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株式会社三井物産戦略研究所

世界の燃費規制の進展と自動車産業の対応

2017年3月15日


三井物産戦略研究所
産業調査第一室
西野浩介


Main Contents

要約

Ⅰ. 自動車を取り巻く環境の変化

  • 米国のシェール革命と中国の経済減速を主因として、原油の需給が緩んでガソリン価格が低位安定した結果、米国ではSUVなど大型車への志向が強まっている。
  • 気候変動枠組条約締約国会議での議論進展により、温暖化抑制に向けて世界各国が協力する機運が高まった。

Ⅱ. 各国・地域の燃費規制と対応状況

  • 2010年代に入ってから新興国でも燃費規制の導入が進み、世界市場の9割以上が規制の対象となった。燃費規制方法の主流はCAFE(企業平均燃費)規制である。
  • 欧州の2021年規制は世界で最も厳しく、2015年規制と比較して30%近くのCO2排出削減が求められている。2021年規制対応の進捗度は企業によって差が大きく、米国系、韓国系などで対応が遅れ気味である。
  • 米国の燃費規制の特徴は、乗用車と小型トラックの二つの分類があり、小型トラックの燃費規制は乗用車より緩いことである。米国でも、燃費規制への対応状況は企業によって大きく異なるが、特に欧州系企業が対応に苦労している。
  • 2025年までの米国の現行規制の2022年以降は未確定値であり、現在レビュー期間にあって、規制緩和を求める業界とトランプ新政権の下で見直される可能性がある。
  • カリフォルニア州をはじめとする10州が採用するZEV(Zero Emission Vehicle)規制は2017年後半から強化され、メーカーは一定以上のBEV(Battery Electric Vehicle)やPHEV(Plug-in Hybrid Electric Vehicle)などを販売することが義務付けられるため、各社は対応を迫られている。
  • 中国の燃費規制は2020年に向けて格段に厳しくなり、同年には日本とほぼ同じ水準にまで下げられる。特に中国系企業は大幅な燃費削減を迫られている。
  • 中国の新エネ車(BEV、PHEV、FCV:燃料電池車)導入促進の方針に基づいて、新エネ車を数多く生産・販売した企業には平均燃費計算上の優遇措置が行われている。

Ⅲ. 燃費規制強化への対応策と進展方向

  • 米国では2025年までの燃費規制への対応策として、中心になるものは既存の内燃機関改善技術であり、これにマイルドハイブリッドなど軽度の電動化技術を組み合わせたものとなる。BEV、PHEV、HEV(Hybrid Electric Vehicle)は主流にならない。ただし、欧州企業でBEV、PHEV、日本企業でHEVが一部普及する。
  • 中国では、既存の内燃機関技術の改善だけでは、2020年までの急激な燃費規制強化に対応できず、規制をクリアするためには、累計で400万台程度新エネ車を導入する必要が出てくる。これに呼応する形で中国版ZEV規制が2019年から導入されることが見込まれている。
  • 欧州では、フォルクスワーゲン(VW)の不正問題でディーゼル車への依存度を下げる必要が高まり、企業が電動化へのシフトを打ち出している。
  • 欧州での電動車両の普及状況は国によって異なるが、ノルウェーやオランダなど普及率の高い国では、税制や利用上の優遇など電動車両に対して手厚い導入促進政策が取られている。特にBEVは現状では経済性が見込めないため、欧州全体で本格的に普及させるためには、これらの国並みの導入策が必要になる。

まとめ

  • 燃費規制は世界的に導入が進んでおり、全体的、長期的には強化のトレンドにあるが、比較的緩やかな米国、新エネ車をてこに急激な改善を目指す中国、2021年以降さらに厳しくなる規制に対応するめどが立っていない欧州など、進展度合いや方向性は国や地域によって大きな違いがある。
  • これらの動きは、各国・地域における規制に対する社会的コンセンサスの有無や産業政策など固有の事情を反映したものであり、一つの方向に収れんすることはなさそうである。
  • 燃費規制に対応する企業には、トヨタ自動車を中心とするハイブリッド主体のグループと、VWなどBEV、PHEV技術の導入を進める欧州企業を中心とするグループの二つの流れが見られるが、いずれのグループにおいても、現在主力とする技術だけでは、2020年以降の燃費規制への対応シナリオは明確には見えていない。
  • 燃費規制を契機として、自動車の進化の方向性を考えることは、過去100年間大きく変わらなかった自動車の機能や役割を見つめ直す機会となる。

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