三井物産に入社後、人事部で2年半採用活動に従事。その後パフォーマンスマテリアルズ事業本部で機能材料事業部ポリオレフィン事業室に配属され、プラスチック樹脂の取り扱いや包材事業を担当。シンガポールに3年半駐在し、高機能プラスチック樹脂の販売や製造事業会社の事業管理、新規DX事業の立上を経験。現在は先端事業部EMS事業室で製造受託事業に携わる。
パフォーマンスマテリアルズ事業本部の先端事業部EMS事業室で、製造受託事業(Electronics Manufacturing Services 以下、EMS事業)に携わっています。EMS事業とは、お客様の製造プロセスの一部を受託し、製造パートナーと共に担う事業のことです。三井物産は原料や部品の調達・物流、在庫・生産管理、ファイナンスの支援等を行い、製造パートナーで組み立てられた完成品をお客様に納品するまでの一連のプロセスを担います。お客様は技術開発を担い、三井物産は部材及び完成品の物流・生産管理等を担い、製造パートナーは完成品の製造・組立に特化した三位一体による体制です。これは従来の商社でイメージされる、原料を調達して納めるといった単一物流事業とは異なる新しいビジネスモデルです。
現在、私は日本を代表する素材メーカーと共に、アクティブ・オプティカル・ケーブル(AOC)の開発に取り組んでいます。AOCは、電気信号を光に変換して伝送するケーブルで、従来の電気ケーブルよりも、長距離・大容量の通信を可能にする世界初の製品です。
通常の三井物産のEMS事業では、お客様で策定された製造プロセスをもとに完成品を製造します。一方で、AOC開発案件では、新たに技術パートナーを招聘し、試作・開発から携わり、お客様と共にまだ世の中にない新製品の量産プロセスを創り上げ、コスト・スケジュールも管理しながら量産を目指しており、三井物産においても初の取り組みです。
2002年に、お客様から「自社の事業を切り出し、他社の同事業と統合して新会社を作りたいと考えているのだが、当社は製品・技術開発に特化したいと考えている。そのため、製造プロセスを外注したいと考えているのだが、三井物産にて工程の一部管理をお願いできないか」と相談を受けたことがきっかけでした。当時、商社が製造リスクを負うことへの社内からの懸念の声は強かったと聞いています。しかし「お客様のお困りごとに応えないのはおかしいのではないか」という現場の一担当者の強い想いが事業化を後押ししました。その後、EMS事業は大きな収益を上げる事業の一つに成長し、海外展開も果たしています。この「お客様の困りごとに応える」姿勢は、いまだに受け継がれています。
EMS事業の面白さは、お客様との距離の近さにあります。通常の物流事業では調達部門との関わりが中心ですが、EMS事業では品質管理や生産技術等、様々な部門の方々と日々密にコミュニケーションを取る必要があります。本気で向き合って、一心同体で仕事をできる時間や経験は非常に貴重で、自分自身を磨き続けることにつながっています。
AOCは、従来のケーブルとは異なる特徴を持っています。「光ファイバーケーブル」はすでに世の中に多くありますが、大型装置で電気を光に変換し、光データを光ファイバーに通して伝送します。一方で、AOCはケーブル内で電気信号を光に変えて高速で伝送することを実現できます。
通常の電線ケーブルだと3mほどでノイズが発生するのですが、AOCでは5m、10mという長距離伝送が可能です。さらに、軽量で柔軟性が高く丈夫で、充電や大量のデータ伝送、映像出力等複数の機能を1本で実現できます。これにより、例えばVRゴーグルに使用する際に本体の重量を半分以下に抑えることができ、長時間の使用を可能にします。また、医療現場では、VRゴーグルを用いた高精度な手術・治療支援にも活用できます。さらに、将来的には一般家庭の配線をこのケーブルに置き換えることで、より快適な情報環境や空間デザインを実現することも可能です。
お客様が研究開発を進めていた特殊な光ファイバーを使用し、「これからの光化社会を支える自社製品を作りたい。一方で初めての取り組みとなるため、三井物産に製造を支援してもらうことができないか」と相談を受け、新製品の開発から量産化を担うプロジェクトが始まりました。
私がプロジェクトに参加した時は開始から1年が経過していましたが、従来の開発計画は大幅に遅れていました。製造現場は中国にあったのですが、コロナ禍で人の往来が制限され、現地の製造パートナーと日本にいるお客様が直接対面でコミュニケーションすることが一切できない、非常に厳しい状況でした。そのような状況で、試作を繰り返すも成功せず、製造現場には疲労感が蓄積し、お客様の中でも「本当に完成品を作れるのか、三井物産をパートナーに選んでよかったのか」との声が出始めていました。私としても、このままでは空中分解してしまうのではないかと思うほどでした。
この状況を打開するため、発生しているすべての事象に対して「なぜ起きているのか」を徹底的に追求しました。製造現場で何が起きているのか、どのようなきっかけで試作不良が生じるのか。あらゆるコミュニケーションすべての窓口となって全関係者の話を聞き、自分自身が納得して説明できるまで理解を深めることに取り組みました。そうしているうちに、中国の製造パートナーから「この製造条件でどうしても試作をしたい」と強い提案を受けました。それまではお客様から受託した内容に従って試作を実行するだけの製造パートナーでしたが、現場だからこそ肌で感じながら分かることがあったのだろうと思います。何とかして良品を獲得したいという強い当事者意識から、初めて主体的に声をあげてくれました。その提案を受けて試作したところ、試作・開発に取り組んで初めて良品を獲得することに成功しました。「機能検査合格です!」とお客様に伝えると、涙を流して喜ばれました。
良品の完成と量産化のプロセス構築はまた異なる問題なので、その後は量産化のプロセス構築にも四苦八苦しましたが、成功すると開発本部内にあったお客様のチームは、正式に事業部への移管が決まりました。最適な製造条件や製造プロセスを見つけられて、お客様に価値として提供できたことが本当に嬉しかったです。
私には、AOCの良品を完成させたいということだけでなく、お客様の会社や事業を良くしていきたいという想いがあります。製造現場とお客様それぞれの人間性や、熱量、現場でしか知り得ない状況を把握しながら、どうコミュニケーションをするとスムーズに進むのかなどを意識していました。
自分が出せるものを出しきって完全燃焼する気持ちで、すべてに臨むことです。大学在学中に、幼少期からの興味である「サメ」を軸に、北海道在住の研究者や水族館の館長、フカヒレメーカーの社長等に話を聞きに行き、水族館での展示企画につなげるなど、好きなものに夢中で打ち込むことで、思いがけないご縁に恵まれました。高校時代のくすぶっていた不完全燃焼な自分を乗り越えて、完全燃焼する経験を積み重ねた原体験です。
三井物産でも日々、人と人とのつながりの大切さを実感しています。人や商品の新しい可能性を引き出す体験をして、一人では見られない景色を見てきました。商社は自社で商品を製造しているわけではないからこそ、お客様や製造パートナーに寄り添うには想いが重要だと考えています。これからも、強い想いを大切にして、人と向き合っていきたいです。まずは自分が燃え尽きるまでやりきって、次に周りにくすぶっている人がいたら、一緒に燃えていきたい。「この人とこの人が組み合わさることで、こんな刺激やシナジーが生まれる」という瞬間をこれからも三井物産で見続けていきたいです。どの仕事でも、私自身が一番楽しんでいます。
AOCは私にとってかけがえのない子どものようにも感じており、「絶対立派に育てる!」と思っています。日本が強みとしている、ものづくりの最前線で、まだ世の中にないものや、人々の生活を改善していくようなものを生み出し、貢献していきたいです。AIが台頭する時代だからこそ、人としての感性や考えを大切にし、三井物産の一人ひとりが興味関心を表現し、発信することが重要だと感じています。そうすることで、お客様と更に新しい挑戦ができて、新たなビジネスが生まれていくのではないでしょうか。
(2025年2月現在)
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