三井物産入社後、エネルギー第二本部に配属。中東のLNG事業を担当し、2023年から中東三井物産 アブダビ事務所に駐在。アブダビ国営石油会社とのLNG案件及び次世代エネルギー事業としてクリーンアンモニアの案件を担当。50年以上の歴史を持つアブダビ国営石油会社との関係を更に深め、新たなエネルギープロジェクトの創出に取り組んでいる。
中東三井物産 アブダビ事務所にて、アブダビ国営石油会社と共に、2つのエネルギープロジェクトに取り組んでいます。1つは2028年の操業開始を目指す新規LNG事業、もう1つは次世代エネルギーとしてのクリーンアンモニア事業です。アラブ首長国連邦(UAE)の首都にあるアブダビ事務所は、社員総勢11名の小さな組織ですが、現地事務所として最前線で三井物産本店の窓口としての機能を担っています。日々パートナー企業との対話や情報収集を通じて、事業の推進や案件管理、新たなプロジェクト創出などに取り組んでいます。
これらのプロジェクトの背景には、三井物産とアブダビが築いてきた50年以上の信頼関係があります。三井物産のアブダビでの活動は1973年に始まり、UAEにおいて初のLNG案件への参画以来、半世紀にわたって関係を築いてきました。
私たちが目指すのは、相手が困ったり、相談したい際に最初に連絡してもらえる存在になることです。アブダビという地で、先輩方が長年積み重ねてきた信頼関係を感じる現場の最前線に立てていることを、誇りに思っています。
LNGは、天然ガスを−162℃まで冷却し液化させた「液化天然ガス」です。世界のエネルギー需要が高まる中、気候変動問題への取り組みを進めるにあたって、よりクリーンなエネルギーの安定供給ニーズが高まっています。三井物産は、1970年代にアブダビLNGプロジェクトに参画して以来、LNGの生産、輸送、マーケティングまで幅広く関わってきました。
三井物産は貿易と事業投資を行う会社で、エネルギー専業の企業ではありません。にもかかわらず、エネルギーのメジャー企業と肩を並べて、同等若しくは同等以上のシェアを持って参画できているのは、長年にわたり築いてきた信頼関係があってこそだと思います。これまでに築いてきた関係を活かし、LNG事業の更なる競争力強化を目指しています。
アブダビにはご縁があり、実は出生地もアブダビなんです。一度日本に戻り、小学校3年生の時に再びアブダビへ行きました。当時は英語への抵抗感が強く、シャイな性格だったことから、同級生が3人の日本人学校へ入学し、中学1年生頃まで過ごしました。
また、校外活動にも取り組み、習い事を通じて、現地の人々や様々な国籍の子どもたちと交流する中で、自己主張の重要性を学びました。「あなたはどうしたい?」と聞かれた時に、発言しかねていると「あなたは意見のない人なのね」と判断され、相手にされなくなってしまうため、自分の気持ちや感情を大切にして表現するよう心がけました。この経験が現在の仕事に大きな意味を持つことになります。
転居したばかりの頃は戸惑うことも多かったですが、住んでいるうちに気づいたことがありました。それはアブダビのみなさんは女性や子どもへの対応が温かく、市場で買い物をすればお菓子やフルーツをおまけでくれるなど、英語が話せない私にもとても優しく接してくれたことです。子どもながらに、そうした国民性には影響を受けました。
帰国時にはすっかりアブダビに順応し、親しい友人や先生もたくさんいたので、日本に戻るときは、号泣の別れでした(笑)。この期間に培った学びや経験は現在のビジネスの場面でも活きていますし、「いつかアブダビで現地の人と仕事がしたい」と思うきっかけとなりました。
気候も匂いも音も日本とは全部違うので、生活をしているだけでも刺激的ですが、仕事をする上で最も面白いのはアブダビならではの商習慣や人間関係の深さです。ムスリムの方が多いので、例えば「インシャ・アッラー(神が望むなら)」という言葉が、約束を交わした後によく使われます。その真意を理解するには時間がかかりますが、足を運んで顔を見せれば見せるほど、相手も心を開いてくれる。困ったことがあれば親身になって相談に乗ってくれたり、社内での説明のしやすさまで考えてアドバイスをくれたり。そうしたウェットな関係を築いていけることが、この地で仕事をする醍醐味です。
また、アブダビの特筆すべき点として、女性の社会進出が挙げられます。国営石油会社の従業員の約50%は女性であり、事業会社でも女性社長が活躍しています。就業と家庭の両立支援が制度化されており、働きながら母親としても輝いているロールモデルが身近にいることに刺激を受けています。
大変な点としては、先述したように周りはエネルギーに関する専門知識や専門人材を多く抱えるエネルギーのメジャー企業ばかりの環境なため、やはり責任も感じます。私たちは現地に根を張っていますが、現地の社員だけで作り上げられるものはほとんどありません。常に本店のチームと目線を合わせ、二人三脚で進めていくのが三井物産の方針です。現場では私が三井物産の顔として話をする以上、一つひとつの発言に責任が伴います。会議での最初の1秒は今でも緊張しますが、真剣に耳を傾けてくださる方々との仕事にやりがいを感じています。
私は「民間レベルでの信頼関係づくり」を目指しています。学生時代は、国際問題への関心から国連職員や外交官を目指していました。しかし次第に、民間レベルで相手と関係を築くことが、本当の意味での平和につながるのではないかと考えるようになりました。政府間では時として予期せぬ形で緊張関係に陥ることがありますが、民間レベルでの信頼関係は、そのような状況でも維持されることがあります。
その想いは、アブダビで現地の人と仕事をする機会が増えていけばいくほど、より強くなっています。例えば、新しいプロジェクトを立ち上げる際には、まずお互いが次の10年、50年でどんな世界を描いているのかを知ることから始めます。対話を重ね、共通の未来像を見出していく。そういった過程そのものが、信頼関係を築くことにつながっているのです。
アブダビを含む中東と日本は、エネルギーの安全保障の観点からも互いに必要不可欠で、切っても切れない関係です。それを支えているのは民間レベルでの継続的な信頼関係ではないかと考えています。必ずしもビジネスに限定される必要はなく、趣味を通してでもいいかもしれませんが、重要なのはお互いの国の人のことを理解し、仲の良い友達がいる、そんな関係を次世代に引き継いでいくこと。私自身はビジネスの現場にいるので、ビジネスの最前線から中東と日本の信頼関係を深めたいと、強く感じています。
次の50年に向けて、新たな事業の機会を探っています。脱炭素やGHG(温室効果ガス)削減、次世代燃料など、今後重要性を増す分野において、アブダビ国営石油会社との協業の可能性を模索しています。
私たちの強みは、総合商社としての幅広い知見とネットワークです。パートナー企業の関心に応じて、各本部と連携をとり、エネルギー分野に限らない多様な提案や支援が可能です。そうした総合力を全プロジェクトに活かせるのが、三井物産の価値だと思っています。アブダビ事務所のみならず、本店も交えて私たちができることは全力でやり、期待に応えていきたいです。
(2025年2月現在)
一覧に戻る