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株式会社三井物産戦略研究所

深海底に存在する岩塩層下(プレソルト)大型油田の開発動向

2013年10月15日


三井物産戦略研究所
マテリアル&ライフイノベーション室
金城秀樹


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世界の一次エネルギー需要は、2035年には172億石油換算トンとなり、2010年の127億石油換算トンに比べ、約1.35倍に増加するとIEAは予測している。同予測によると、2035年の一次エネルギー需要の約76%は依然として化石燃料であり、石油・天然ガスは、2010年比でそれぞれ約13%、約50%増である。また、原油価格については、約120ドル/バレルと高水準が続くとされている。この背景のもと高コストの探鉱・開発は進み、特に海底油田・ガス田分野では技術開発とともに進展が予想される。現在、注目されているのが、ブラジル沖、西アフリカ沖に存在する超大水深の岩塩層下(プレソルト)油田開発だ。本稿では、その開発の動向と技術的課題について取り上げる。

プレソルトとは

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海底油田・ガス田の探鉱・開発は、最初はごく浅い海域に限定されていたが、近年では水深の深い所でも行われるようになっている。水深を表す言葉はさまざまだが、米国内務省の場合は、300mより浅い海を浅海、300m以深を大水深、1,500m以深を超大水深としている。今後、浅海からの生産は北海・米領メキシコ湾を中心に減少する見込みだが、大水深・超大水深からは増産が予測されている。世界の原油・NGL(Natural Gas Liquid:ガス田で採取される原油)の生産量に対する大水深・超大水深の割合は2010年で約7%だが、2025年では約10%に増加するとされている。
海底開発の中でも、その埋蔵量が期待されているのがプレソルトだ。プレソルト(プレサルともいわれる)とは、地中の岩塩層の下にある原油・天然ガスを含むことができる、炭酸塩からなる多孔質な岩石のことで(図表1)、陸上にも海底にも存在する。従来、岩塩層が厚い場合には、探鉱の障害となりプレソルトの構造の把握が難しく本格的な開発が進まなかった。しかし、技術の進歩により構造の解明と埋蔵量の予測が進み、特にブラジルでは本格的な生産が始まっている。

ブラジル沖のプレソルト開発

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ブラジルでの主要な陸上油田は1940年代から60年代に発見されたが、それだけでは国内石油需要は賄えなかった。海底油田開発は、まず陸に近いCampos盆地から進められたが、重質成分が多く含まれることが問題であった。そのため、良質な軽質油を求めCampos盆地の南側にある、より沖合のSantos盆地で探鉱・開発を進めた。2007年、ブラジル国営石油会社(Petrobras)を中心とするコンソーシアムは、Santos盆地の沿岸から250km付近で、厚い岩塩層の下に巨大なプレソルトを発見した(図表2)。
Santos盆地の場合、水深は約2,000m、岩塩層の厚さは約2,000m以上、プレソルトは海底下約3,000mから4,000mにある。Tupiと名付けられた最初のプレソルト油田に続き、多くの大型油田が発見された。中でもFranco、Libraの可採埋蔵量は、それぞれ当時54億、50億バレルとされ、2000年から2010年までの世界の主要な発見油田の1位、2位となった。Santos盆地の成果をもとにCampos盆地を探鉱し直すと、ここでもプレソルトが発見された。これらを合わせるとその埋蔵量は莫大である。
現在、プレソルトの開発で先行しているのはCampos盆地だ。これは、水深が約1,000mから1,500mと浅く、岩塩層の厚さが約200mから700m、陸地から比較的近い約100km程度に位置する等が理由である。一方、Santos盆地において2013年10月にプレソルト鉱区の中でも最大といわれるLibra鉱区の開発権の入札が予定されている。ブラジル石油監督庁が2013年9月に発表した応札企業11社の中には、中国国営石油大手3社、仏TOTAL、英蘭Royal Dutch Shell等が含まれている。
Petrobras「ビジネスプラン2013-2017」によれば、プレソルトからの原油生産は2012年の14万バレル/日(国内生産量の7%)から、2017年には120万バレル/日(同42%)、2020年では210万バレル/日(同50%)と大幅に増産するとしている。

西アフリカ沖のプレソルト開発

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西アフリカ沖とは、アンゴラ、コンゴ、ガボン等に面する海域である。海象・気象は極めて穏やかで、米領メキシコ湾等で実証された技術が導入され海底油田開発が行われている。今、注目されているプレソルト鉱区は、水深1,000mから3,000mのアンゴラの南部沖合のKwanza、Benguela盆地である(図表3)。両盆地のプレソルト鉱区の入札は2010年に実施され、英BP、仏TOTAL等がオペレーターとして落札した。多くの試掘は2014年以降と予測されており、プレソルト開発は、まだ始まったばかりである。アンゴラは、そもそも、米国、ブラジルと並ぶ海底油田の生産国でもある。2011年の原油生産量は175万バレル/日であるが、その約80%が大水深からである。現在では北部沖合のLower Congo盆地を中心に超大水深での開発が進んでいる。今後、プレソルト開発が加われば、アンゴラの海底油田からの生産量がさらに増加することが予想される。

今後の展望と技術的課題

今後の大水深・超大水深開発では、海底パイプラインがない海域が主体となるため、 浮体式生産貯蔵積出設備(FPSO: Floating, Production, Storage, and Offloading)の役割がより大きくなる。FPSOは、海底井とライザー管と呼ばれる生産流体の輸送管で接続され、生産原油を一定量貯蔵することができる船舶だ。さらに、そこから直接輸送タンカーへ積み出しできる機能を持つ。現在、世界で稼働中のFPSOは約150基、そのうちブラジル沖が約30基、西アフリカ沖が約50基と多くを占める。FPSOを必要とするプロジェクトの数は、今後増加する見込みだ。FPSOを含めた輸送分野で日本企業の活動が注目される。
また、動向が注目される分野の一つがサブシー(Subsea)機器である。サブシー機器とは、海底に設置されるライザー管、分離機、圧縮機等だ。海底から生産された流体には、原油、ガス、水、砂が混じっているが、分離機を使用することでそれらを分けることができ、効率的に原油のみをFPSOに汲み上げることができる。ブラジル沖ではCampos盆地のMarlim(水深約900m)に、アンゴラ沖ではPazflor(水深約1,200m)において分離機が最近導入されている。また、海底井から遠く離れた生産施設へパイプラインで輸送するために流体の圧力を上げる圧縮機も需要が増加すると予測される。サブシー機器の多くは、水深3,000mでも稼動できるといわれている。今後、より深い所でも普及が進むであろう。
プレソルト開発の主な技術的課題は2つある。第一の課題は、岩塩層の掘削には通常より高度な技術が必要という点だ。生産されている陸上油田の岩塩層の厚さは数百m程度であることが多いが、Santos盆地では約2,000m以上、かつ超大水深にあり難度は非常に高い。さらに、効率的にプレソルトに到達するために掘削は真下方向のみではなく、岩塩層を斜めに掘り進む場合もある。この際にはさらに難度が上がる。
第二の課題は、超大水深からの生産だ。ライザー管は、水深が増すと管が長くなることで自重が増すとともに、海の流れで管が振動する等、生産が安定しないといった問題が起こる。このため、多くのFPSOではライザー管の長さが制約となり稼働可能な水深が2,000m程度となる。もう一つは、管の中で流体が詰まることである。超大水深の場合、海底井より回収された混合流体が長い距離を移動するため、温度や圧力が変化し、液体の一部が固体となって現れたりする等、輸送の効率が下がることが課題となる。
これらの技術的な課題を解決しつつ、莫大な超大水深の生産コストがどこまで下げられるかが注目されるところである。

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