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株式会社三井物産戦略研究所

激しい競争環境下にある世界の通信インフラ産業

2017年3月23日


三井物産戦略研究所
産業調査第二室
浦川哲也


Main Contents

要約

Ⅰ. 通信インフラ産業の概観

  • 通信インフラ産業は、人々の生活や企業の活動を支える基盤の一つとして公共性が高いことから、当初は政府が主導して、独占的に事業を運営する国が多かった。しかし、通信サービスの品質低下や料金の高止まりなど独占による弊害が目立ってきたことで、1980年代から1990年代にかけて多くの国で通信事業の自由化を通じた競争環境の導入が進められていった。とりわけ、この時期に普及し始めた携帯電話の事業では、複数の事業者が参入する厳しい競争環境が形成された。
  • 国外の通信事業者も含めた競争環境が形成された国では、通信インフラの整備や価格競争が促進され、所得の低い国であっても普及が進んだ国が多い。2015年時点で、新興国でも既に5割前後の人が携帯電話を利用していると考えられる。
  • 通信インフラの機能は、大きく「通信サービス」、「通信設備管理」、「通信設備建設」の3つのレイヤーに分けることができる。通信サービスから通信設備管理まで並行して行う通信キャリアが、多くの国で主体となって通信事業を行っているが、近年ではMVNOやインフラシェアリングといった新しいビジネスモデルも出てきている。

Ⅱ. 主要通信キャリアの現状

  • 通信事業は、公共性が高いことから他の事業と比べても強い規制がかかっており、その業態は国によって異なる特徴がある。
  • 米国は、世界で最初に電話が発明され特許申請された国であり、今日に至るまで一貫して民間企業により通信インフラの整備や運営が行われてきた。1984年にAT&Tが解体されるまでは同社の一強体制が長く続いたが、現在ではAT&T、Verizon Communications、T-Mobile US、Sprintの上位4社が主要事業者となっている。
  • 欧州では、通信サービスの普及段階では、インフラを整備するために通信事業の国有化が進められたが、1980年頃から国家の財政赤字と独占事業の弊害を解消するため、通信事業の民営化が進められた。欧州の経済共同体の枠組みの中で通信事業の完全自由化が進められたことで、複数の通信事業者が域内各国に進出し激しい競争市場が構築されている。
  • 日本では、いち早く欧米諸国に追いつくことが求められたため、当初から国が独占的にインフラの整備とサービスの提供を行った。1985年に電信電話事業が民営化された後、現在ではNTT、KDDI、ソフトバンクという3大キャリアが大部分を占める市場となっている。
  • 新興国では、先進国と同様に通信産業を国営企業や地場企業など自力で育成・普及させた国と、外資を誘致して資本やノウハウを導入し通信産業を育成した国に大きく分けられる。そのいずれにおいても、固定通信インフラの整備が進んでいなかったことで、既存の固定通信設備に縛られずに携帯電話に適した形のインフラ整備を進めている国が多い。

Ⅲ. 産業の潮流

  • 先進国企業は、新興国に成長の場を求めて進出したが、地場企業の台頭もあり、新興国市場でも競争環境は厳しくなってきている。そうしたなかでは、新興国市場におけるM&Aによる企業集約の動きや、規模を拡大した新興国企業が先進国企業を買収することで逆に先進国市場へ参入する動きも生じており、新興国発のビジネスモデルが先進国で展開される可能性もある。
  • 通信インフラ市場の成熟化により低成長が続くなか、通信キャリアは収益拡大のために従来の通信事業以外の事業へ参入しているが、そこでも大手IT企業との競合もあり既存の通信事業の低迷を補えてはいない。
  • 動画視聴の増加やIoTの浸透で予想されるデータトラフィックの拡大に対応するため、通信インフラ設備の整備資金をどのように捻出するのか、トラフィックの増加を収益化するためのビジネスモデルを構築できるかは、通信キャリアにとって大きな課題となる。
  • 通信キャリアは、通信インフラ設備の整備資金を確保するため、事業収益や金融機関からの調達に、金融技術を用いた通信インフラの金融商品化の手段を組み合わせて対応するともに、PPPを通じて政府と連携して整備を行っていくことが想定される。

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