©Natsuki Yasuda

ミスター・アホウドリ。

出口 智広さん

公益財団法人 山階鳥類研究所

1973年北海道生まれ。2004年北海道大学大学院農学研究科博士課程修了。博士(農学)。2005年から現職。主な研究分野は行動生態学、海洋生態学。2008年から小笠原のアホウドリプロジェクトを担当。

 一時は絶滅したと考えられていたアホウドリ。1951年に伊豆諸島の鳥島で生息が確認されて以来、特別天然記念物として保護活動が行われてきた。「そのかいあって、今ではアホウドリの生息数は3,000羽以上になりました」と話すのは、山階(やましな)鳥類研究所の出口智広さん。同研究所に入所した2005年から、アホウドリの繁殖地を小笠原諸島へ移すプロジェクトを担当している。「アホウドリの数は増えましたが、日本有数の活火山である鳥島は噴火の恐れがあり、絶滅が危惧されている状況に変わりはない。そこで、小笠原諸島の聟島(むこじま)に新たな繁殖地を設けることになったのです」。

 毎年2月になると、鳥島で産まれた雛をヘリコプターで聟島へ移送。雛が成長して巣立つ5月までの約4カ月間、出口さんをはじめとするメンバーが人工飼育を行う。アホウドリは、雛でも体重5kgを超す大きな鳥のため、エサを与えるのは2人がかりでも大変な力作業。さらに無人島である聟島では、プロジェクトメンバーの生活にも苦労が伴う。「聟島ではテントでのキャンプ生活を送ります。食料などの物資は、週に一度、父島から3~4時間かけて漁船に運んでもらっています。4カ月間キャンプ生活をしながらプロジェクトを進めるのは大変ですが、その分、成果が上がった時の喜びはひとしおです」。

約350km離れた鳥島から、ヘリコプターで聟島に運ばれてきた雛。この後、雛を背負って繁殖地である崖の斜面へ運ぶ。

 その成果の一つが、聟島から巣立った飼育雛の帰島が確認されたこと。「プロジェクトが始まって4年目のことでしたが、帰島した雛を見た瞬間は、感動で頭が真っ白になりました」。その後も順調に帰島は続き、今では世界初となる人工飼育による繁殖も期待されている。また、小笠原小学校やNPO小笠原クラブと共同してアホウドリの教育・普及啓発を進めるなど、地域との連携も充実。2014年には、ニュージーランドでのアホウドリの人工飼育を支援するなど、活動の成果は海外にも波及している。

 「今後は、この取り組みが、アホウドリのみならず、ほかの絶滅危惧種の保護活動へのモデルケースとなるようにしていきたいと思っています」。

【助成案件名】小笠原諸島聟島列島へのアホウドリの再導入
【助成期間】2009年4月〜2012年3月(3年)

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