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佐藤 竜尊

ニュートリション・アグリカルチャー本部
アグリサイエンス事業部第一事業室

農薬、医薬分野のトレーディングや製造事業の立ち上げに長く携わってきた佐藤竜尊。彼が見つめているのは、サイエンスの力で世界中の農と食の産業を発展させていく未来だ。


佐藤竜尊

2017年1月、三井物産は、米農薬大手のモンサント社(Monsanto Company)から麦用農薬「ラティテュード」事業を買収した。海外の農薬業界では現在、大手メーカーの合従連衡が盛んになっている。業界の再編過程で、将来性のある農薬ブランドを三井物産が引き受けた格好だ。

環境負荷の低い微生物由来の「生物農薬」の生産が増加しているのも、近年の農薬業界の特徴である。三井物産が、2001年という比較的早い時期に米国農薬メーカーから生物農薬事業を買収し、新たにセルティス社(Certis USA L.L.C.)を設立したのは、この市場が拡大していくのを見込んでのことだった。

「農や食の産業の世界は、日々ダイナミックに変化しています。その変化に柔軟に対応しながら、自分たちのミッションが何かを見失わないようにすることが大切だと考えています」

生物農薬メーカーへの出資などを手掛ける佐藤竜尊はそう話す。入社して18年。その多くの期間、「サイエンス」と「ものづくり」の仕事に携わってきた。

20代の頃に担当したのは、日本メーカーの医薬中間体や原料の海外製薬会社向け輸出業務だった。この頃から佐藤は、日本のメーカーの実力が海外に広く知られていないのはもったいないと感じていたという。

「日本企業の技術力は高く、先進的な取り組みも多い。その力に見合ったグローバルなビジネス展開の実現に貢献したいと思いました。総合商社は、人の力やネットワークの力を使って日本の企業を世界の市場につないでいくことができます。医薬や農薬の分野でそんな仕事をしたいと強く感じました」

佐藤竜尊

その思いが実現したのは、2011年に子会社である日本マイクロバイオファーマ(MBJ)に出向してからだ。MBJは、ワインメーカーとして有名なメルシャンの医薬・化学品事業を買収し設立された企業。酒造で培った発酵技術などを駆使して、医薬品原薬や中間体、農薬製品、フードケミカルなどの製造・販売事業を手掛けている。特筆すべきは、過去数十年にわたって収集してきた6万種に上る微生物のライブラリーを所有していることだ。

大学で応用化学を専攻していた佐藤は、この会社の技術力に大いに興味を持ったという。

「味噌、醤油、酒といった発酵食品を作ってきた日本の発酵技術は、世界に誇るべきものであると私は考えています。その技術の蓄積と、微生物農薬など新しい製品を開発できる資産がMBJにはありました。この力を世界に発信していきたいと思いました」

日本企業のサイエンスとものづくりの力を、総合商社の力をもってネットワーキングしていく──。その仕事に佐藤は邁進した。それは非常にやりがいのある仕事だったと彼は振り返る。

「アメリカ西海岸からウクライナまで、世界中のさまざまな企業に足を運んで、MBJの技術をアピールしました。医、農、食に関する日本企業のサイエンスの力は世界で通用するということを実感しましたね」

2015年にアグリサイエンス事業部の所属となり、現在は、日本の農薬メーカーのものづくりをサポートする仕事に従事している。

農薬のバリューチェーンの川上には、日々研究開発に打ち込む研究者や企業の活動があり、川中にはそれを製品化し販売するメーカーがいる。さらにその先の川下には、農薬を使って作物を生産する農家がいて、農作物を「食」として享受する生活者がいる。サイエンスと農と食とを結ぶそのバリューチェーンの中で仕事をしている佐藤には、優れた技術と産業をつなげることで、農と食のさらなる発展に貢献していきたいという強い思いがある。

「ものづくり」、とりわけ発酵など特異的な技術を駆使したものづくりに関連する事業の創出を自分の仕事の基盤としながら、エンドユーザーである農家や生活者の皆さんのことをもっと意識して仕事をしていきたいと考えています。自分たちが生み出している価値が、自分が直接には目にできないところで役に立っている。そんな想像力を持つことが大事だと思うのです」

サイエンスを軸に、世界中に張り巡らせた広範なネットワークによって技術と産業と顧客とをつないでいく。それが、三井物産が持つ力、「サイエンスネットワーキング」力だ。その力が、今後も人口が増え続ける世界の農と食とを支えることになる。「サイエンスネットワーキング」を世界中に広げていく佐藤の取り組みは、これからも続いていく。

2017年3月掲載