都会の子どもたちが、山あいの村で1年間、自然と文化を体験する山村留学。この暮らしの学校「だいだらぼっち」と呼ばれる取り組みがスタートしたのは1986年のことだった。学びの場となった長野県下伊那郡泰阜(やすおか)村は、村を通過する国道もなく、信号機もないという過疎の村。「よそ者がこんな村に来て、一体何をするつもりだ」と、不審がられたという。
「『だいだらぼっち』とは、母屋を建てたときに民話の大男の名前からつけた屋号。子どもたちは村の小中学校に通いながら、自給自足の暮らしを仲間と協力しながら行います」と話すのは、グリーンウッド自然体験教育センターで代表理事を務める辻英之さん。辻さんは、教師を目指していた大学生の時に見学に訪れ、卒業後すぐに泰阜村へ。「学校の教師になるよりも、こっちのほうが面白かった。ダイナミックな暮らしの中で学び育つことこそが、これからの時代を担う子どもたちに必要なのではと思ったんです」。
©Natsuki Yasuda
五右衛門風呂の薪割りをする子どもたち。お風呂を沸かすのも、食事の支度や掃除、洗濯なども自分たちで行う。
「だいだらぼっち」をはじめ、夏や冬に開催するキャンプで泰阜村を訪れた子どもたちは、この30年間で20,000人以上。当初はわずか3名しかいなかったスタッフも、今では20名近くになった。「村に根差して活動をする中で、村の人たちとの関係も変わっていきました。『この村には何もない』と思って暮らしていたのに、都会からきた子どもたちが『星が見える』とか『水が透き通ってるね』って言うわけです。『当たり前だと思っていたけれど、泰阜村の良さを子どもたちに教わった』と、村の人たちが協力してくれるようになったんです」。
自らの魅力を再発見した村人たちは、農作業や炭焼きといった生活の知恵を、子どもたちに積極的に教えてくれるようになった。さらに2002年には泰阜村に暮らす地元の子どもたちの教育を充実させようと、「あんじゃね自然学校」がグリーンウッドの敷地内に設立された。「『あんじゃね』とは、『案ずることはない』すなわち『大丈夫だ』という意味を持つ、南信州の方言で、私たちの目指すビジョンでもあります。これからも村の人たちと共に、『あんじゃね』な社会を作っていきたいと思います」。
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【助成案件名】へき地山村の暮らしに内在する環境保全に資する教育力を可視化するエコプロジェクト 【助成期間】2010年4月~2011年3月(1年)