大学・大学院時代は生命情報を専攻、ウイルス工学の研究に従事。2006年に三井物産へ入社後、化学品のトレーディング業務、プロジェクト本部の電力・インフラ系の事業投資を担当したのち、化学品セグメント全般での事業投資を担当。ロンドン、ドイツにおいて欧州での事業開発を担当した後、2021年よりベーシックマテリアルズ本部で次世代のエネルギーとして注目されつつあるアンモニアの事業開発に取り組んでいる。
現在は、アンモニアの新規事業開発を担当しています。アンモニアは、今まで肥料の原料や化学素材の原料として使われてきたのですが、脱炭素の観点から、最近では次世代のエネルギー、発電や船舶用の燃料としても注目されており、アンモニアのエネルギーとしての用途や、その生産事業の開発に携わっています。
アンモニアは窒素と水素からできている化学物質で、窒素は植物の生育に必要不可欠な成分です。そのため、世の中で生産されるアンモニア約2億トンの内、8割ほどが小麦や米などを含む農業全般で使われる窒素肥料の原料として使われています。
一方で、5年ほど前からアンモニアは次世代エネルギーとしても注目されはじめています。世の中で使われている燃料のほとんどが炭素を含んでいますが、アンモニアは分子の中に炭素(C)が入っていないため、二酸化炭素を全く排出しません。少し詳しくいうと、炭素(C)が燃えると空気中にある酸素と結合してCO2となり、二酸化炭素として排出されます。一方で、アンモニアの化学式はNH3で、燃焼して排出されるものがN2とH2O、つまり窒素と水なので、二酸化炭素が全く排出されないのです。
世界的に脱炭素がより重視されてきている中で、次世代のクリーンなエネルギーとしてのアンモニアの可能性に注目が集まっています。
アンモニアは、天然ガスから取り出される水素と、空気中の窒素を結びつけて作られます。天然ガスから水素を取り出す際、従来の方法ではCO2を排出します。一方で、そのCO2を回収して地中に貯留し、大気中に排出されないCCSと呼ばれるプロセスを経て取り出された水素を用いて製造されたアンモニアを「ブルーアンモニア」といい、従来型のアンモニア製造よりCO2の排出量を大きく削減できる特徴があります。ただ、ブルーアンモニアは開発段階にあり、現時点ではいまだ商業化にまでは至っていません。
グリーンアンモニアは、ブルーアンモニアと異なり、再生可能エネルギーを用いてCO2を排出しない方法で生成された水素を原料とするため、クリーンである点が特徴です。現在はコストが高いですが、将来的には再生可能エネルギーの普及に伴いコストは下がっていくだろうと言われています。
グリーンアンモニアの方がよりクリーンでサステナブルなエネルギーと言えるのですが、エネルギーとしてのアンモニアの実用化にたどり着くためには、グリーンアンモニアのみでは難しさがあるのも事実です。三井物産としても、ブルーアンモニアが必要という見通しを持って、その分野にも取り組んでいます。
アンモニアをいかにエネルギーとして実用化していくかが、今まさに私たちが直面している課題です。アンモニアの新規事業開発には変数が多く、数年先ですら見通しが立てにくい状況ですが、事業としては数十年先を見ていかねばなりません。既に長期にわたって成熟した領域であれば、ある程度は先が見える部分もありますが、これから市場が形成されていく分野ではそうはいきません。また、産業領域の境界線もなくなってきており、さまざまな領域の知識や経験を合わせて、将来を想像していかないといけない、という点にも難しさを感じます。
アンモニアは「未来のエネルギー」としての期待が大きい一方、元来アンモニアは化学品や肥料の原料であり、毒性もあって扱いが簡単ではない物質です。そのため、「アンモニアが本当に実用的なエネルギーとして普及するのか」という議論も並行して存在しており、可能性は信じつつも、チームとしてもアンモニアが今後、エネルギーとしていつどこでどれだけ普及していくかといった仮説を立て、検証しながら冷静に事業検討を進めています。
エネルギーとしてのアンモニア開発事業は、世の中で検討が始まった段階ですが、今後大きく広がることが予想されています。世の中全体が、脱炭素化へ向けて舵を切っている大きな変化の中で、「三井物産の強みを活かした三井物産らしい事業を創り出したい」「やるべきことをタイムリーにやっていかなければ取り残される」「さまざまな難しさはあっても、多様なバックグラウンドを持つ仲間や、事業パートナーと共に乗り越え、事業を着実に立ち上げていきたい」という想いを持ってチームで臨んでいます。新たなアンモニアバリューチェーンの構築にはさまざまな困難がありますが、そのハードルを乗り越えられるのかどうか、実現できるのかどうかにチャレンジしていく仕事は刺激的で面白さも感じながら、日々取り組んでいます。
クリーンエネルギーとしてのアンモニアの実用化を通して、「アンモニアからエネルギーの未来に革新を起こしたい」と思っています。脱炭素化の一つの目標地点である2050年について、以前は遠い未来という感覚でしたが、我が子が自分の年代くらいになる頃だと捉えると、非常にリアリティを持って捉えることができました。彼らがまさに働き盛りになる年代に、「お父さんは当時の先駆け的な事業として、未来に貢献する仕事に携わっていたのだ」と思ってもらえるとうれしいです。そう思うと、仕事へのモチベーションもまた違った形で生まれてきますし、今携わっている事業が、ゆくゆくは社会のため、次の世代の人々の暮らしのために役立つ成果に結びついてほしいという想いがより一層強くなります。
さまざまな次世代の燃料が検討されている中で、アンモニアには非常に大きな期待と未来があると考えています。アンモニアの次世代エネルギーとしての実用化と、それによる未来のエネルギーの革新をなんとかして実現したいです。扱いが難しかったからこそ燃料として実用化されてこなかったアンモニアですが、将来の燃料として世の中からの期待も大きいので、克服しなくてはいけない課題をしっかりと見据えて今後も取り組んでいきたいと思っています。
(2023年1月現在)
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