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株式会社三井物産戦略研究所

成長・多様化する中国のサービス産業ー高まるイノベーションへの期待ー

2017年6月26日


三井物産戦略研究所
産業調査第二室
酒井三千代


Main Contents

要約

Ⅰ. 中国のサービス産業の成長と背景

  • 中国のサービス産業は、経済成長と所得水準の拡大により成長している。インターネットの普及が進んだことや、外資の展開を制限するなどの政策的な後押しも、成長の背景にある。

Ⅱ. 市場と企業の成長

  • インターネットサービス:中国のインターネット利用者は7億3,125万人で、スマートフォンの利用者も増加しており、利用用途の多様化が進んでいる。代表的な企業は、時価総額上位のテンセント、アリババ、バイドゥであり、これら3社は、独自に先進的なビジネスモデルを構築しており、高い水準の技術力や経営力を有している。
  • レジャー・娯楽:ゲーム市場はオンラインを主とし、テンセントをはじめとした中国企業の成長とともに発展してきており、海外市場での収入も増加している。映画市場では、不動産系コングロマリット大連万達集団(ワンダ・グループ)などが国内外の映画分野での投資を加速している。テーマパーク・遊園地市場では、華僑城集団(OCT)傘下の施設への年間入場者総数が3千万人を超えているほか、大型テーマパークも増えている。動画や音楽の分野は、無料で視聴できる海賊版が横行していたことで、市場としての立ち上がりが遅いが、著作権保護の取り締まりが強化されていることと、インターネットサービス大手が有料配信事業を強化していることで今後の市場の成長が期待されている。
  • ホテル・外食:ホテル市場では、バジェットホテルチェーンが増えているほか、オンライン旅行代理店(OTA)大手の携程旅行網(Ctrip)や民泊大手の途家(Tujia)などが、勢力を拡大している。外食産業では、高級店が後退する一方で、地場のカジュアル業態のチェーンが成長している。レストラン予約やフードデリバリーアプリの利用者が増えており、飲食事業者の多様化が進んでいる。
  • 教育:高等教育への就学率の上昇とともに、新東方教育科技集団など補助学習、留学支援を行う事業者や、ベネッセなどの外資も含め、幼児への教育サービスを提供する事業者が成長している。さらに社会人を対象とした職業教育の分野でも成長が予測される。インターネットの活用の促進も見込まれ、ネットとリアル施設のサービスの融合が進む。

Ⅲ. 産業の潮流

  • 国内外のニーズの取り込みとさらなる成長への期待:サービス産業の市場は、都市部において先行的に拡大してきたが、企業は地方都市や農村向けサービスへと業容を拡大し始めている。近年中国経済の成長は鈍化しているが、中国のサービス産業の市場規模を人口1人当たりで見ると、いまだ低い水準にあり、サービス市場全般に拡大の余地がある。今後は、国内に加えて、国外の中国人向けサービス、さらには中国人以外にも中国発のコンテンツやサービスを提供していくことが期待される。
  • 中国発のイノベーションの台頭:サービス分野で成長している企業は、独自に先進的なビジネスモデルを構築しており、高い水準の技術力や経営力を有している。また、これらの企業の多くがスタートアップを支援するエコシステムも構築している。巨大な人口を有する中国で所得水準が向上したことで、企業が技術力や経営力を活かせる環境も整ってきており、中国企業発のイノベーションが増えてくることが予測される。
  • 先進国と異なる発展プロセスをたどる中国のサービス産業:近年、小売業や外食産業などにおいて、中小規模の事業者が実際の店舗を持たなくても、自社の製品やサービスを消費者に提供できるプラットフォームが構築されてきている。中国では地場で高いシェアを持つ有力なプレーヤーが成長する前に、プラットフォームが先行して成長しており、それらは業界全体の質や生産性の向上に際しても、大きな役割を担っている。巨大化するプラットフォームと、多数の中小事業者が共存共栄していくという点で、先進国とは産業の発展プロセスが異なっており、このプロセスのなかで先進国にはないビジネスモデルが生み出される可能性が高まっている。

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