問題は「いつ」食べるかだった?! 柴田重信先生に学ぶ「時間栄養学」を活用した体内時計の整え方

2023.08.25

近年、食と健康の関係において「時間栄養学」が重要視されています。「何を、どれだけ食べるか」に重点が置かれてきた今までの栄養学に対し、体内時計に基づいて「いつ、どのように食べるか」も意識する点が特徴です。時間栄養学の発展は、健康に対するさまざまな効果の発見をもたらしています。
今回は、時間栄養学の第一人者である柴田重信先生に、食と健康の関係についてお話を伺いました。

柴田 重信 教授

広島大学大学院 医系科学研究科 特任教授
早稲田大学名誉教授

1981年、九州大学大学院薬学研究科博士課程修了。薬学博士。早稲田大学人間科学部教授などを経て、2023年3月まで同大理工学術院先進理工学部電気・情報生命工学科教授を務めた後、同年4月から現職。日本時間栄養学会理事・顧問も兼任する時間栄養学の第一人者。安藤百福学術大賞、大隈記念学術褒賞、文部科学大臣表彰などを受賞している。主な著書に「食べる時間でこんなに変わる 時間栄養学入門」(講談社ブルーバックス)「脂肪を落としたければ、食べる時間を変えなさい」(講談社+α新書)、「Dr.クロワッサン 実は何を食べても痩せられる。」(マガジンハウス)など多数。

時間栄養学とは?

時間栄養学を端的に説明すれば、「体内時計(時間)と食事(栄養)の相互作用によって、効率的に健康維持を目指す栄養学」と言えます。これは、同じ栄養素であっても摂取する時間によって、私たちの体に与える影響が異なってくるためです。例えば「夜遅くに物を食べると太りやすい」「筋肉を増やしたいなら、タンパク質をとるタイミングにこだわったほうがよい」という話は、今では多くの方が知るところでしょう。
私たちは、マウスを使った実験やヒトにおける調査研究や介入試験を行い、科学的なエビデンスを蓄積しています。その結果、「納豆は朝に食べれば筋肉増強に、夜に食べれば血液をサラサラにするのに効果的」、「ゴマのセサミンは朝食時に摂取したほうが血中の総コレステロールを下げやすい」といった具体的な生活提案や、研究データに基づいた商品・サービス設計、臨床現場での応用など、さまざまな形で社会的な広がりを見せています。

体内時計が、体の中に1日周期の時間軸を作り上げるシステムということは、皆さんもご存じでしょう。いつも昼食を食べる時間になるとお腹が鳴る、夜の12時を過ぎると眠くて起きていられないといったように、体が日常のリズムに合わせて動いていることを普段の生活でも感じるかと思います。体内時計とは、このリズムを正しく刻むシステムを指し、その機能を司る遺伝子を「時計遺伝子(Clock gene)」と言います。
栄養を吸収するとき、体内ではそれぞれの栄養素に対応したトランスポーター(物質の輸送を仲介するタンパク質)が消化器官で吸収活動を行ったり、代謝酵素が肝臓や筋肉などの各末梢器官で代謝を行ったりします。こうした生体機能は、各器官でのタンパク質の合成・結合・分解によってもたらされますが、そこには概日リズム(おおよそ1日周期のリズム)が存在することが、研究によってわかっています。
つまり、食べ物の消化、吸収、代謝機能の概日リズムにあわせて、食事の質・内容のみならず「いつ食べるか」という食べるタイミングも考慮すると身体的には大変調和的かつ効率的で健康にも良い効果がもたらされるのです。

社会的時差ぼけによる悪影響

最適な時間で食事がとれないことによる悪影響について語るには、中枢時計と末梢時計という二種類の体内時計の関係から説明する必要があります。
実は、体内時計は大きく二種類に分類され、そのうちの一つが、脳の視交叉上核(しこうさじょうかく)という部位に存在する中枢時計です。中枢時計は親時計とも呼ばれ、目から入る光によって時刻を調整する機能を有します*1
もう一つは、末梢時計(あるいは子時計)と言います。その名の通り、肝臓や腎臓、骨や筋肉といった末梢器官に存在し、各器官を連携させて効果的に働かせる体内時計です。

中枢時計と末梢時計はオーケストラの指揮者と奏者のように、指示を与える者とそれを受け取って実行する者の関係にあると言われています。つまり、中枢時計は末梢時計を同調させ、全身の体内時計をコントロールしているのです。この役割を果たすため、中枢時計には恒常的に概日リズムを刻む能動的な仕組みが、末梢時計には概日リズムが減衰していく受動的な仕組みが備わっていることが、マウスの実験によってわかっています*2。中枢時計から末梢時計へ指示や情報を伝える際は、自律神経系や内分泌系などいくつかの経路があると考えられています*3。その一方で、末梢時計は中枢時計からの同調刺激以外に食事時間に合わせて同調することができます。
ヒトの研究で外界の光の条件を7時点灯23時消灯に設定し、中枢時計をメラトニン分泌で、末梢時計を皮下脂肪でモニターし、食事時刻のみ5時間遅らせると、末梢時計のみ1-1.5時間遅れました*4。別な言い方をすれば、朝起きても朝食欠食者は、午前中はお休みモードのプレゼンティズムになる可能性があるということです。食事、つまり、栄養は末梢時計に対して時刻情報として伝わりますが、朝食欠食を伴う夕食偏重の食事スタイルや夜型の生活は、中枢時計と末梢時計に時差ぼけを生み出す可能性があるのです。

実際、長期間にわたる不規則な生活、夜型の生活によって健康に悪影響を及ぼした例が数多く存在します。
例えば、時差ぼけを起こしやすい状況としては、週末の「寝だめ」があげられます。朝の起床時刻が週末に2時間以上遅くなると「ソーシャル・ジェットラグ(社会的時差ぼけ)」状態となります。これは自分の体内時計が週末から週始めにかけて実社会の時間より遅れることによって生じる一種の時差ぼけです。このように平日と休日の睡眠時刻の違いによって生じる1-3時間のソーシャル・ジェットラグは、夜型生活を送るほど顕著になることが調査でわかっています*5。そして、ソーシャル・ジェットラグの程度が大きい人ほど、肥満傾向、睡眠の質の低下、鬱傾向の上昇に加え、喫煙率の上昇や学校での成績低下が見受けられるなどといった、多様な悪影響が報告されています*6
ソーシャル・ジェットラグが単回であれば、体内時計の乱れを戻すことも可能でしょう。しかし、毎週末のソーシャル・ジェットラグによる長期にわたる体内時計の乱れは、健康上の悪影響のみならず、仕事や学業といった社会的活動においてもパフォーマンスの低下を招くのです。

時間栄養学の観点からいえば、適切な時間に適切な栄養を摂取することで、中枢時計と末梢時計が調和して正しく働き、睡眠と覚醒のリズム、体温や血圧の変化、ホルモンの分泌、そしてエネルギーの吸収や代謝といった生体機能が効果的に発揮されます。その結果、肥満や高血圧、高血糖などのメタボリックシンドロームのリスクを下げることはもちろん、筋肉の効率的な維持・増強、メンタルの安定なども期待できるでしょう。

体内時計を整える朝食

前項で、夕食偏重の食生活が体内時計の乱れを招くことを述べましたが、反対に体内時計を整えてくれる鍵が朝食です。ここでは、時間に加え、その効果を発揮する朝食メニューについて紹介しましょう。

まず、インスリンの分泌を促す炭水化物は、朝の体内時計のリセットに欠かせません。インスリン分泌によって、代謝に深く関わる肝臓の末梢時計が刺激をうけて動き出すため、朝から代謝が活発化し、痩せやすい状態になります。消化しやすいでんぷんは、すぐにエネルギーに変換でき、胃や腸といった臓器の働きを活性化させるので、イモ類や豆類、全粒粉などに含まれる難消化性でんぷん(レジスタントスターチ)より末梢時計のリセット効果が強く、朝食向きです*7。逆に、レジスタントスターチは夕食の高血糖予防と夕食偏重による体内時計の夜型化の防止のために、朝食より夕食にお勧めです。

次に重要なのはタンパク質でしょう。筋肉の維持・増強に欠かせないタンパク質は分解され、ペプチドやアミノ酸になり吸収されますが、朝のほうが吸収にかかわるトランスポーターが活発であることがわかっています*8。理想的な朝食のタンパク質摂取量は約20グラムです。牛乳や豆乳はコップ1杯で約6グラム、納豆1パックが約7グラム、卵一個が約7グラムとなっているので、いくつか食品を合わせてとるのがよいでしょう。
忙しいビジネスマンの方は、会社に到着してから、ゆで卵やサラダチキンなどを間食としてとることもおすすめです。

魚油に含まれるDHAやEPAといった不飽和脂肪酸は、健康に良い成分としておなじみの栄養素です。特にDHAはインスリン分泌を促す上、魚自体にタンパク質が豊富なので、非常に朝食向きと言えます。また、DHAやEPAは夕食より朝食で吸収が良いことが知られています。DHAにはHDLを増やし、EPAには中性脂肪や総コレステロールを減らす働きも確認されているため、動脈硬化を防ぐ上でも有用です*9

私はこうした朝食を毎日続けているおかげで、70歳になる2023年現在も、健康診断の結果はA、B判定です。毎朝5時過ぎに起床してからウォーキングを行い、それから上記の栄養素に食物繊維を足した朝食をとることで、薬要らずの健康体を保っています。健康診断で出たBMI 21.9、体脂肪15.9という数字は、研究のことを抜きにしても、ちょっとした自慢です。
また、時間栄養学が注目を浴びる理由の一つが、プチ断食です。プチ断食とは、一日の「食べる時間帯」を制限して絶食時間を長くとる健康法で、食べる量やカロリーを制限するよりも肥満やメタボを防ぐ効果が期待できます。その際に重要となるのが、何時間断食するかという時間の長さと、いつからいつまで断食するかという時刻の問題です。
近年発表された16時間断食(8時間摂食)の効果に関する研究*10では、試験者にプチ断食を行ってもらい、インスリン抵抗性や空腹時血糖値、体重、体脂肪を計測しました。実験は、自由摂食グループ、食べる時間帯を午前6時から午後3時までとしたグループ、食べる時間帯を午前11時から午後7時までとしたグループで比較しました。食べる時間帯を午後3時までとしたグループと食べる時間帯を午後7時までとしたグループは、自由摂食グループより摂取カロリー、食事回数が同様に低下しましたが、代謝系などに効果があったのは、食べる時間帯を午後3時までとしたグループのみでした。
また、食事ができる時間を10時間、11時間、12時間と延ばすと、当然、抗肥満効果は弱くなりますが、食事を朝早い時間に開始し、夕方早めに食べ終えることが重要となります。しかし、それ以上に興味深いのは、食べる時間帯を午前11時から午後8時までの8時間としたグループよりも、食べる時間帯を朝8時から夜7時までの11時間としたグループの方が、効果が高かった点です。
このように、プチ断食は、夜間にあわせて行い、翌朝の早い時間に朝食をとり、夕食を早めに終わらせるスタイルが最も効果的です。オートファジー(細胞が自らの細胞質成分などを分解し、それによって生じた代謝物を利用する仕組み)の活性化と、体を休める時間が夜に重なるため、効果を得やすくなるのです。

時間栄養学の可能性

実は、時間栄養学に則って食品や食品成分、機能表示成分などをとる時間を指定することは難しく、食事摂取基準でも種類や量に関する言及のみに留まっています。時間栄養学のさまざまな健康効果が確認されながらも時間指定に関して足踏みが続くのは、これらが動物実験や、調査研究であり、介入研究の研究成果が乏しいことによります。
一方で、時間栄養学の兄弟にあたる時間薬理学や時間治療は、既に多くの医療現場で実践されており、数多くの臨床結果をもたらしています。特に、薬は服用のタイミングがきちんと決められているように、時間による作用の変化が大きなファクターとなります。気管支喘息、関節リウマチ、高血圧、脂質異常、消化性胃潰瘍などの疾患の薬物治療においては、病態を悪化させる因子の発現や活性が、時計遺伝子の働きによって調整されています。そういった時間を狙って薬を投与することが改善に大きく寄与するのです*11
また、身近なもので言えば、ダイエットを助ける食事管理アプリにも時間栄養学が応用されています。適切な食事のアドバイスを行うとともに食事調査も行い、時間栄養学とアプリの両面で磨きこみに取り組むアプリの開発企業もあります。このアプリでは、時間栄養学の視点で、毎食のカロリーや栄養素の摂取状況をモニターしたり、食事状況のデータ収集も行ったりすることが可能です。
将来的にAIの進化やビッグデータの解析が進むことによって、よりパーソナライズされ、リアルタイムに対応した食事管理アプリが出現するかもしれません。例えば、普段の食生活から導いた適切な食事管理だけでなく、大好きなラーメンを食べても大丈夫な日時を教えてくれたり、急な会議によって食事時間が遅くなった場合には冷奴の夜食をすすめてくれるなど、本当の管理栄養士がそばにいてくれるかのようなサービスが実現できたら、さぞ素晴らしいことでしょう。また、技術の進化を待たずとも、夜間交替制勤務者の方など、体内時計が乱れがちな人に向けた健康メニューの開発などができれば、大きな需要を得るかもしれません。

現在、時間と食事、体内時計と栄養の関係を示すデータ自体は数多くあるものの、その因果関係を明確に示すことができずにいることが、食品をとる時間についてガイドラインに載せられない理由の一つになっています。しかし今後、AIやビッグデータ、ウェアラブルデバイスなどが発達し、さまざまな実証データが集まれば、より明確に時間栄養学の健康効果を示すことができるようになるかもしれません。
また、最近プレシジョン(精密)栄養学が台頭してきましたが、この実践には時間栄養学のデータ活用が欠かせません。その時には、今よりさらに具体的で、個々人に応じた助言ができるかもしれませんし、そうやって実践する人が増えれば、思いがけない効果の発見をもたらす可能性もあります。

時間栄養学の魅力は、何か特別なものを購入したり、苦しいことをしたりせずとも、食べる時間を変えるだけで健康に近づけるという点です。人間には、ちょっとした工夫やささやかな努力をするだけで、今よりもっと健康になれる可能性がある、そんな風にワクワクさせてくれる時間栄養学が、食事に関するあらゆるシーンで関わってくれば素晴らしいと思います。
読者の皆さんも、ぜひ次の食事から時間栄養学を実践してみてください。

*1:Colwell CS : Linking neural activity and molecular oscillations in the SCN. Nat Rev Neurosci,12:553-569, 2011.doi:10.1038/nrn3086

*2:Yamazaki S, Numano R, Abe M, et al.: Resetting central and peripheral circadian oscillators in transgenic rats. Science, 2888(5466)):682-5.200. doi: 10.1126/science.288.5466.682.

*3: Tahara Y and Shibata S : Circadian rhythms of liver physiology and disease : experimental and clinical evidence. Nat Rev Gastroenterol Hepatl,13: 217-226,2016. Doi:10.1038/nrgastro.2016.8

*4: Wehrens SMT, Christou S, Isherwood C, et al. : Meal Timing Regulates the Human Circadian System. Curr Biol. 27(12):1768-1775, 2017.doi: 10.1016/j.cub.2017.04.059. Epub 2017 Jun 1.

*5:Wittmann M, Dinich J, Merrow M, et al.: Social jetlag: misalignment of biological and social time. Chronobiol Int, 23:497-509, 2006. doi:10.1080/07420520500545979

*6:Roenneberg T, Allebrandt KV, Merrow M, et al.: Social jetlag and obesity. Curr Biol, 22:939 – 943, 2012. doi:10.1016 / j.cub.2012.03.038

*7: Hirao A, Tahara Y, Kimura I, et al.: A balanced diet is necessary for proper entrainment signals of the mouse liver clock. PLoS One. 4(9):e6909, 2009. doi: 10.1371/journal.pone.0006909.

*8: Qandeel HG, Duenes JA, Ye Zheng Y. et al.: Diurnal expression and function of peptide transporter 1 (PEPT1). J Surg Res;156(1):123-8,2009 doi: 10.1016/j.jss.2009.03.052.

*9:Hui-Jun Zhang HJ, Xiang Gao X, , Xiao-Fei Guo XF, et al.: Effects of dietary eicosapentaenoic acid and docosahexaenoic acid supplementation on metabolic syndrome: A systematic review and meta-analysis of data from 33 randomized controlled trials. Clin Nutr , 40(7):4538-4550. 2021. doi: 10.1016/j.clnu.2021.05.025.

*10: Xie Z, Sun Y, Ye Y. etr al.: Randomized controlled trial for time-restricted eating in healthy volunteers without obesity. Nat Commun. 13(1):1003, 2022. doi: 10.1038/s41467-022-28662-5.

*11:Ohdo S: Chronotherapeutic strategy : Rhythm monitoring, manipulation and disruption. Adv Drug Deliv Rev,62:859 – 875,2010.