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2023.11.20

あらゆるペットボトルが
循環する
環境に良い社会をつくりたい。

ベーシックマテリアルズ本部 黄 哲浩
ベーシックマテリアルズ本部
黄 哲浩
Profile

三井物産に入社後、財務部で外国為替業務、金属資源本部でアルミ製品の事業投資業務に従事。その後中国駐在を経て、化学品セグメントのベーシックマテリアルズ本部クロールアルカリ事業部でガラス・洗剤原料であるアルカリ製品、ソーダ灰の全世界での拡販事業を担当。
2019年より、同本部ケミカル・リファイナリーインテグレーション事業部ポリエステル事業室に所属し、PET樹脂のグローバルな貿易・事業投資業務を担当する中で、岡山県津山市に建設中のペットボトルリサイクル工場、サーキュラーペット社の立ち上げ事業に取り組んでいる。

三井物産で取り組んでいることは?

三井物産のベーシックマテリアルズ本部という化学品セグメントの部署で、ペットボトルなどの原料となるPET樹脂関連の貿易・事業開発を担当しています。現在はペットボトルのリサイクル事業に力を入れており、岡山県でパートナー企業とリサイクルに特化した工場を建設中で、その立ち上げに奔走しています。この案件は2019年の異動直後から担当しているのですが、2024年の年明けに工場がテスト稼働を始めます。今はそれに向け、ペットボトルの原料となる廃ペットボトルの調達やリサイクルペット製品の販売、工場の円滑な立ち上げ支援などに日々取り組んでいます。

ペットボトルのリサイクル事業に取り組んでいる背景は?黄 哲浩

ペットボトルのリサイクル事業に取り組んでいる背景は?

2019年に、日本政府はプラスチック資源循環戦略を打ち出し、2022年にはプラスチック資源循環促進法が施行されました。この背景には、プラスチックの資源循環を加速し循環型社会への移行を促す中で、資源の枯渇に対応し、地球温暖化の主要因であるCO2排出を抑え、海洋ゴミ問題の解決を図る、という大きく3つの狙いがあります。それとほぼ時を同じくして複数の国内飲料メーカー大手が、大部分あるいは全てのペットボトルを2030年までに環境対応素材に切り替えると宣言しました。そのため、この頃からリサイクルPETの需要、そして業界全体での気運が一気に高まりました。
実は、一般には進んでいると思われているPETのリサイクルも、“bottle to bottle”(ペットボトルからペットボトルへのリサイクル)についてはまだまだです。プロジェクトを開始した2019年においては、年間で生産され廃棄されるペットボトル約60万トンのうち、ペットボトルへのリサイクルに利用されていたのは5~6万トンほど。しかもその大半が、リサイクルしやすい、きれいな家庭ごみ由来のものでした。
ところが、2030年までの素材切り替え目標を達成するには、現状の約10倍のペットボトルをリサイクルしなければなりません。このためには、日本国内に存在するほぼすべての廃ペットボトルをより有効に活用する必要があります。

新工場の特徴は?

回収されるペットボトルは大きく2つに分けられます。
国内で廃棄されるペットボトル年間60万トンのうち半分の30万トンは、キャップやラベルが取り除かれて、きれいに洗われています。これらは主に家庭から廃棄され、市町村によって回収されるため、市町村系とも呼ばれています。余計なものが含まれていないので、100トンの原料から80~90トンの新しいPETを作ることができます。
残りの30万トンは家庭以外から排出される、例えば会社や駅などの事業主が回収するもので、事業系と呼ばれています。これらのペットボトルは、キャップやラベル、そして容器内のタバコの吸い殻などPET以外のものも多く含まれているので、原料としては低グレードと位置付けられ、飲料ペットボトル用途へのリサイクルが難しく、従来はあまりリサイクルされてきませんでした。PET樹脂以外の異物が多く含まれているため、一般的に100トンの原料から50~60トン程しかリサイクルできないと言われています。
こうした中、リサイクルPETの需要増を背景に、三井物産として、循環型社会のさらなる促進のために低グレードの廃ペットボトルをリサイクルできる工場が必要であると確信し、そのような新しい工場を建設することになったのが今回の取り組みです。事業系の低グレード廃ペットボトルのみであっても、商用の飲料ペットボトル用途にリサイクル可能というコンセプトを持った、年間2万5,000トンの生産能力を持つ工場となる予定です。2019年当時、既存のリサイクル工場が関東に多く位置することを踏まえ、西日本の各需要地までの物流コストやそれに伴うCO2削減などを目指し、西日本の飲料各消費地にもアクセスが容易な岡山県津山市での建設となりました。
これまで全世界で廃ペットボトルのリサイクルに取り組んできた、フランスに本社のあるヴェオリア・ジャパンと、セブンプレミアムを含むオリジナル商品の容器を2050年までにすべて環境配慮型素材化したいという目標を持ったセブン&アイ・ホールディングスとの合弁事業として、株式会社サーキュラーペットを設立し、共に取り組んでいます。

低グレードのものをどのようにリサイクルするのか?

低グレードのペットボトルをリサイクルする際には、異物をどう取り除くかが重要です。キャップやラベルだけでなく、ときにはタバコなどが混入した状態から、パートナーであるヴェオリアの技術・ノウハウを活用して、風力や磁力、水中で異物の比重差などを利用し、ラベル・キャップ・その他異物を除去し、洗って砕いて、溶かし除染した上で粒状の樹脂にします。そして、このPET樹脂を飲料メーカーなどのお客様に納入し、それからペットボトルが作られ、飲料が充填され、リサイクルPET飲料として再度消費者の手へと戻っていきます。

このプロジェクトにおける難問とは?黄 哲浩

このプロジェクトにおける難問とは?

ペットボトル原料のPET樹脂のうち、環境配慮型素材と呼ばれるバイオ原料由来のバイオ材、および廃ペットボトルから再生されるリサイクル材は、石油由来のバージン材と呼ばれる既存の素材に比べるとコストが高いのが現状です。環境対応のビジネスにおいて、コストの議論はつきものですが、我々や取引先などの関係者にとって、このコスト、言い換えれば収益性とサステナビリティをどう両立させ続けていくのか、という点が大きな難問だと感じています。
今回の事業でも、事業系廃ペットボトルを100%利用する分、しっかりとした設備投資が必要になってきますし、日本国内での原料調達も一部は地産地消となっておらず、Value Chain全体を通して最適と呼べる状況にはまだ程遠い面もあります。しかし、企業としては収益性を担保しないと事業が続けられませんので、リサイクル材を含めた環境対応素材の供給価格を、どれだけ競争力を持ってお客様にお届けできるかがまずは問われています。また、原料を十分に調達できるか、さまざまなごみが混入していた事業系から飲料向けにも問題ない安全なペットボトルを確実に作れるか、といったチャレンジも残っています。ペットボトルは薄いため、ガラス片などの異物が混入すると、割れてしまう可能性が高まります。そういったものが消費者の手に届いてしまうと、せっかくリサイクルの気運が高まる中で、信頼を失い一気に普及が後退してしまうかもしれません。タイムリミットもある中、スピード感を持って、関係者と協働してコストの合理化や品質向上を図っていきたいと思います。

その難問を今後どう乗り越えていくか?

私たちは商社なので、本事業のバリューチェーンの上流から下流までをつぶさに俯瞰し、それぞれを合理化・効率化するような動き方・提案がしやすい立ち位置にいると認識しており、この部分にはしっかりと貢献していかなければなりません。顕在化している難問・課題もあれば、環境ビジネスは世界的な潮流も含め変化の早い業界でもあるため、未だ顕在化していない課題や新規のニーズもありますが、お客様含め関係者と二人三脚で共に悩み、考え、提案し、解決に繋げていけることは面白さとやりがいにも繋がっています。そしてその課題の解決に繋がる多様なファンクション、ソリューションが実は当社の中にあると改めて気づくことも多いです。

あなたの志は?黄 哲浩

あなたの志は?

私は、世界中で幅広い産業をカバーしている三井物産であれば、いろんなチャレンジができるだろうと考えて入社し、幸運なことに、これまで思い描いていたような仕事ができていると感じています。取引先やパートナーなど、社内外のご協力を得ながら知恵を絞り、社会課題の解決に貢献・繋がるような仕事に取り組むことは個人としてのやりがいに繋がっています。そしてその根本には、次の世代により良い世界をしっかりと残したいという思いがあります。親になったことで、この思いは自分自身のものとしてより強く感じられるようになりました。現在取り組んでいるこのビジネスを通じて、代替資源の確保、CO2の排出削減、海洋プラスチック問題の解決に資する循環型社会の形成を目指し、微力ながら貢献していきたいです。
当社含め、これまで属してきたさまざまなコミュニティや周囲の支えがあって現在の自分がいると感じており、そういったコミュニティや周囲の皆様、広く社会へなんらかの恩返しができれば嬉しいです。自分一人の力は小さくとも、それが集まると大きな力になります。一人では社会は変えられませんが、多くの人の力を借り協力することができれば、社会を動かすことも可能だと信じています。

今後の事業の展望は?

新工場は来年にはテスト稼働・本格稼働を迎えるので、まずは本事業の円滑な立上げに注力するとともに、国内外で同様のプロジェクトの検討も行いたいと考えています。それと並行して、本件のようなリサイクルに関する社会全体の気運・理解を高める活動も行っていきたいです。“bottle to bottle”を実現するためには、その必要性について一般消費者への認知度・理解度も高める必要があると感じています。
その一環として、例えば自治体や鉄道会社といったペットボトルの排出元とタイアップをして、排出されるペットボトルをサーキュラーペットの岡山工場に運ぶといった取り組みをすでに複数発表しています。このような取り組みを通じて、本取り組みに賛同して下さる企業や市町村の皆様と共に、社会に向けてしっかりと“bottle to bottle”の重要性をアピールし、循環型社会の促進を後押しできればと考えています。
大変ありがたいことに、当社では本事業を通じて国内外でさまざまな新規のお取引先ともご縁を頂いております。そうした皆様と本事業以外でも社会課題解決に資するような、新たな事業可能性も模索していきたいと思います。

(2023年11月現在)

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