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株式会社三井物産戦略研究所

円安下でも増えない日本の自動車輸出

2014年9月8日


三井物産戦略研究所
産業調査第一室
西野浩介


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円ドルレートは、2012年秋から円安傾向に向かい、2013年5月以降は1ドル100円前後で推移している。1年余り円安が続いたことで、自動車輸出が増加に転ずるとの見通しもあったが、リーマンショック前は60万台を超えることも珍しくなかった月間の輸出台数が、その後、50万台を超えたことは一度もない。2012年以降は漸減傾向が続いており、2014年に入ってからもその傾向は変わっていない。このままでは、月間輸出台数が30万台を切る可能性もある(図表1)。

変化した日本メーカーの生産・販売・輸出の構造

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なぜ、自動車輸出は減り続けているのだろうか。この理由を考えるために、リーマンショック前の需要拡大期から現在まで、約10年間の日本の自動車生産、国内販売、輸出との推移を見てみたい(図表2)。
国内販売台数は、途中に多少の増減はあるものの、10年前の水準を若干下回る水準にとどまっており、大きく動いてはいない。また、国内生産台数と輸出台数も、リーマンショック前の拡大期とその後の落ち込み、そこからの緩やかな回復という軌道をたどっているが、10年前と比べて大きく変わっていない。一方、海外生産はこの期間に800万台から1,600万台と倍増している。
総数で見ると大きな変化はないものの、国内生産と輸出の中身は大きく変わっている(図表3)。2006年から2007年にかけての円安期からリーマンショックが起きるまでの間、日本の自動車輸出は大きく伸びたが、この輸出増を牽引したのが普通乗用車(いわゆる3ナンバー車、全長4.7m、全幅1.7m、全高2.0m、排気量2,000ccのいずれかを超えるもの)だ。普通乗用車(以下普通車)は同時期に生産も大きく伸びており、増加分が輸出に回ったことを示している。一方、この時期に小型乗用車(小型車)の輸出は増えておらず、リーマンショック後は長期低落し、それに伴って国内生産台数も減っている。小型車の輸出台数は10年間で約3分の1になった。
輸出が減ったのは、海外生産が進展したことが大きい。図表4は、小型車の代表的な車種であるトヨタカローラについて、日本とそれ以外の地域ごとに、地域内の生産台数と販売台数の差を見たものである。グラフがプラス側に向いているのが、生産が販売より多い地域、マイナス側は逆で、上向きから下向きの地域に対して輸出が行われていることになる。ピークだった2008年には日本から40万台以上を世界各地域に輸出していたが、海外生産が進んだ2013年には、北米向け、アジア向けはほとんどなくなり、全体でも10万台程度に減っている。
もともと、比較的利幅の薄い小型車は、円高になると輸出採算が悪化しやすい。また、いわゆるボリュームゾーンに属するため、海外市場での販売台数がまとまりやすく、輸出から海外生産に移行するための条件が整いやすい。一方、国内では、軽自動車の販売が増えるのと対照的に、小型車の需要は減り続けており、国内市場が縮小すれば、日本国内で生産を続ける必要は薄れていく。自動車メーカーは、リーマンショック後の円高を契機に海外生産を加速させたが、その中心にあるのが小型車であった。
一方、普通車の国内生産は増加基調にあった。2003年には、小型車と普通車の国内生産の台数は、拮抗していたが、10年後の2013年には、約2.5倍に開いた。この間、小型車の国内販売台数が約4割減少したのに対し、普通車は倍増に近く、輸出も年間ベースで100万台近く増えた。その結果、日本の乗用車輸出に占める普通車の割合は88%と、大宗を占めるようになった。
総じて、日本国内では、軽自動車と普通車を生産して普通車を輸出し、小型車は海外で生産・販売するという構図に変化したといえるだろう(注:モデルチェンジをするたびに自動車が大型化する傾向があり、同じモデルでも小型車から普通車に移ることで、普通車の割合が増える傾向にある)。図表1で2011年の後半以降、輸出台数に比較して輸出金額が高く推移しているのは、小型車輸出が減り、輸出する車種の構成がより高価格な普通車にシフトしたことによるものと考えられる。

各社ごとに異なる輸出と現地生産の構成

海外生産で先陣を切っているのはホンダである。ホンダは、伝統的に「需要のあるところで生産する」ことを掲げ、生産の現地化を積極的に行ってきた。これが輸出台数減少の主因となっているが、加えて、国内と海外における主力車種が分かれていることが拍車をかけている。2013年に日本国内で販売台数が5万台を超えたのは、N-BOX、N-ONEなどの軽自動車、小型車フィット、ステップワゴン、フリードなどのミニバンである。このうち、海外市場でも国内同等以上に販売されているのは、フィットだけで、軽自動車は当然ながら、ステップワゴンも国内専用モデルに近い。一方、アコード、シビック、CR-Vといった世界各国で販売されるグローバルカーは、日本ではあまり売れなくなっている。アコードの国内最新モデルはハイブリッド車だけであり、シビックに至っては国内では販売も生産もされていない。このように、国内市場と海外市場で販売されている車種が重ならなくなっている状況で、需要地での生産を進めた結果、日本と海外で生産する車種が分かれ、為替レートがどういう水準にあるかにかかわらず、輸出すべき車が極端に減っている。2014年に入ってからは、米州向けフィットの生産がメキシコに移されたことにより、もともと少なかったホンダの四輪車輸出台数は、直近は月間で2千~3千台で推移している。日本から輸出しているのはAcuraブランドの高級車など一部にすぎない。
トヨタ自動車は日本からの自動車輸出の約4割を占めており、同社の戦略が日本の自動車輸出に与える影響は極めて大きい。同社は国内生産300万台体制の維持を掲げており、国内市場で成長が期待できない現状においては、輸出を一定数維持しなければならない。とはいえ、同社は、今後も海外市場向けのカローラやレクサスの売れ筋車種の海外生産移管を計画しており、当面は、ハイブリッド車や高級車が輸出を牽引するものの、中長期的に見て国内生産を上押しする要因には乏しい。
現状、輸出比率が高く、輸出台数も多いのはマツダや富士重工業など、海外生産を小規模にしか行っておらず、四輪駆動車やSUVなどで特徴のある車種を得意とする企業が中心である。これらの企業は、円安下の輸出メリットを最大限に享受して業績を上げている。ただ、これらの企業でも、例えばマツダが小型車の生産をメキシコに移管する準備を行っているなど、海外生産への移行が徐々に進んでいるのが現状である。

それでも変わらない海外生産拡大への流れ

このように、各社それぞれに状況や方針に違いが見られるものの、生産の現地化が拡大する趨勢は変わっていない。その背後には、日本の自動車産業が置かれた状況と、自動車メーカーに共通する基本的な考え方がある。
2013年の日本の自動車市場は世界市場の6%を占めるにすぎない一方、日本の自動車メーカーの世界市場におけるシェアはおよそ30%である。日本市場における日本メーカーのシェアが100%と仮定しても、残りの24ポイント分の需要は海外で獲得しなければならない。自動車メーカーは事業の安定性を保つために為替のエクスポージャーを減らしたいと考えており、そのためには輸出はできるだけ少ない方がよい。国内販売の減少が予想されるなかで、国内生産を維持するためには輸出を一定数行う必要があるものの、こうした状況では維持するのが精いっぱいで、国内生産が増えることはないと考えるべきである。加えて、いったん海外生産に移行してしまえば、国内に戻ることはない。自動車メーカーは、生産配置の変更を長期的な視点から行っているのであり、短期的な為替の変動によってそれが左右されることはないと考えられる。
今後、日本からの自動車輸出は、世界での販売量が比較的少なく、単価が高い中高級車や、差別化された機能や性能を持ち、輸出による為替リスクを吸収しても利益を確保しやすい車両に絞られていくものと思われる。

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