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株式会社三井物産戦略研究所

新常態 米国のシェアリング・エコノミー

2016年3月7日


米国三井物産
新産業・技術室
伊達貴彦


Main Contents

シェアリング・エコノミーとは

米国ではシェアリング・エコノミーはもはや特別なものではなくなり、抵抗なしに利用されるようになっている。出張で空港へ向かうならタクシーではなく、一般の人が運転する車に乗って行き、出張先の宿泊はホテルではなく民宿を選択する人も増えている。その理由は既存のタクシーやホテルよりも高品質でかつ安価であるためだ。
シェアリング・エコノミーとは「空いているスペース・乗り物・モノ等、何もしなければ無駄になるものを共有することで成り立つ経済の仕組み、または共有サービスそのもの」を指す。これは決して新しい発想ではなく昔から存在しており、例えば隣人に空いている農具を借りて畑を耕すのと似ている。しかし、近年、米国で花開いたシェアリング・エコノミーはビジネスになっているという点で大きな違いがある。ITを駆使したことで、いつ・だれが・どこで・何を提供できるのか、利用したいのか等の情報をグローバルで共有し、提供者と利用者のマッチングが容易になり、今ではスマートフォンを持っていれば誰でも手軽に利用できる。
米国でシェアリング・エコノミー企業が続々と誕生している背景には、従来のサービスに不満を持つ人達が自らITを活用して新たなビジネスモデルを作ってしまったことがある。これらの企業の多くはITベンチャーが集積するカリフォルニア州で誕生している。

シェアリング・エコノミーのうねり

シェアリング・エコノミーの市場規模は2025年までに約40兆円1に達すると予想されている。代表的な企業のUber社やLyft社(ともに本社・サンフランシスコ)は前述の一般の人が運転する自家用車で空港等の目的地まで送迎する会社であるが、2016年初にサンフランシスコ最大のタクシー会社・イエローキャブを破産させるまでに成長している。タクシーは1897年にニューヨークで誕生し100年超の歴史を有するが、創業数年の新興企業に脅かされる状況にある。当初、タクシー業界からの反対が相次ぎ、UberやLyftに対しては空港への乗り入れが禁止されたり、ネバダ州では最近まで営業そのものが許可されていなかった。しかし、今ではほとんどの空港で利用可能となり、ネバダ州も2015年秋に営業を許可し、現在、全米約190都市で利用できるまでに普及している。発祥の地ニューヨーク市ではタクシーよりもUberの運転手の方が多くなっている。
また、Airbnb社(本社・サンフランシスコ)は民泊の希望者と部屋の提供者をマッチングさせるサービスの提供を開始し、ヒルトングループが93年間かけて88カ国61万部屋まで増やしたのに対して、Airbnbはわずか4年間で192カ国65万部屋を管理するまでに急成長している。
米国でも運転サービスや民泊の利用に抵抗感を持つ人は多いが、提供者と利用者を互いに評価し合う仕組みが導入されており、例えばUberの場合、評価点数がある基準値を下回ると利用できなくなる。よってサービスの質は一般なタクシーよりも総じて高く、シェアリング・エコノミーでは相互評価が品質維持の源泉となっている。また、Uberでは対人・対物の補償保険、Airbnbでは不測の事態発生時に適用可能な、ホスト補償保険やホスト保証の仕組みが整っている。Uberでは乗車ごとに1.35ドルを顧客へ課金し、Airbnbの場合は仲介料に含んでいる。自己責任のマインドが強い米国では、利用者保護よりもむしろサービス提供者(労働者)を守るための保険の整備が進んでいるといえる。

米国の注目すべきシェアリング・エコノミー

注目すべきシェアリング・エコノミーの新興企業をいくつか紹介する。

プライベートジェット:

プライベートジェットは通常、持ち主を目的地まで運び終えた後は乗客なしでホームベースの空港まで一旦戻ることが多い。この空きに注目したのがJetSmarter社である。米国ではニューヨーク、マイアミ、ロサンゼルスの3拠点間はゴールデントライアングルと呼ばれ、頻繁にプライベートジェットが飛んでいるが、このゴールデントライアングルを主に移動する顧客をターゲットにした年会費制サービス(年会費9,000ドル:2016年1月時点)を提供している。JetSmarterが提供する基本サービスは3つある。既存のフライトを最大6カ月前から一席単位で予約するJetShuttle、直前に残席があれば公開され2~5席単位で予約できるJetDeals、そして全席予約するJetCharterの3つである。JetShuttleとJetDealsは原則、年会費のみで無制限に利用可能で、JetCharterは年会費とは別に追加料金がかかる。
現在JetSmarterは、3,000機以上と契約し、2015年10月には欧州系企業と協業を発表、提供サービスの範囲を広げている。顧客はスマートフォンでフライトスケジュールの確認や座席の予約ができ、従来の一機丸ごとのレンタルとは異なり、座席ごとの利用が可能となっている。また、空港までのリムジンやヘリコプターの手配も手掛けるなど、徐々に周辺サービスも拡充している。同社の出資者はプライベートジェット保有者らで、復路は空気を運ぶだけで何も価値を生み出さなかったことを熟知していたといえる。同社はその復路をシェアすることで新たな価値を生み出そうとしている。

レンタカー:

自家用車をレンタカーとして活用する仕組みをITで構築したのがGetaround社だ。全米6都市に展開し、会員は20万人に達している。自家用車は1日のうち平均22時間駐車2しているため、その時間をレンタカーとして有効活用するというのが同社のコンセプトである。借り手は乗りたい場所等をスマートフォンのアプリに入力するだけで貸し出し可能な車の一覧が表示され、そこから選択することができる。貸し手は貸出期間や値段を登録しておくだけで、自動的に借り手をマッチングしてくれる。鍵の受け渡しは不要で専用デバイスで遠隔にて解錠を行い、懸案の自動車保険については最大100万ドルの補償を付与され、現在、1時間当たり5~50ドル程度(大衆車~高級車)でレンタルされている。
また、旅行や出張で空港に駐車する際はお金を払うが、それを無料で駐車させる代わりに、その間レンタカーとして貸し出すサービスを展開するFlightCar社も注目を集めている。持ち主は駐車場代無料に加えて、1日10ドル程度のレンタル料金を受け取り、さらに洗車されて戻ってくる特典が受けられる。一方の借り手は既存のレンタカー会社よりも安く利用できる。見知らぬ人に自分の車を貸し出すことに抵抗感はあるが、例えば5日間、空港に駐車する場合、駐車料金の100ドルを支払うよりも50ドル稼ぎ、洗車された車が戻ってくる方を選ぶ人も多いという。現在、米国12の空港でサービス提供中であり、巨大な敷地に駐車されている車の群れを見ると潜在需要は他の地域でもありそうだ。

ペットホテル:

広大な米国では近所にペットホテルがある可能性は低く、犬や猫の預かり手を探すのは困難となっている。そこで誕生したのがペットの預かり手と預け手をマッチングするDogVacay社である。アメリカとカナダで展開し、既に数百万件のマッチングを行い、登録ペットシッターの数は2万人を超えている。同社のウェブサイトやスマートフォン用アプリケーションに自宅の郵便番号を入力すると最寄りの預かり手が表示され、その家の環境や設備、利用者のこれまでの評価、価格等の情報を確認し、預け手は容易に選ぶことができる。カリフォルニア州では愛犬を預ける場合、1泊当たり40~60ドルの相場が多く、空き部屋を持つペット好きな人にとっては大きな副収入となる。預かり手はマッチング費用を同社に支払い、これが同社の売り上げとなる。

共有対象とビジネス機会

シェアリングするものとして、自家用車、家の空き部屋、別荘、プライベートジェット、自転車、服、アクセサリー、人の空き時間、預貯金さえも対象となっている。先駆者の成功により何でも共有しようと対象物が広がっているが、規模感のあるビジネスに発展するものは共有対象が高額で、稼動率の低いカテゴリーになると考えられる(図表)。安価なものであれば、手間や利便性の観点から自ら保有することを選択するためだ。また、稼働率が高ければそもそも共有しづらいため、規模拡大のためには稼働率が低いことは絶対的な条件となる。
注意点として共有対象は保有者が定常・定期的に使用していることが大前提となる。貸し出すためだけに保有する場合は既存のレンタル事業と同じである。日本では投資用マンションを購入し、Airbnbを通じてホテルのように貸し出す事例が増えているが、これは本来のシェアリング・エコノミーとはいえないだろう。このような形態はマンションの空き部屋問題の解消や臨時の宿泊場所の提供になる可能性があるが、レンタル事業に分類されるべきである。また、人の時間や預貯金もシェアリング・エコノミーの対象として述べられることが多いが、人材派遣やフィンテックとして扱われるべきであり、本レポートでは参考とする。

シェアリング・エコノミーは既存ビジネスの破壊者として注目され、時には槍玉に挙げられることが多いが、長期的に見れば決してそうではない。資産を保有して行うタクシー、ホテル、レンタカー等の従来の業態は固定需要を、資産を持たずマッチング中心のシェアリング・エコノミーは変動需要を吸収するような機能のすみ分けに本来は適しているためだ。繁忙期もしくは閑散期に合わせて設備や人を保有せざるを得ない業種では、需要変動に対応できず必然的にムリ・ムダ・ムラが生まれてしまう。それを緩和する機能としてシェアリング・エコノミーは期待できる。当然、完全なすみ分けはできず、重複する部分は出てくるが、共存しながら全体のサービスの市場規模は大きくなるだろう。
新たなビジネス形態のため、雇用問題や規制問題に抵触する負の問題も取り沙汰されているが、利用者側の強いニーズを盾に、米国では全体的に排除よりも取り入れる潮流にある。ITを組み込むことでビジネスとして開花したシェアリング・エコノミーが、国や地域に関係なくさらに広がるであろう。


  1. PwC「The sharing economy - sizing the revenue opportunity」
  2. Getaround社ウェブサイト

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