
太陽光や風力など、再生可能エネルギーの普及が進む一方で、その拡大には「発電量が変動する」という課題があります。それを補う役割として期待されているのが「蓄電池」です。日本の電力システムを変える可能性を秘めた蓄電池の役割と、普及における課題について、自然エネルギー財団主席研究員の工藤美香氏に解説してもらいました。
東日本大震災以降、日本では太陽光発電を中心に再生可能エネルギーの導入が進んでいますが、さらなる普及のためには、大きな課題があります。それは、天候に左右される供給の変動性です。太陽光発電は夜間に発電できませんし、曇りや雨の日には発電量が落ち込みます。また、将来性を期待される風力発電も風が吹かなければ発電できません。そうした変動に対応するために普及が期待されているのが、蓄電池です。
蓄電池は「二次電池」とも呼ばれ、充電と放電を繰り返し行うことができる電池です。鉛蓄電池やニッケル水素電池が古くから使われていましたが、現在の主流は、エネルギー密度が非常に高く、小型・軽量で大容量の電力を蓄えることができるリチウムイオン電池です。身近なところでは、スマートフォンやノートパソコン、電気自動車(EV)にも利用されています。それが今、電力インフラを支えるカギになっていると、自然エネルギー財団主席研究員の工藤美香氏が解説します。
「電気は発電量と使用量のバランスが常に保たれていなければ、安定して送り続けることができません。このバランスが大きく崩れると、最悪の場合、大規模停電(ブラックアウト)につながる恐れがあります。その課題を補う重要な技術の1つが蓄電池です。発電量が多くて需給バランスが崩れてしまう場合、発電を抑制しなければなりません。しかし、それではせっかく生み出した電力を無駄にしてしまいます。そこで余剰電力を蓄電池に貯めておき、発電量が不足する時間帯に放電することで、再エネを無駄なく有効活用できるようになります」
発電所でつくられた電気を、送電線・変電所・配電線などを通じて、一般家庭や企業といった需要家に届ける電力ネットワークを「電力系統」と言います。蓄電池には、その電力系統を安定させる調整力としての役割も期待されています。
「たとえば大規模な発電所が突然停止すると、需給バランスが崩れることで電力の周波数が乱れ、系統全体が一気に不安定になるリスクがあります。現在は主に火力発電がこうした緊急時のバックアップ機能を担っていますが、今後は大型蓄電池がその役割を代替することが期待されています」(工藤氏)
蓄電池は、脱炭素を支えるだけでなく、電力系統を安定させる役割も担うのです。工藤氏によると、蓄電池が普及し始めたのはここ数年のことです。
「中国が国を挙げて推進してきたEVの普及でリチウムイオン電池の低コスト化が進んだことで、2010年代後半から、世界中で電力系統をはじめとするインフラでの利用が広がっていきました」
そうした世界的潮流を受け、近年は日本でも導入が進んでいます。蓄電池は、発電設備に併設されることもありますが、近年は発電設備とは独立した「系統用蓄電所」を専業事業者が運営するケースが増えています。収益モデルはいくつかありますが、代表的な市場は「需給調整市場」、そして「容量市場」も収益源になると工藤氏は説明します。
「最も大きいのは需給調整市場で、電力の周波数を安定させるために、必要に応じて蓄電池が瞬時に充放電を行い、電力系統のバランスを整える役割をはたします。主な顧客は、送配電網を管理する一般送配電事業者です。容量市場は、将来必要となる供給力を小売事業者があらかじめ確保するための市場で、電力広域的運営推進機関(OCCTO)によって運営されています。電力の安定供給を社会全体で支えるための仕組みです」
こうした仕組み以外に、近年は相対取引も見られると工藤は言います。
「小売事業者や発電事業者が、ピーク需要時に蓄電池から電力供給を受ける電力購入契約(PPA)のような仕組みもあります。最近では、中部電力ミライズが台湾系の星星電力日本と電力受給契約を締結したことが話題になりました。同社は、中部エリアの5カ所に系統用蓄電所を設置し、需要ピーク時間帯に電力を供給するそうです」
再生可能エネルギーによる電力インフラを支えるのは、事業者だけではありません。一般家庭でも貢献が可能です。その仕組みが「仮想発電所(VPP)」で、一般家庭の太陽光発電設備や蓄電池、EVなどをIoTで統合し、ひとつの発電所のように機能させます。
「こうした設備は、1つひとつの規模が小さいため、単体で市場に参入するのは容易ではありません。しかし、アグリゲーターが多数の設備を束ねて制御すれば、1つの大きな発電所や蓄電所のように機能させることができる。これがVPPの考え方です。分散したエネルギー資源を統合する仕組みとして、今後導入が増えていくでしょう」(工藤氏)
世界の系統用および自然エネルギー併設型蓄電池の導入量と事業費用の推移

出典:IRENA(2024:145)を基に自然エネルギー財団作成
発電設備や蓄電池を電力系統につなぐには、事前に「接続検討」と呼ばれる申請手続きが必要です。これは、一般送配電事業者に対して接続可否・接続条件・工事費用の概算を確認するための手続きであり、その件数は急増しています。2023年1月時点で約8.8GWだった接続検討受付は、2025年12月時点では約172GWまで拡大しています。ただし、接続検討を申し込んだ案件がすべて事業化されるわけではないと工藤氏は言います。
「2025年12月現在のデータによると、足元で実際に契約申し込みまで進んでいる容量は約30GW程度で、その先の着工・運転開始に至る案件はさらに絞られます。導入済みの系統用蓄電池の規模は約0.6GW程度で、大型原子力発電所1基分の出力にも満たない規模です」
つまり、計画や構想は急増しているものの、本格的な社会実装はまだ始まったばかりの段階にあるのです。では、なぜこれほど大きな開きがあるのでしょうか。背景にあるのは、送電網への接続を待つ案件の滞留です。
「現在は接続検討の申請が急増し、市場は過熱状態にあります。かつてFIT(固定価格買取制度)の高額買取期に太陽光発電の案件が一気に膨らんだ時と同様に、実現可能性が低い投機的な案件まで数多く参入していることが背景にあります。投機的な案件を抑制し、実現性の高い案件へと絞り込んでいくことが必要です」(工藤氏)
「市場のあり方」も課題だと工藤氏は指摘します。
「政府の補助金もあり、いわば“蓄電池バブル”のような状況が生まれています。その過熱を抑えるため、需給調整市場の落札上限価格の引き下げや調達量の縮小といった政策も議論されていますが、制度変更が急すぎると、蓄電池に関する今後の方針が見えにくくなり、投資を冷え込ませかねません。投資の促進と過熱の抑制とのバランスをどう取るかが重要です」
加えて、日本の卸電力市場では、海外に比べて価格変動の幅が比較的小さいことも課題だといいます。
「蓄電池ビジネスの大きな収益源の1つは、電気料金が安い時に充電し、高い時に放電する『アービトラージ(価格差取引)』ですが、日本では価格差が小さいため、その収益機会が限られています。今後、ネガティブプライス(電気が余って価格がマイナスになる状態)も含め、価格差がより明確に表れる市場設計が進めば、蓄電池が市場メカニズムの中で自然に需給調整を担う環境が整っていくでしょう」(工藤氏)
系統用蓄電池の継続検討受付と継続契約の出力容量

注:接続契約は全国合計
出典:資源エネルギー庁(2023)(2024)(2025)を基に自然エネルギー財団作成
さらなる普及を進めるためには、蓄電池の価格も課題だと工藤氏は言います。世界的に見ると、蓄電池の価格競争力を持っているのは中国メーカーですが、国は、経済安全保障の観点などから、蓄電池の生産国の多様化や国内サプライチェーンで製造される蓄電池の利用を後押しする施策を打ち出しています。
「『価格競争力の差は圧倒的で、日本製が対抗するのは容易でない』という声も聞かれます。そうだとすると、日本製を採用した場合には、その分コストが上昇する可能性は避けられません。そのコストを社会としてどう受け入れるのか、また国内産業をどう育成していくのか、地に足のついた議論が求められます」(工藤氏)
一過性のブームで終わらせないためにも、蓄電池の普及を促す制度設計が求められると工藤氏は提言します。
「近年、蓄電池の価格は大きく低下しており、導入のハードルは着実に下がっています。そのため、蓄電池を活用することで電気料金を抑えられる、あるいは収益を得られるといった料金体系や制度設計が整えば、市場への導入は一気に加速する可能性があります。こうして市場そのものが拡大すれば、日本の蓄電池メーカーにとっても追い風になります。需要が広がれば、生産拡大や技術開発への投資が進み、国内産業の競争力向上にもつながるはずです」
蓄電池の普及は、日本の電力システムを変える可能性を秘めています。再生可能エネルギーを主力電源へ押し上げるためにも、その存在感が今後ますます高まっていくことを期待したいところです。
工藤美香|くどう みか

自然エネルギー財団主席研究員、弁護士。日本弁護士連合会司法改革調査室などを経て、2016年より自然エネルギー財団に参画。電力システム改革や電力系統整備に関する政策・制度の調査研究に従事。2020年から2024年まで洋上風力を中心に取り組み、入札制度や規制に関する調査研究を行う。2025年からは系統用蓄電池に注目した調査研究を実施している。同財団は、ソフトバンクグループ(SBG)の孫正義会長兼社長が2011年に設立した。
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#蓄電池