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富岡 英司

NOBORI
PHR事業開発部 市場開発課 課長代理

「AI×医療」— 最先端のテクノロジーを活用することで、富岡英司は生活者一人ひとりが自分の医療データをアプリで管理し、自らの健康と主体的に向き合える新しい時代をつくる。


生涯の医療データをすべてアプリで一括管理

私はいまNOBORIという会社で、新しい医療ビジネスに携わっています。病院やパートナーと共に、デジタルを活用してよりよい医療の仕組みを目指していく事業です。『PHR』― パーソナル・ヘルスケア・レコードと呼ばれるアプリサービスで、患者さんがあらゆる医療機関をまたがって、かつ生涯にわたって、自分の医療データを一括管理できる。そんな未来をつくっていきます。

2020年5月にリリースされたばかりのサービスですが、これが普及すれば、患者さんは全国どこの病院に行っても、カルテや検査結果、薬の処方、健診結果などを1つのアプリでまとめて管理できるようになり、いつでもどこでもスマホで見られるようになります。

誰もが自分で健康を管理し、納得できる医療サービスを選べるようになるための学びのきっかけになる。そんなサービスです。

このアプリを使って、患者さん一人ひとりにご自身の症状や、医療機関ごとの役割の差について十分ご理解いただく。その上で、症状に合わせて、最適な医療サービスをより主体的に選んでいただきたい、と考えています。

生涯の医療データをすべてアプリで一括管理

私は、日本の医療のクオリティは世界でもトップレベルだと思います。ただその一方で、患者さんが自ら主体的に医療と向き合い、自分の健康を自分でつくっていく意識は必ずしも高いとは言えないのではないでしょうか。PHRが広がることで、私たち生活者一人ひとりが医療の担い手としての意識を持つようになる。そんな社会をつくっていきたい。患者さん中心の新しい医療のカタチを、最先端のデジタル技術で支えていきたいと考えています。

PHRには、もちろん病院にとっても大きなメリットがあります。健診後の受診勧奨や、患者さんへの日々の保健指導など、病院と患者さんとのコミュニケーションをスムーズにし、距離を縮めることができます。

スマホアプリで診察受付ができる上に、診察順もスマホで確認可能に。待ち時間が有効に使えるようになります。医療費の後払いもできるようになるため、患者さんは診察を終えたら、会計を待たずすぐ帰れるようになります。病院で長時間待った経験は誰でもありますよね。あれが軽減されるわけです。

病院にとっても、患者さんにとっても、お役に立てると思います。

生涯の医療データをすべてアプリで一括管理

このように新たなビジネスに挑んでいるNOBORIですが、元々はネットワークビジネスを総合的に手がけるTechMatrixという会社の一事業部(医療システム事業部)でした。20年以上にわたって医療画像システムの領域をリードし、クラウドPACS(Picture Archiving and Communication Systems)と呼ばれる画像データ管理サービスでは実にシェア70%を誇るまでに。そして2018年、TechMatrixからスピンアウトしたのです。三井物産はその際に出資参画しました。

現在、NOBORIのPACSには延べ3,400万人、2億検査分もの医療データが蓄積されています。クラウド上で一括管理されている医療データとしてはおそらく世界最大規模であろうこのデータを、どうこれからの社会に役立てていくか。NOBORIは新たな可能性を追求しています。PHRもそのひとつです。

ゼロからの事業創造プロジェクト

私たち三井物産がNOBORIに出資参画するに至ったそもそものきっかけは、実は、社員の自主的な提案でした。

それは2017年のこと。現在は違う制度となっていますが、当時、三井物産には社員が通常の業務とは別にゼロから新たなビジネスを構想し、経営陣に対してプレゼンテーションできる制度があったんです。いわば事業創造プロジェクトです。

社員は、自薦でプロジェクトに参加。チームを組み、各人が自らのビジネスアイデアを発表します。そしてそれを全員であらゆる角度から検証し、評価を得たものを練り上げていくのです。私もそのメンバーでした。
日常業務はしっかりと務めながら、それとは別にゼロベースで事業開発を考えるわけですから体力的には大変です。しかし、それは熱気のこもった充実した時間でした。

私たちのチームが掲げたテーマは、「AI×医療」。社会的な意義の大きい分野で、最先端のテクノロジーを活かして価値を生み出したいと考え、この領域を選びました。リサーチしたところ、AIの特性として、自然言語処理より画像認識の方が力を発揮しやすいとわかりました。そこで、画像に特化したAIで今までにない医療ビジネスに挑戦しようと考えたのです。

ところが、AI関連の企業20社ほどにコンタクトしてもうまくいきません。AIそのものの技術はあっても、医療画像のデータがないというのです。そこでデータという側面からリサーチしたところ、医療画像の分野で圧倒的な実績を持つ存在として、NOBORIの母体であるTechMatrixが候補に上がったのです。TechMatrixは20年以上にわたって医療の現場でシステムを提供し続けており、ネットワークで直接つながっている医療機関は実に1000以上。その強みは頭抜けていました。

実を言えば、最初はTechMatrixに私たちのアプローチは断られたんです。しかし、どうしてもこのビジネスをやりたいという想いから粘り強く、いやしつこくですかね(笑)、交渉し、パートナーとして認めてもらいました。

「TechMatrix由来の技術ベースと三井物産の持つ知見・ネットワークをかけ合わせることで、お互いの可能性が広がるかもしれない」とNOBORIの依田社長に言っていただくことができました。ビジネスパートナーとの関係構築や、病院・自治体等への普及など、少しでも貢献したいと考えています。

事業アイデアを共に語り合ったメンバー5人からは、最終的に私だけが残り、NOBORIと一緒に医療の未来を目指していく形になりました。メンバー全員の想いを背負って、何としてもビジネスを成功させたいですね。

ゼロからの事業創造プロジェクト

患者さんと直接会い、話すことで学んだもの

実際に事業に関わってきた中で、特に心に残っていることですか。そうですね。PHRを病院に導入するにあたっては、患者さんへの説明に私も同席し、先生と一緒にサービスについてお話しさせていただくことがあるんですが、そこでとても印象的なことがありました。

お話した患者さんは、癌を3回経験されている方で。そういう方だからご自身の体のコンディションを常に意識されていて、さまざまなデータの意味するところを本当に深く理解してらっしゃるんですね。その方に「このサービスはとても意味のあるものだから、ぜひ広げてほしい」と言っていただけました。患者さんと言葉を交わしたことで、「一人ひとりが自分の医療の担い手になる」とはどういうことか具体的にイメージできた気がしました。

また病院スタッフの方の言葉にも、心に残るものが多いです。みなさん、とても強い想いを持ってらっしゃいますから。ある時など、「患者さんにデータを開示することって本当に大事なことなんだから、ほんと頑張ってよ!」と、激励を通り越して、半ば怒っているのかと思ってしまうくらい強い口調で言われたことがありました。それだけ大きな使命を担っているんだと、身が引き締まる思いがしました。

PHRは今までにないサービスですから、関係するすべての方にしっかりとご説明しながら一歩ずつ広げていく必要があります。しかし、私たちの進む先には、患者さんにとっても病院にとってもより良い医療の仕組みを実現できる、そんな未来が開けている。私はそう確信しています。

一人ひとりへ、世界へ、未来へ

これからの事業目標としては、まずはもちろんPHRを広めること。最初の目標として、1千万人の方々に使っていただきそのお役に立てるようになることを掲げています。
そしてサービスが社会に根付いたら、そのデータをフィードバックし、研究領域にも貢献していきたい。そう思っています。

もちろん個人情報が守られていることは大前提です。医療データはある意味究極の個人データですから、セキュリティ面での万全の体制が必要であることは言うまでもありません。その上で、そこがしっかり保護されていれば、自分のデータを新たな薬や治療法の研究・開発に役立ててほしいと言ってくださる方もたくさんいらっしゃるのではないかと考えています。

国のガイドラインはもちろん、個人情報保護法や医療研究の倫理指針にも従い、患者さんの同意を得た上で、データを二次的にも活用し、医療の高度化に貢献していきたい。それが私たちの目標です。

また私個人の目標としては、さらにその先に、最先端の医療ITを海外へ広げていきたいです。私は中学1年生から高校3年生まで6年間をタイで暮らし、大学時代には多くの時間をインドで過ごしました。そんな経験から、「世界中のすべての子どもたちが、学ぶことを楽しめる社会を実現したい」と考え三井物産に入りました。いま振り返ると非常に青くさく、ちょっと恥ずかしいですが、世界中の人の役に立つ仕事をしたいという気持ちは今も私の中にあります。

教育と医療では畑は違いますが、どちらも豊かな社会の根幹をなすものです。新しい医療の仕組みをつくることで世界に貢献できれば、三井物産に入った時の目標に少しでも近づけるかもしれない。そんなことを思っています。

2020年12月掲載