環境を提供することを目指すものである。
現時点では、国際的な統一基準・定義が明確に決まっているわけではないが、NHTSA(米国運輸省道路交通安全局)の基準を一例に取ると、レベル0(自動化なし)、レベル1(特定機能の自動化)、レベル2(複合機能の自動化)、レベル3(半自動運転)、レベル4(完全自動運転)と、自動化の程度・技術レベルに応じて段階的に分類している。
レベル1の「特定機能の自動化」の事例としては、富士重工業が2008年に販売した衝突防止用自動ブレーキ「EyeSight」がよく知られており、国内外の大手自動車メーカーの乗用車への搭載も広がっている。また、トヨタが2003年にプリウスに初めて搭載した、縦列駐車や車庫入れ時のステアリング操作を自動化する「インテリジェントパーキングアシスト」機能なども特定機能の自動化の事例であり、その後、他メーカーの乗用車への搭載も進んでいる。
レベル2の「複合機能の自動化」は、自動で車速や先行車との車間距離を一定に保つACC(Adaptive Cruise Control)機能に、走行車線を自動検知して車線を保持したり、走行レーンを変えたりする機能を加えたものなどが、それに当たる。
レベル3の「半自動運転」は、機能限界になった場合のみ、運転者が自ら運転操作を行うもので、NHTSAはGoogleの自動運転車がこれに該当するとしている。無人・有人を問わず、周辺監視・運転操作を全てシステムに委ね、ナビゲーションシステムで目的地を入力すれば、自動的に目的地に連れていってくれるような自動運転車がレベル4の「完全自動運転」車であり、Googleや日産は、この実現を目指している。

期待される効果

自動化の技術レベルによって実現される形態は異なるものの、自動運転車のもたらす効果として期待されていることは、①交通事故の減少(自動ブレーキなど)、②運転快適性の向上(縦列駐車等の比較的困難な操作の自動化含む)、③高齢者等交通弱者の移動支援、④渋滞解消・緩和、⑤環境負荷の軽減(燃費向上等)などが挙げられている。
交通事故の原因の多くは、発見の遅れや、判断ミス・操作ミスといった人的ミスによるものであり、衝突防止など危機を回避する技術や、高齢化で低下した能力を支援していく運転支援技術などの進歩が大きく期待されている。国交省によれば、高速道路におけるACC搭載車の割合が3割になると、渋滞による損失時間を半減できる可能性があると試算しており、また、自動車交通分野の省エネ対策を追求したNEDOのエネルギーITS推進プロジェクトでは、大型トラック3台によるテストコースでの自動運転・近距離隊列走行の実証実験を行った結果、将来的に実用化が進めば15%以上の省エネ効果が期待できるとしている。

実現への課題

日本政府が2013年6月14日に公表した「日本再興戦略」によれば、安全運転支援システム・自動運転システムの市場規模は、現在の5,000億円から2030年には20兆円程度に拡大すると予想しており、安全運転支援システムは、国内販売の新車には全車標準装備、保有台数ベースでもほぼ全車に普及するとしている。
また、米国の市場調査会社IHSオートモーティブが2014年1月に発表した内容によれば、「運転者の注意を必要としない自動運転車」は2025年頃から市場投入され始め、2035年には、世界の自動車販売台数1億2,900万台の9%の1,180万台を占め、5,400万台の自動運転車が走っていると予想している。
将来に大きな可能性を持つ自動運転だが、実現への課題も数多く残されている。まず、技術面として、どのような状況でも車両の周辺環境を確実に認識できるように、より高精度なセンサーの開発や、自動運転車と情報のやり取りを行うインフラ側の整備も必要になるだろう。自動運転技術には、Googleや日産が目指しているように、車両が自ら周辺環境を認識し自律的に走行する「自律型」と、日本のエネルギーITS推進プロジェクトや欧州のSARTREプロジェクトで行われているように、道路インフラ設備から発信される情報と協調しながら自動走行を実現する「インフラ協調型」がある。もちろん、自律型と協調型はそれぞれ補完可能な関係にあり、例えば、交通量の多い交差点については、車車間通信・路車間通信を利用して車両や歩行者の情報をやり取りすることで、よりスムーズな走行をすることが可能となる。それを実現するには社会全体として大掛かりなインフラ投資が必要だが、その投資コストに見合う利便性や経済的効果なども検証していく必要があるだろう。
法整備面の課題も大きい。1949年に国連で採択されたジュネーブ道路交通条約では「一単位として運行されている車両又は連結車両には、それぞれ運転者がいなければならない」「運転者は、常に、車両を適正に操縦し…」「車両の運転者は、常に車両の速度を制御していなければならず…」と定めており、日本の道路交通法第70条でも「車両等の運転手は当該車両等のハンドル、ブレーキ、その他の装置を確実に操作しなければならない」とされている。今後、法解釈を含めて自動運転車導入に向けての環境整備が進むとしても、万が一の事故時の責任の所在は複雑だ。システムの欠陥、予期せぬ誤動作、メンテナンス不足、運転手による誤操作など、さまざまな要因に起因するものをどう整理するか、現時点では回答が出ていない。

今後の普及可能性

今後、自動運転車はどのように導入が進んでいくのだろうか。
まずは、自動ブレーキなどに代表される安全対策としての導入が、規制への対応と相まって進むだろう。米国では、4.5t以下の全ての車両にリアビューカメラ搭載が義務化され、EUでは2013年11月から全ての新型商用車で自動ブレーキの搭載が義務化されている。日本でも、2014年11月から12t超の大型車両の自動ブレーキ搭載を義務化する。
次にユーザーニーズの側面から見れば、高齢化の進む社会においては、自動駐車機能などへのニーズも高いだろう。前述のインテリジェントパーキングアシストは既に市販車にも搭載され始めているが、駐車場内を走行中、車載センサーで空スペースを検知すると自動的に止まり、スペース内に自動的に車庫入れ操作をしてくれる自動車などが各社により試験的に開発されており、技術的には実用域に近いレベルにある。
3つ目として政策面の観点から、一般道よりも障害物の少ない高速道路での運転の自動化が比較的早く進む可能性が高い。国交省のオートパイロットシステムに関する検討会では、制度・技術等の各課題を考慮して、2020年代初頭頃までに高速道路における高度な運転支援システムによる連続走行の実現を目指すとしている。これは、高速道路における自動運転導入により、渋滞緩和や燃費向上、長時間の運転負荷の軽減等の直接的な効果に加え、国内輸送のさらなる効率化や自動車関連産業の競争力の強化の効果も期待されるからである。
4つ目として、特定エリアに限定して導入される可能性もある。テーマパークやショッピングモール、工場等の巨大駐車場における全自動駐車システムなど、公道ではない場所での導入が考えられる。また、特定の市街地内における新しい公共交通システムとして、限定された路線や地域内での自動運転車の導入なども期待されている。例えば英国ミルトンキーンズ市においては、市内中心部と主要駅間の歩道の一部を開放し、小型の自動運転車を走行させる計画を打ち出しており、2015年にはドライバーが運転するタイプの試作車20台で実験を行い、2017年には100台の自動運転車を走行させる予定としている。ユーザーはスマートフォンの操作で自動運転車を呼び出すことが可能で、ユーザーの都合に合わせて移動することができるという。
このように見てくると、2020年頃を目途に、ある程度、自律的に走行できるような自動運転車が各国で何かしらの形で走行している可能性が非常に高い。自動運転の今後のさらなる進展に期待したい。

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