Main

株式会社三井物産戦略研究所

国内で注目を集める石炭火力でのバイオマス混焼の今後の見通し

2017年7月3日


三井物産戦略研究所
新産業・技術室
宇野博志、菊池雄介


Main Contents

国内では、近年、石炭火力発電における石炭・木質バイオマス混焼(以下バイオマス混焼)が注目を集めている。今までは、大型石炭火力発電でのわずかな混焼や小型石炭火力発電における混焼案件が中心だった。しかし、中部電力武豊火力発電所の事例のように、今後は、CO2削減目標の達成と固定価格買取制度(FIT)による収益改善を狙い、大手電力会社を中心に、大型石炭火力発電で混焼率を上げる取り組みの増加が想定される。本稿では、大型石炭火力発電におけるバイオマス混焼について、現状と今後の見通しについて論ずる。

背景:バイオマス混焼が担う役割への期待

国内の大型石炭火力発電におけるバイオマス混焼に期待が集まる背景としてまず指摘できるのは、CO2排出削減の必要性である。2017年6月1日に米トランプ大統領はパリ協定脱退を発表したが、各国首脳からの批判が相次ぐなど、パリ協定を維持する世界的なモメンタムは変わっていない。電力業界は「電気事業における低炭素社会実行計画」にて、2030年度に、国全体のCO2排出係数(単位電力量当たりのCO2排出量)0.37kgCO2/kWh(使用端1)を目標として掲げる。しかし、現状は原子力発電の再稼働が進まず、CO2を排出する火力発電への依存度が高いため、CO2排出係数は高止まりしている(図表1)。排出権は十分に活用できる状況になく、原子力発電は再稼働の見通しが不透明、太陽光発電や風力発電はコスト削減が進み今後も伸びが期待されるものの、送電線の容量不足やエリア全体での需給の不一致、出力が一定しない太陽光発電や風力発電への対応等、大規模普及に課題を残している。CO2回収・貯留2(Carbon dioxide Capture and Storage、以下CCS)も、商用展開にはまだ超えるべきハードルが多く、現段階では実用性は低い。すなわち、CO2削減に向けて取り得る選択肢は限られている状況だ。特に、原子力発電の先行きの不透明さは、同じベースロード電源である石炭火力発電へのニーズを増す結果となってしまっており、CO2削減の方向性と逆行している。何らかの取り組みを行わなければならない電気事業者にとって、バイオマス混焼はまず着手できる案件として重要な位置付けとなっている。
加えて、CO2削減に向けて、発電事業者は省エネ法、小売事業者はエネルギー供給構造高度化法(高度化法)の規制を受けている。省エネ法では、新設時の設備単位での効率基準および既設を含めた事業者単位の効率基準の達成を求めているが、バイオマスを混焼すると、投入したバイオマスのエネルギー量を、全体のエネルギー投入量から控除して計算した効率を使用できる。すなわち、混焼率を上げるほど計算上の効率は上昇、基準達成に寄与することとなる。高度化法では、2030年度に非化石電源3比率44%の達成を求めている。十分な非化石電源の供給が期待できないなかで、バイオマス混焼案件は非化石価値の供給源として小売事業者側からも期待される4。 収益性も重要な観点である。経産省が進める電力システム改革は発電分野の競争を強化する方向にあり、競争力の低い発電所を抱える発電事業者では、収益性の低下が見込まれる。ここで、FITの下でバイオマス混焼を行うと、混焼分は、20年間、固定価格(例えば、20,000kW以上の一般木材バイオマス案件5では、2017年10月以降で21円+税/kWh)で買い取られる。発電事業者にとっては、自社の大型石炭火力発電を活用し、安定的な収入を得られるビジネスとして位置付けられる。

大型石炭火力発電での高混焼率案件実現を支える技術

国内の大型石炭火力発電は微粉炭焚ボイラ6を採用しており、微粉炭機の石炭の粉砕能力7等の制約から、3%程度(熱量比)までしかバイオマスを混焼できないといわれてきた(図表2の青色部分)が、近年、その限界を超える技術が出てきている。例えば、IHIでは149MWの微粉炭焚発電設備で専用の微粉炭機およびバーナーの増設を行い、混焼率25%(熱量比)を達成した。原料面では、トレファクション(バイオマスを焙煎して半炭化)等により石炭性状に近づけたペレットである、ブラックペレットの開発が進んでいる。ブラックペレットの最大の特徴は、従来の石炭火力発電所にそのまま投入できる、すなわち、設備改造が不要な点である(図表3)。2010年代に入って欧米を中心に開発が始まり、Arbaflame、New Biomass Energy、Airex Energy、日本製紙などがプロセス開発と商業設備建設を進めている。高混焼率案件は環境影響評価法で定める環境アセスメントの対象外となる112.5MW未満の案件に集中しているが(図表2の黄色部分)、中には大型石炭火力発電と同じ微粉炭焚ボイラで高混焼率を目指す案件もあり8、こうした新技術の採用を検討していると推察される。先述のニーズを踏まえると、中部電力武豊火力発電所のように、今後、大型石炭火力発電でも高混焼率化の動きが出てくる可能性がある。

バイオマス混焼発電の将来的な在り姿

当面、国内ではバイオマス混焼発電への期待は高いと考えるが、一歩考えを進めて、中長期的な可能性にも触れたい。バイオマス発電は太陽光発電や風力発電と同じ再生可能エネルギーだが、太陽光発電や風力発電は燃料費がかからないのに対し、木質バイオマス発電では燃料費が総発電コスト(設備費含む)の7割程度を占める点が大きな違いとなる。この燃料費の高さは現状ではFITでカバーされているが、FIT期間が終了すると収益性は低下し、他の電源と比べてもコスト競争力はないため、維持が難しくなる可能性が高い。また、現状の制度では、バイオマス混焼や専焼は、長期固定電源(原子力発電、水力発電、地熱発電)や太陽光発電、風力発電よりも、先に出力制御の対象となる9。すなわち、将来的に原子力発電の再稼働が進み、また、太陽光発電や風力発電の発電量が増えると、出力抑制のリスクは高まる。
図表4は、2030年と2050年における、CO2削減と電力システムの在り姿を示したものである。2050年の世界では、太陽光発電や風力発電など、需要とは関係なく、天候によって出力が変動する電源が大量普及して、電力システム全体で需給バランスを保つことが難しくなり、需給バランスを保つための調整力(変化する需給状況に応じて発電機の出力を増減させる能力)に価値が生まれる可能性がある。太陽光発電や風力発電と異なり、バイオマス発電は出力調整が容易である。さらに調整力としての価値を高めるには、起動時間の短縮、負荷変化率向上、最低負荷の低減といった、運用の柔軟性向上に向けた技術開発が必要となろう。将来的には、水素や蓄電池のコストダウンが進み、低炭素な調整力として競合する可能性がある。また、環境省長期低炭素ビジョンで言及されているように、低炭素電源10が発電電力量の9割以上を占める世界になった場合、CCSが使えなければ、バイオマス混焼を続けることは難しくなり、専焼化を考える必要がある。もし国内でCCSが使えれば、バイオマス混焼だけでも低炭素電源になるが、専焼と組み合わせれば、CO2削減効果が大きいネガティブエミッション電源11にできる可能性もある。ただし、このような電源を活かすためには、CO2削減効果や低炭素な調整力を評価する制度、市場の確立が必要になる。

まとめ

国内では、当面、大型石炭火力発電でのバイオマス混焼案件は、CO2排出削減策、安定電源、収益源として有力な位置付けであり、増えていくだろう。しかし、中長期的には、CO2排出規制の強化、FITの終了、価格競争力の高い太陽光や風力の大量導入といった環境変化により、バイオマス混焼は厳しい状況に陥る可能性がある。その対策として、低炭素な調整力という新たな価値に着目し、バイオマス専焼化や運用の柔軟性向上といった技術開発に取り組むとともに、こうした電源の価値を評価する市場制度の設計を考えていくことが必要ではないだろうか。大型石炭火力発電での高混焼率化から専焼化に至る過程の技術開発や制度設計は、大型石炭火力発電を多く抱える新興国の未来のCO2削減対策としてもニーズがあるものと思われる。


  1. CO2排出量を需要家の使用電力量(販売電力量)で除した値。
  2. 発電設備の排気ガスからCO2を分離・回収し、地中へ貯留する技術。
  3. 再生可能エネルギー発電および原子力発電が該当。
  4. FITを適用する場合、環境価値は自社に帰属しない。2017年4月以降特定契約を締結するFIT電気は一般送配電事業者に買取義務がある。環境価値は切り離され費用負担調整機関に帰属、2017年度中に設立予定の非化石価値取引市場での売買が想定されている。
  5. 製材端材、輸入材、パーム椰子殻、もみ殻、稲わら等。
  6. 石炭を微粉炭機で細かい粒子状に粉砕して燃焼させる方式。
  7. 木質バイオマスは繊維質で石炭と比較して微粉化が困難であり、大量に投入すると安定的な燃焼を維持できない。
  8. 小型の高混焼率の案件や専焼案件においては、燃料の細かい粉砕が不要で、木質バイオマスの燃焼が容易な流動床ボイラを用いることが多い。
  9. 地域資源バイオマスは出力制御の対象外となる優遇措置あり。
  10. 環境省の長期低炭素ビジョンでは、低炭素電源を、再生可能エネルギー、CCS付き火力発電、原子力発電と定義。
  11. バイオマスは成長中に大気中のCO2を取り込んでいる。故に、そのバイオマスを燃焼させた際に発生するCO2についてCCSを行えば、大気からCO2を除去したことになり、CO2排出量はマイナスと評価される。こうした技術をネガティブエミッション技術と呼ぶ。

Information


レポート一覧に戻る