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株式会社三井物産戦略研究所

停滞が続く日本の輸出

2014年2月14日


三井物産戦略研究所
欧米室
鈴木雄介


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2013年12月の貿易収支は季節調整値で1.1兆円の赤字と、2011年3月から34カ月連続の赤字となった。2007年の10.8兆円の黒字からリーマン・ショックの影響等で急減、その後、2010年に6.6兆円の黒字と一時持ち直したが、東日本大震災があった2011年から3年連続で輸出総額が輸入総額を下回る状態が続いている(図表1)。1981年から30年間続いた貿易黒字が赤字に転じた背景は何だろうか。

貿易収支は3年連続の赤字

最後の黒字となった2010年から2013年の3年間に、輸出総額は67.4兆円から69.8兆円に、輸入総額は60.8兆円から81.3兆円に増加した。この変動要因を貿易指数を使い数量と価格に分け試算してみると(図表2)、輸出総額の増加幅2.4兆円に対して、輸出数量の寄与が7.1兆円の減少、輸出価格の寄与は9.5兆円の増加となった。輸出総額は増加したものの、数量の低迷を鑑みると輸出は不振が続いているといわざるを得ない。電気機器の輸出数量が3年間で20.8%減、一般機械は9.3%減となるなど、機械機器が不振だった。輸出価格の上昇は、日本の輸出総額の5割超が米ドル建てとなっていることから、アベノミクスを背景とする円の下落が円換算後の価格を押し上げたためとみられる。
輸入総額の増加幅20.5兆円のうち、数量効果が3.7兆円、価格効果は16.8兆円だった。特に原油やLNG(液化天然ガス)といった鉱物性燃料の価格上昇が輸入総額を8.6兆円押し上げた。輸入数量は自動車を中心に機械機器が7.2%増、LNGを中心に鉱物性燃料が6.3%増となった。
ちなみに、鉱物性燃料の輸入額は10.0兆円の拡大となったが、数量効果の寄与は1.4兆円にとどまり、うちLNGの数量増が1.1兆円に相当した。2011年3月の東日本大震災発生後、原子力発電所の運転が停止したため発電用燃料の輸入額が膨らみ貿易収支が赤字に転じたとする指摘が聞かれるが、代替燃料の輸入数量拡大は輸入総額増加の一部を占めたにすぎない。むしろ世界的にエネルギー価格が上昇した影響が大きくなっている。

輸出停滞の四つの背景

見方を変えれば、エネルギー価格が下落しないかぎり、輸出数量が増加に転じないと貿易収支の赤字解消は難しい。しかし、ドル円相場が2012年11月に下落に転じて1年以上がたつにもかかわらず、輸出数量の回復は鈍い。
この背景に、大きく四つの理由が考えらえる。第一の理由は、海外生産の進展だ。例えば、完成車(乗用車+トラック、中古を除く)の2013年の輸出台数は415万台となり、2010年から4年連続で400万台前後の水準にあるが、2008年に記録した625万台と比べると210万台の大幅減少となっている。一方、日本メーカーの海外生産台数は2008年の1,165万台から2013年は1,600万台を超え輸出の減少幅を上回る増加となった模様だ。しかも、エンジンや電装品等を含めた自動車部品の輸出数量を試算すると、2007年以降はリーマン・ショックの影響で大きく落ち込んだ2009年を除きほぼ同水準で伸びが止まっている。1997年から2007年までの10年間は年率4.6%の拡大となっていたが、需要先における現地生産の進展が完成車の輸出の伸びを抑え、さらに進出先における現地調達の拡大が部品等の輸出の伸びを抑えているようだ。
第二に、日本企業の競争力低下が懸念される。電子工業における日本メーカーの国内生産比率はこの5年ほどで10%ポイント程度低下したが、加えて、世界生産額に占める日本メーカーの割合も3%ポイントほど低下したという。携帯電話(スマートフォンを含む)の世界販売台数で日本企業の製品が上位から姿を消し、日本国内でもAppleのiPhoneが市場を席巻して久しい。一方、日本からのデジタルカメラ等の輸出数量は2008年の4,282万台から2012年に2,074万台へ、携帯電話は110万台から13万台へ、液晶テレビ等は54万台から36万台へと大幅に減少した。デジタル関連製品の輸出(電子部品や製造装置を含む)は2012年末まで日本の輸出が低迷した大きな理由となった。2013年になると、携帯電話の輸出数量が34万台に、また液晶テレビ等は40万台となるなど減少に歯止めがかかる兆しが見られるが、回復は緩やかにとどまることが懸念される。
第三の理由は、海外景気の動向だ。国際通貨基金(IMF)によれば、世界の実質GDP成長率(市場為替相場ベース)は2013年の前年比2.4%から2014年は同3.1%に回復、さらに2015年は同3.4%となる見通しだ。もっとも、2004年から2007年の3%台後半の高成長と比べると見劣り感は否めない。さらに、主要商品の海外における需給について企業に尋ねた調査によると、「自動車」のように「需要超過」とする業界はあるものの、製造業全体では「供給超過」との回答が「需要超過」との回答を依然上回っている。海外景気の回復が加速すれば、現地需要が日本企業の海外生産拠点の供給能力を上回り増加、日本からの輸出を誘発すると期待されるが、まだそこまでの力強さは感じられない。
第四に、日本国内の需要回復により輸出余力が低下している品目がある。代表例はセメントだ。2013年の輸出数量は877万トン、前年に比べ96万トンの減少となった。国内生産は前年同期比244万トン増え6,170万トンと5年ぶりの水準まで増加したが、公共事業の拡大等により国内向け販売が同269万トン増加、輸出を減らして国内に振り向ける構図となっている。また、鉄鋼でも、日本国内の建築向けや自動車向けの需要が膨らみ、輸出を伸ばしにくくなっている。

輸出数量の拡大まで時間がかかる恐れ

一方で、輸出が増加した品目はある。一部基礎化学製品がその代表例だ。例えば、エチレンの輸出数量は、国内需要の低迷を背景に2009年から増加しつつあったが、2013年は87.6万トンと前年比46.8%の増加となった。エチレンに加えてパラキシレンや高純度テレフタル酸等を含む有機化合物の輸出数量は全体で前年比13.5%の増加となっており、円安が追い風になっていると考えられる。
しかしながら、米国やEUの輸出の伸びと比べても日本の停滞は際立つ(図表3)。円の下落による生産拠点の国内回帰に期待する見方があるが、いまのところ日本に逆輸入する白物家電の生産が目立つ。また日本にある生産設備の稼働率が低位にとどまっていた品目で輸入を代替する事例が見られるが、需要先における現地生産を伸ばす考え方に大きな変化はなく、日本に輸出拠点を増やすのであれば為替相場の下落に加えて一段の生産の自動化といった生産性の向上策が求められることになりそうだ。
日本メーカーの海外生産拠点が増え、さらに進出先における現地調達が拡大したことで、これまでの好況時と比べても一段と海外景気が盛り上がらないかぎり輸出は増えにくくなっている可能性が高い。輸出の足取りは当面重い状態が続きそうだ。

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