レポート | 2017年の選挙結果から展望するEUの進路 - 株式会社三井物産戦略研究所

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株式会社三井物産戦略研究所

2017年の選挙結果から展望するEUの進路

2017年12月8日


三井物産戦略研究所
欧露・中東・アフリカ室
犬塚陽介


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EU主要国で2017年に相次いだ政権選択選挙が一段落した。ドイツやフランス、オランダ、オーストリアでは、格差是正や移民対策の強化を主張するEU懐疑派が大幅に支持を拡大させたが、政権奪取が現実味を帯び始めた選挙戦終盤で有権者に警戒感が広がり、親EU派が辛くも勝利して統合の推進力は維持された。独仏を中心としたEUは、治安対策やユーロ圏改革、雇用問題等で統合の深化を図る方針だが、次回選挙までの今後4~5年でEUの有効性を目に見える形で提示できなければ、次こそはEU懐疑派が政権の座を射止める事態になりかねない。ドイツの連立交渉の長期化でEU首脳の顔ぶれがそろわず、改革に着手するのが大幅に遅れるのではないかとの懸念もくすぶる。EUの将来を揺さぶる課題はどこにあるのか。選挙結果を踏まえた加盟国の政治環境を整理した上で、EUが直面する課題と改革案を検討し、その進路を展望したい。

ポピュリスト政党の躍進と既存政党の衰退

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2017年のEUでは、3月にオランダ下院選、5~6月にフランス大統領選と下院選、9月にドイツ下院選、10月にオーストリア下院選とチェコ下院選が相次いだ。EU離脱を決めた英国でも6月に解散総選挙があった。英国を除くと、いずれの選挙でもEU懐疑派が台頭し、国政への影響力を高める結果となった。
ドイツではメルケル首相の与党連合が第一党の座を維持したが、厳格な移民政策を掲げる「ドイツのための選択肢(AfD)」が得票率12.6%(94議席)で第三党に躍進した。フランスでは39歳のマクロン大統領が勝利したが、国民戦線のルペン党首は決選投票で得票率33.9%、初回投票でも21.3%を獲得。急進左派のメランション氏の得票率19.6%と合わせると、フランスではいわゆるポピュリスト政治家が4割以上の支持を集めた計算になる。オランダでは反イスラム政党の自由党が得票率13.1%で第二党となった。オーストリアでも厳格な移民抑制策を掲げる自由党(FPO)が得票率26.0%で第三党となり、連立入りが濃厚だ。
EU懐疑派が躍進した背景としては、将来への展望が描けぬまま苦しい生活に直面する有権者が抱いた、現状打破への渇望が指摘できる。加盟国内にはグローバリゼーションに端を発した所得格差や地域間格差が顕在化している。2008年の欧州債務危機後には、多くの加盟国で緊縮財政が導入され、社会保障費の削減で有権者の日常から潤いが失われた。2015年秋以降には100万人以上の難民認定希望者が押し寄せ、有権者は治安や雇用にも漠然とした不安を募らせた。
こうした「忘れられた人々」の不満の受け皿となったのが、EU懐疑派である、いわゆるポピュリスト政党だ。ソーシャルメディアの普及で価値観は多様化、細分化し、有権者の利益を最大公約数的に代表するのは難しさを増している。ともすれば既存政党が八方美人的な政策に陥るなか、ポピュリスト政党はEU統合の礎石となってきた寛容性を切り捨て、極度に単純化した主張で「忘れられた人々」に浸透した。問題を解決できないエリート層や難民・移民を標的に「Us Vs Them(われわれ対エリート層)」「キリスト教Vsイスラム教」といった構図で対立をあおる。こうした主張は「忘れられた人々」にとり、その是非はともかく、日常の不満を代弁してくれるように響いたのは想像に難くない。反面、非寛容な対決姿勢は国内の分断を深め、熟慮を重ねた上での合意形成を困難にする副作用も生んだ。
より深刻なのは、合意形成を主導してきた保革二大政党の求心力の低下だ。1990年代初頭には各国で60~80%だった得票率は、2017年にはドイツやオーストリアで50%台、フランスでは実に26.4%(大統領選の初回投票)にまで落ち込んだ(図表1)。フランスでは左右のポピュリスト勢力に引きずられるように共和党の一部が右傾化、社会党の一部が左傾化して穏健派と対立し、一部議員の離党や分裂の事態に陥っている。政党の細分化と乱立が深まれば、生産性に乏しい政策論争が続いて「決められない政治」が常態化しかねない。政治不信の拍車は、より過激なポピュリスト勢力を誘発する土壌ともなり得る。各国の首脳に突き付けられた課題は、EUの根幹を成す協調と寛容の精神で国内外の断層を埋め、有権者の目に見える形でEU結束の有効性を示して、統合を不可逆的に深化させていくことだろう。

重み増すフランスの改革

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問題は、EU改革に残された時間が、せいぜい各国で次回選挙が実施されるまでの4~5年にすぎないことだ。ユンカー欧州委員長は9月13日の施政方針演説で「好機は永遠に存在するわけではない」と述べ、EU懐疑派の勢力が限定的なうちにEU改革に本腰を入れるよう訴えた。
先頭に立つのは、フランスのマクロン大統領だ。9月26日の演説ではEUの将来像を主題に据え、安全保障やユーロ圏改革の構想を打ち出した。安全保障面では難民流入とテロ対策を念頭に、加盟国共通の域外国境警備・管理システムや難民受け入れ体制の構築を訴えた。軍事面では欧州共通の介入部隊の創設、共通軍事予算や行動理念の構築、経済面ではユーロ圏共通予算やユーロ圏財務相の創設を主張している。
最も成果が期待しやすいのは、安全保障分野だ。ほとんどのEU加盟国は、域内での自由な人の移動を保障するシェンゲン協定に加盟している。一方で、EU域外との国境管理は当該国に任されており、十分に管理が行き届かない地域もある。言葉の壁や個人情報保護との兼ね合いから機密情報の共有に消極的な加盟国も多く、ひとたびシェンゲン域内に入ったテロリストや犯罪者を捕捉するのは難しい。すでにパリやニース、ベルリンで大規模テロが発生しており、EU主導でテロ対策の強化を求める声は高い。欧州議会の世論調査でも8割に達しており(図表2)、国境管理やテロ対策は支持を得やすい分野だ。軍事面でもトランプ政権の誕生で米欧関係にきしみが生じており、予算や装備、指揮命令系統の段階的統合が期待できる。NATO重視の立場から欧州の防衛統合に反対していた英国がEUから離脱するのも議論を促進する要因となろう。
他方、現時点で実現性に疑問符が付くのは経済関連だ。投資や雇用を促すためのユーロ圏共通予算の導入は、財政規律の緩い南欧諸国への財政移転にほかならないとしてドイツの反対が強い。ドイツは同様の理由で、欧州委員会が銀行同盟を完成する一環として提案する預金保護制度への共同負担にも異を唱える。
もっとも、時に独善的と批判されるドイツの主張にも汲むべき事情はある。EU統計局によると、2016年のユーロ圏主要国で財政収支が黒字なのは、ドイツ、オランダ、ルクセンブルクの3国と財政支援の条件で黒字を義務化されたギリシャなど数カ国にすぎない。経済規模を考えれば、ドイツの財政力に各国が期待しているのは明らかだ。仮に域内での富の再分配がEU全体の成長を促す施策だったとしても、反ユーロを掲げるAfDと対峙するドイツの主要政党が消極的となるのも無理はない。独仏の共同歩調といっても、それは総論としての統合深化を肯定しているにすぎず、各論でのスタンスは異なる。
だからこそ、今後の統合深化に重要なのは、フランスの復調だ。マクロン政権は労働市場改革に着手し、税制改革にも裾野を広げて成長戦略を軌道に乗せる構想を描く。フランスが復調してEU改革の主導権を握れば、突出することを嫌い、共同歩調を好むドイツの協調を引き出しやすい。短期的にEUの将来はフランスの改革の進捗状況次第といえ、マクロン大統領の手法にかかる期待は大きい。ただし、歴代大統領がさまざまな抵抗に遭い、断念を余儀なくされてきた各種改革の遂行が容易ではないのも事実だ。
ドイツで第一党となったメルケル首相のキリスト教民主同盟(CDU)と他党との連立協議が難航しているのも懸念材料だ。どの政党が政権の座に就いたとしても、ドイツのEU政策に大幅な変更は予想されないが、政治空白が長引くほどEU改革への着手が遅れかねない。

深まる断層、統合推進は正念場

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仮にフランスの復調が軌道に乗り、改革が進み始めたとしても、その進路はなだらかではない。最大の懸念は、6カ国でスタートした加盟国が28カ国にまで膨れ上り、全会一致が原則のEUでコンセンサス構築が難しくなっていることだ。
中でもポーランドやハンガリーは、キリスト教に根差した独自の価値観の維持を主張。難民移民の受け入れ分担を拒否し、司法やメディア統制を強化するなど、illiberal(反リベラル)を掲げて独仏への対抗心を見せる。独仏主導の改革案も発展途上にある加盟国の見解が十分に反映されないまま、先進国の価値観を強要されかねないと反発する。最近では厳格な移民抑止策を唱えるオーストリアやチェコが、ポーランド、ハンガリーに接近しており、EU内の「東西対立」は強まりかねない。
経済状況の異なる「南北」の温度差も潜在的な脅威となる。財政が健全なドイツ等に比べ、フランスやイタリア、スペイン、ポルトガルは緊縮を余儀なくされ、財政政策による景気刺激策の選択肢は限られる。欧州で最大の課題の一つである若年層(15-24歳)失業率も、北部に比べて南欧諸国は圧倒的に高い(図表3)。最近のポピュリスト政党は露骨な人種差別的主張を控える傾向にあり、過去の過激な主張を知る中高年に比べて、若年世代の抵抗感は薄いとされる。EU懐疑派を抑制するためにも状況改善は重要だが、現状認識の違いが共通政策を推進する上での障壁となりかねない。
また、最近ではスペインのカタルーニャ州(州都バルセロナ)で独立問題、イタリアでもロンバルディア州(州都ミラノ)やヴェネト州(州都ヴェネチア)で自治権拡大を求める動きがある。いずれも他地域に比べて富裕な地域であり、税収による国内での富の再分配に不満を抱いていることが背景の一つだ。現状で独立が実現する可能性はゼロに近いが、地域レベルでの断層の深まりは、EU統合には遠心力となって心理的影響を及ぼすだろう。
EUのトゥスク大統領は加盟国首脳に宛てた2017年1月31日付の書簡で、「EU崩壊は加盟国に全面的な主権をもたらすのではなく、米国やロシア、中国といった超大国への依存を高めるだけであることを明確にしていかねばならない」と述べ、改革の推進でEU統合の「訴求力を復活させる必要がある」と訴えた。2018年春までに実施されるイタリア総選挙でEU指導部の役者は出そろう。待ったなしの改革に向け、2018年のEUは正念場を迎えることになる。

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